はぁ・・・・・何でクリスマスイブなんかにバイトなんて入らなくちゃいけないのよ。 私は大きなため息と共に、持っていた台拭きで怒りを込めながらテーブルを拭く。 今日は新一と付き合ってから初めてのクリスマスイブだって言うのに・・・・・。 もぅっ!店長めっ!! 私が休みたいって言ったら、「お客の大半は姫子ちゃんお目当てだから、イブに抜けられると困るんだよ。稼ぎ時だからさぁ、早々に客に帰られたらマズイだろ?給料も少しイロ付けとくからさ。彼氏には悪いけど入ってね。」だって。 そりゃ、給料がアップするっていう話は悪くないんだけど・・・それよりも新一と一緒にいたかったのに。 それを新一に言ったら、 「マジで?姫子と初めてのイブだからどっか旅行がてら泊まりに行こっかな。とか思ってたんだけど… しゃあねぇよな。いいよ、お前がバイト終わるまで用意しながら待ってっからさ。」 って、笑いながらそう言ってくれた。 ごめんね、新一。私も新一とゆっくりイブを過ごしたかったんだよ? 笑った後の少し残念そうな表情を見せた新一の顔を思い出して、少し悲しくなる。 私だって色々考えてたのに・・・料理作って、部屋にツリーを飾って。一生懸命新一に内緒で編んだ初めての手作りマフラーを渡してって・・・。 なのに・・なのに・・・何でこんなに忙しいバイトなんてやんなきゃなんないのよっ!! 感傷に浸る間もなく、次々とお客から声がかかる。 「姫ちゃ〜ん、チュウハイおかわりくれる〜?」 「あっ。はいは〜い!!すぐに持って行きますーっ!」 「姫子ちゃんっ!から揚げ注文したのまだかな?」 「え?まだ来てませんか?ちょっと確認してきますね!」 「姫ちゅあ〜んっ・・――――」 ・・・・・もぉ、うるさいっちゅうねん!! あぁぁぁ。疲れたっ!! 戦場のような慌しいバイト時間も終り、やっと帰り支度をする事ができた。 いつもよりも少し遅くなった帰り時間・・・うわぁ、新一随分待たせちゃってるよ。 私は大急ぎで身支度を整えると、カバンを抱えて店を出る。 店の外では、ダウンで身を包み寒そうにポケットに手を突っ込みながら原チャリに跨っている新一の姿。 吐く息が白く濁り宙を漂う。 「ごめんね、新一!!大分待ったんじゃない?・・・うわっ。頬っぺた冷たい!!」 私は小走りに新一の元に駆け寄り、新一の頬を両手で包む。 今まで店内で走り回っていたから火照っていた私の掌に、新一の冷えた頬が余計に冷たく感じられる。 「おぉ、おつかれさん。まぁ、待ったっちゃぁ待ったけど・・・忙しかったんだろ?イブだもんな。・・って、酔っ払いのオヤジに何にもされなかっただろうな?」 「クスクス。何もされてないよ。あ、クリスマスプレゼントだって飴ちゃんもらったけど。」 「はぁ?!何で、んなもん貰うんだよ。捨てろ!それか、俺が食う!!」 「・・・・・いや、飴やし。」 「飴でもなんでも『プレゼント』っつうのが気に食わねぇ。他のヤツにやれってぇの。何で姫子なんだよ。」 ぶすっ。とした表情をして、新一がポケットに突っ込んでいた手を私の頬に添えてくる。 その表情を見て、途端に私の顔から笑みが漏れる。――――あぁ。愛されてるなぁ・・・って。 「・・・・・何だよ、姫子。気持ち悪ぃ笑い方してよ。」 「ん?別に・・・ね、お腹空いたね。新一もまだ食べてないんだよね。」 「当たり前だろ?遅くなっても一緒に食おうって言ってたじゃねぇか。もぉ俺、腹と背中がくっつきそうなくらい腹減った。」 「クスクス。ごめんね。私も賄い出たけど、我慢して食べなかったんだよ?早く帰って食べよう!!」 エンジンのかけられた原チャリの後ろに跨ると、新一の腰に手をまわす。 「お。んじゃ、飛ばして帰るからちゃんと掴まっておけよ?」 「いえ・・・普通の速度でお願いします。」 「お前いい加減慣れろって・・・。」 ブォンブォン。と2回程エンジンをふかしながら新一がため息混じりに呟く。 そんな事言われても慣れないものは慣れないし、怖い。 絶対ゆっくり行ってよ!と、念押しすると、へいへい。と笑い声の混じった返事が返ってくる。 ・・・・・嫌な予感。 次の瞬間、猛スピードで走り出す原チャリ。 「ひゃぁぁぁぁっ!!しっ新一・・・ゆっくり行ってって言うたやろぉぉっ!!!」 |