ほんのり恋の味
「あぁ〜ん、もぅ。こんな時間……この時間じゃロクなパン残ってないじゃない」
「わぉ!屋上って誰もいないんだなぁ、結構穴場かも」 篤はそう呟きながら両手を頭の上で交差させて伸びをする。 で、何故かその後を私がついて歩く。 一体全体ナンなの、この展開。 さっき売店の前で誘われて、1度は美佳子達と一緒にご飯を食べるからって断りを入れたのに、篤は一緒に私のクラスまでやってきて、『加奈子、今日だけ借りていい?』なんて言うのよ? 美佳子達も美佳子達だよ。それを聞いて「ダメ!」って断ってくれるのかと思いきや、超楽しそうな顔をして、『どうぞどうぞ、今日だけだなんて言わずにいつでも加奈子だったらお貸しするわよ♪』だなんて言っちゃってさ。 私はモノじゃないっつぅの!! ほんとにもぅ。美佳子達、絶対面白がってる!あの、私達を見送るいやらしい顔。 あぁ、もぅやだやだ。こんな事したって私は好きになんてならないわよ?美佳子達のご期待に添えないわよ?? 「加奈子、座れば?」 「え?あ、うん」 ボーっとそんな事を考えてたから、篤が縁に座ったのにも気付かずにいた。 私は慌てて篤の隣りに腰を下ろしてパンの袋を開ける。 「なぁ…加奈子ってさぁ、好きなヤツいる?」 「ぐはっぐほっ!……何、突然。」 篤が買っておいてくれたパンを頬張ったところで、突然そんな事を聞いてくるもんだから思わず喉をつめてしまった。 トントン、と胸を叩きながら紙パックのジュースをチュー。と吸い込み喉のつまりを流し込む。 「いないならさぁ、俺と付き合ってほしいんだけど」 「ぶーーーっ!!」 「なっ?!うわっ!!なんだよ…俺、何か変な事言ったか?」 「ぐほっ…ごめっ…だって、突然そんな事言うんだもん。びっくりして」 「そりゃ加奈子にしたら突然かもしんないけど…俺は突然じゃないから」 「……へ?」 口元を拭いながら篤の方へ目をやると、意外にも真剣な顔つきがそこにあって驚いてしまう。 「俺さ、入学式の時に加奈子を見てから可愛いなってずっと思ってたんだ。機会があれば告ろうって思ってたんだけど、中々そういう機会がなくってさ。そしたら昨日、加奈子の方から俺に話しかけてくれたじゃん?もぅ、これは行くっきゃないって決めたんだ」 話しかけたというより…私の目的はパン…だったし……。 「あのぉ…さ。そう言ってもらえるのは嬉しい事なのかもしれないけど。無理だと思うよ?」 「無理って?」 「んー。私ね、『好き』とかって言う気持ちがまだ分からないの。彼氏よりも友達と居た方が楽しいと思うし…付き合うって事がどういう事なのかも全然分からない。だから、他の子にした方がいいんじゃないかなぁ?」 「それってさ、付き合う事が嫌って訳じゃないよな?っつぅ事はチャンスはあるって訳だ。じゃぁ試しに俺と付き合ってみない?」 いや、だからね。 「無理だって。第一、付き合うって…どういう事するの?」 「ん?そりゃ、一緒に帰ったり休みの日とかデートしたり?っつぅかさ、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないの?自然とそうなっていくと思うけど」 ん〜……さっぱり分からん。 「私と付き合っても面白くないと思うよ?彼氏より友達優先するだろうし、みんなが言うようにらぶらぶー。なんて事できないと思うもん。男の子に全然興味もないし…多分無理ー」 「んな、最初から無理って決め付けんなよ。男に興味がない方が俺としては安心だし、俺だけに興味を持ってくれればいいじゃん?俺が加奈子に『好き』って気持ちがどういうものなのか教えてやるよ」 「随分な自信だねぇ。もし、『好き』って気持ちが分からなかったら?」 「んー。そん時はそん時で考える。けど、絶対加奈子は俺の事好きになると思うけど?」 「何でそんな事言えるわけ?」 「だって、俺が加奈子の事を好きだから」 |