冬の一大イベント。 そう、クリスマス。 今年の24日と25日は、去年同様バイト先の店長からどうしても店に入ってくれと頼み込まれたけれど、『受験生』と言う大きな盾をかざして、無理矢理休みにしてもらった。 大体…受験生なのに、バイトに入れだなんてどういう神経してると思う?あの店長。 まあ…そう言いながらもこうして新一と一緒に過ごしている私に偉そうな事は言えないけれど…。 12月24日、クリスマスイブの今日。 私は新一と一緒に、郊外にあるホテルに泊まる予定。 まだ私はそのホテルがどこなのかは知らされてないんだけど、そこは新一のお父さんの友人が経営していて融通が利くらしく、クリスマス間近にも関わらず無理を言って部屋を取ってもらったらしい。 しかも、格安の値段で! なにも、そこまで無理して取ってくれなくても… と、思いつつ。 その半分は、私がギリギリまでバイトの店長と押し問答をしていたから、ハッキリと返事が出来なかった事が原因だから何も言えないけれど。 だけど、本当はすごく嬉しかった。 新一と付き合い始めて1年ちょっと。 その間旅行といった旅行はした事なくて、どこかのホテルに泊まるだなんて初めてだったから、自然と心の中がはしゃいでしまう。 手を繋いでホテルまでの道程を歩く新一も、本当に嬉しそうに笑ってくれるから、ついついコチラも満面の笑みが浮かぶ。 「なぁ、姫子とこうしてどっかに旅行に来るのって初めてだよな?」 「うん。ホンマやね?1年も付き合ってるのに、旅行した事なかったなんて…」 「まあなぁ〜。姫子が土日にバイトを休んでくれりゃあ、行けたかもしんねぇけど?」 「……………ぅ」 痛い所を突いてくる。 だって、生活がかかってるんだもん…仕方ないじゃない? 最近は新一も生活費と言って自分のバイト代を全部私にくれちゃうから、助かってるんだけど。 「そ、そう言われたら言い返せないけど…新一だって最近は何かとサッカー関係の事で忙しいじゃない?」 「まあ…なぁ。俺もサッカー界では有名人だから?いたるところからオファーが来て大変よ」 そう…新一はここの所、卒業に向けて色んなサッカーのクラブチームからオファーが来ている。 しかも有名どころばかり。 それは随分前からあった事だけど、卒業を来年に控えて更に増したようにも思える。 新一自身はあまりプロと言うものに興味はないらしく、趣味程度に出来れば…と、安易に考えているみたいだけど、そうそうその関係者が放っておく筈がない。 関係者が新一を訪れる度に、何故か新一の存在が遠のいてしまうようで少し私としては寂しかったりする。 別世界の人間になってしまうかも。 私とは住む世界が違ってしまうかもしれない…と。 この先、新一がどういう進路を辿るのかは最近話してくれなくなった。 でも、どこか悩んでいる様子は見受けられる。 だからすごく心配で…すごく不安。 もしかしたら本当に新一は…… 「なあ、姫子。今日はクリスマスイブで楽しく過ごすんだからさぁ、そういうサッカー関係の話はヤメにしねぇ?」 「え?あ…うん…そ、やね」 「んな、寂しそうな顔すんなって。襲うぞ?」 「……何でやねん」 新一はそれに対してクスクス。と、笑いながら、繋いでいた手を離して私の肩にまわすとクイッと引き寄せて頬に軽くキスをする。 「ひゃっ!?もぅ…新一!!」 「いいじゃん、ホッペにチュ〜ぐらい」 「時と場所を選んでよ」 「そんな余裕はございません」 「……………」 「ってぇ!…ケツ…殴るなってば!!」 私は無言のまま制裁を加える。 もう…新一のバカ。 お陰で顔が赤くなっちゃったじゃない。 気分を取り直して新一とやって来た今日泊まる予定のホテル。 目の前に聳え立つモノに、あんぐりと口が開いてしまう。 ………もしかして、ここ? め、めちゃくちゃ高級ホテルじゃないの、ここって!! 高校生の私でも、一度は雑誌などで目にした事がある、今話題の超高級ホテル。 その前に立ち、私の心臓はドキドキと激しく高鳴ってくる。 「ね、ねぇ新一。今日泊まるホテルって……」 「そう、ここ」 「嘘…だってここ超高級ホテルで有名なんだよ?予約取るのに大変だって書いてあったよ??なのに…いいの?こんな高校生が泊まりに来ちゃっても???」 「あ〜、いいんじゃない?親父とここのオーナーとは幼馴染ですっげー仲いいからさ。俺もガキん頃は何度か家族旅行で来てたし。ここのホテルを勧めて来たのも親父だから…甘えときゃいいじゃん」 「で、でもっ…たた高くない?」 「心配すんな。半分は親父のカンパだから」 「そんな…」 半分カンパにしても、相当な金額のはず。 ――――その日は全部俺が持つ代わりに、クリスマスプレゼントは勘弁な。 そう言って来た新一に、プレゼントも去年貰ったから今年はいらないし、ホテル代とかも半分払うよ?って言ったのに新一は聞き入れてくれなかった。 ――――こういうモンは男が払うもんだ。 ……そう言って。 だけど、今、目の前に聳え立つ敷居の高そうなホテルを目の前にして、そんな新一だけに負担させるだなんてすごく申し訳なく思えてきて…… 無意識に私は自分の財布の中身を頭に思い浮かべていた。 い…いくら持って来てたっけ? 新一は戸惑う私を余所に、肩を抱いたまま臆する事もなくずいずいとホテルに進んでいく。 私はただただ新一について行くのに精一杯だった。 「姫子ぉ…んなカチコチに緊張すんなって」 「そんな事言われても…」 無理やっちゅうねん!! Home Next→ |