峠が見えてきた時、一人の子供が複数人の男に囲まれているのが見えた。
男たちはいかにも賊であった。
ただ、囲まれている子供は見るからに、みすぼらしい。
薄汚れた着物を着て、小さなやせぎすの体で男たちを見上げている。
子供は何やら長い袋を背負っているが…あの様子ではどうせ大したものでもあるまい。
狙うのならば、もっと効率の良い相手を狙えば良い物を。
黒田官兵衛と言う男は、最小限の動きで最高の働きをする、それこそが良いと考える男だ。
だから、賊に対してもそのように思い、呆れかえったが
このままでは子供は死ぬだろう。
それは誰しも分かることで、そうしてこの場で命令を出来る身分の豊臣秀吉は
それを見過ごす男ではない。
「皆、あの子を」
守るんじゃあ!!と、言いかけた秀吉をまるで阻むように
なんの力も無く死んでいくはずの子供が、背後にいた男を押しのけ包囲から逃げる。
そうして子供は背負っていた袋を持つと、中身を出して袋を脱がし捨てた。
その一連の動作は素早く行われ
次の―中身、銃のハンマーを上げ、当り金を戻し引き金を引く動作も、また風のように早い。
たぁんっと甲高い音が鳴り、賊の一人の頭が吹き飛ぶ。
それに子供は表情を動かすことも無く、小銃に備えられた剣、その鞘を脱がして
斜め前に来た男へと斬りつけた。
「ぎ、やあああ!!」
賊の叫びが峠に響いた。
余りに予想外すぎる展開に動けない一同を置いて、子供は殺戮を繰り返す。
再度ハンマーを上げ、当り金を戻し引き金を引く。
たぁんとまた音。
「連発式?!」
驚きの声を上げたのは隣の竹中半兵衛であった。
けれどそれはもっともだ。
銃といえば単発式で、しかもその弾込め一回一回に二十、三十秒の時間がかかるというのに
あの子供の持つ銃は、それを行った様子もない。
…何者だ、あれは。
官兵衛の脳裏を様々な情報が駆けるが、該当する人物は、無かった。
そうして子供は次々に賊を殺していくと、最後の一人が倒れ込み許しを乞うのに、首を傾げ。
たぁん。
音が響いた。
賊の腹を踏みつけ、頭を吹き飛ばした子供の体に、賊の血がびしゃびしゃと降りかかる。
それを無表情で眺めおろしながら、子供は首筋をかいて
投げ捨てた袋と鞘を取るためしゃがむ。
その次に銃剣の剣を自らの着物できれいに拭いて、鞘をつけて袋にしまった。
「………えええええ…。
最後のあの賊。
あれ、多分命乞いしてたよねぇ。それを躊躇わずに射殺って。
いや正しいけど。凄い正しいけどあの子何歳?
俺と一緒みたいなもん?」
「いやーえげつないわー…」
呆気にとられる一同の声を代弁するように、半兵衛と秀吉が口々に言う。
けれど遠くにある一行に、子供は気が付いていないようで
空を見て、自分の体を見て、それから横を向いて髪をかきあげる。
そうすると、子供の顔が今まで以上にはっきりと見えた。
その瞬間に、先頭にいた秀吉がぎょっと目を見開き、叫ぶ。
「あ、ええええええええ?!」
「あ、秀吉殿」
いつかの京とは反対に慌てる秀吉、呑気な顔で反応する義子
そうして、官兵衛たちを置き去りに、彼女たちは偶然の再会を果たすのであった。