** Kagura’s House ** −お題38「ココ、こんなに濡れてどうした?」−

お題38「ココ、こんなに濡れてどうした?」



私、志筑 里悠(しづき りゆ)。今年の春、この高校に入学したばかりの16歳です。

まだまだ中学生が抜け切らない、幼い雰囲気の私が、ひょんなことから片思い中だった、同じ図書委員の先輩、桜坂蒼斗(さくらざか あおと)先輩の「マスコット」となったのは、つい3日ほど前のこと。

本当に、この頃の私は無知だったと思う。

先輩の言う、「マスコット」の意味する事も、「チェリー」という言葉の意味も、全く知らなかったのだから。

だから私は、誰よりも先輩の近くにいられるんだってことと、先輩とキスをしてしまったことだけで有頂天になっていた。

この先、先輩によってどんどん知らない自分に変わってしまうなどと気付きもせずに。



「ねえ、理恵ちゃん。あのね、聞いてもいい?」

昼休み、私はクラスで一番の仲良しの、島田理恵(しまだ りえ)ちゃんとお弁当を食べ終えて、雑談に交えて疑問符を投げかけた。

彼女は私の言葉を受けて、何?と、綺麗な笑みを浮かべる。

理恵ちゃんは、私とは違って凄く大人っぽくて綺麗な子。

入学式の時に隣りの席だった理恵ちゃんと、何気ない会話を交わしてから、すぐに打ち解けて仲良くなった。

凄く綺麗なのにそれを全然鼻にかけてなくて、いつでも気さくに人懐っこく話してくれる理恵ちゃん。

同じ歳だけど私の目標でもあり、憧れの存在だったりする。

もちろん、そんな彼女は彼氏持ち。

その彼氏は他校の先輩らしく、一度写真を見せてもらったことがあるけれど、もの凄くカッコよくてびっくりした。

いや、理恵ちゃんなら納得できる、美男美女カップルだと思う。

いつもその彼氏とのノロケ話を聞かされるけど、大半は意味不明…曖昧に相槌を打って過ごしている。

まあ…全然理解できてないってことはバレちゃってると思うけど…

色々物知りそうな理恵ちゃんに向かって、私はゆっくりと口を開いた。


「あのね…『スレた女は食い飽きた』って、どういう意味か分かる?」

「え……」


私の発した言葉によって、一瞬にして理恵ちゃんが固まった。

ん…?私、何か変な事言ったのかな。

暫く驚いたように黙り込む理恵ちゃんに視線を向けていると、彼女は窺うように少し首を傾けた。


「ねえ、里悠…その言葉、どこで覚えたの?」

「え?どこで覚えたって言うか…」

蒼斗先輩が言ってた言葉なんだけど…


その言葉を飲み込み、適当に言葉を繕う。

なんか、先輩との事を言っちゃいけない気がして。


「里悠の口からそんな言葉が出てくるなんてびっくり。純粋な里悠には到底結びつかない言葉なんだけど…」

「え…そんなにすごい言葉なの?」

「ん〜。そこまで凄いってほどの言葉ではないけれど、里悠がその言葉を言うってことが凄い」


理恵ちゃんは、はぁ〜。と、感心するような息を吐いて、そのまま椅子に背を預ける。

そんなに凄いのかな…。と、思いながら、私は、じぃっと理恵ちゃんからの言葉を待っていた。

あんまりこういう事は里悠に教えたくないんだけどなぁ。と、呟きながら、理恵ちゃんは机に身を乗り出してくると、少し声のトーンを落とす。


「あのね…スレた女って言うのは、まあ、色んな意味があるんだけど、経験豊富な女の人って意味」

「経験豊富?」

「そう、エッチとかのね…」

「なっ!?」

その言葉を聞いて、瞬く間に私の頬が真っ赤に染まる。

「で。食い飽きたって言うのは…分かりやすく言うと、そういう女の人達とエッチするのに飽きたってことよ」

「ひっ…」


ひえぇぇぇっ!?

そっ、そんな意味だったなんて、ちっとも知らなかった…

って、ことはなに?蒼斗先輩って、そんなにいっぱい色んな人と、その…エッチをしてるって事!?

うっ、うっ、嘘おぉぉぉっ。信じられないぃぃぃ。

だって、だって、高校内での先輩の噂って、凄く真面目で硬派だって。

告白しても全然OK貰えないぐらい、ガードが固いって噂なのに…。

なのに、実は先輩はそういう人だったって事?

先輩から発せられた言葉の意味を知って、私は頬に熱を感じながら、ボーっと宙を漂う。

そんな時だった…


「志筑さ〜ん…」


と、教室のドア辺りからクラスメイトの声が聞こえ現実に引き戻される。

私は慌てて、はい。と、返事をして立ち上がり、ドアの方へ顔を向けた。


「図書委員で一緒の桜坂先輩。委員会のことで話があるんだって」

「えっ!?」


あ、蒼斗先輩が?


先輩の名前を聞いただけで、ドクンっ。と、高鳴る私の鼓動。

つい今しがたまで考えていた事は、瞬時に私の頭の中から消え去った。

きゃー、桜坂先輩だぁ。とか、私も図書委員になればよかった。などと言う、女の子たちの小さな悲鳴を聞きながら、私は理恵ちゃんに、ちょっと行ってくるね。と、声をかけてから、駆け足で廊下に出る。

教室のドアから少し離れた階段の踊り場付近で壁に背を預けて待っている、蒼斗先輩の姿が視界に映る。

ホントに蒼斗先輩だ…

ドキドキと高鳴る鼓動を抑えるように、胸元を押さえて先輩に駆け寄った。


「あ…あのっ。委員会のことって…」

「今日の放課後は予定あるのか?」

蒼斗先輩は、私の言葉を無視して、畳み掛けるように、私の声に被せるように、少しトーンを下げて呟く。

「え?」

放課後の予定って…委員会の話じゃないの?

「あるなら断っとけよ」

「あの…?」

「今日、一緒に帰ってやるよ。特権としてな」

「えっ、えっ!?あのっ…嘘っ…ホントですかっ?」

「あぁ。だから放課後、学校の裏門から出て暫く歩いたところに公園があるからそこで待ってろ。ただし、このことは誰にも言うなよ?それと、誰にも見られないように気をつけろ。分かったな?」

「はっ、はい!分かりました!!」


うそ、うそっ!?信じられないっ!!

先輩と一緒に帰れるなんて、夢みたいだ。

しかも、直々に誘いに来てくれるなんて感激だぁ。

特権って、やっぱり凄い!

マスコットになるって言ってよかったぁ。

などと、満面の笑みを浮かべて浮かれていた私。

そんな私は、この様子を見ながら片方の口の端を、ニヤリと意味深に上げた先輩の表情に気付く事はなかった。



誰にも言わず、誰にも見られないように、注意を払いながらやって来た先輩に指定された公園。

学校の表門に面した通りに最寄の駅があるせいで、滅多に裏門を使う生徒はいない。

しかもここは学校から随分離れた場所。

私がここに来るまでに生徒の姿を見かけることは無かった。

公園のベンチに座り、心躍らせながら待っていると、程なくして先輩が姿を現す。

スラッとした長身、端整な顔立ち。一際目立つその容姿は、遠めに見ても目を奪われる。

その姿に見惚れて、ボーっとしてると、先輩がため息混じりに言葉を吐き出す。


「なに、ボーっと座ってんだ。俺の姿が見えたらすぐ来いよ」

「えっ…あ、はっ、はいっ!すいませんっ!!」


私はその言葉に弾かれたように立ち上がり、小走りに先輩の元へ駆け寄る。

いつだって、誰に対しても優しい笑顔を向ける先輩。なのに、私と2人の時は先輩の表情がどこかしらいつもと違う。

言動だって、なんていうか…強引?な、感じがするのは私だけだろうか。

そこはかとなくそう感じながら、あと少しで隣りに並ぶというところで、先輩は何も告げずに歩き出した。

先輩が一歩足を出すと、私は二歩分足を出す。

足の長い先輩の歩幅と、背の低い私の歩幅は随分違って、どうしても先輩に速度を合わせようとすると小走りになってしまう。

先輩のあとをチョコチョコとついて歩いていると、クスクス。と、前を歩く先輩が小さく笑った。


「子犬みたいだな…」

「…へ?」

「さっきの駆け寄ってきた姿も、今の後ろをついて歩く姿も…クククッ。子犬みたいで笑える」

「子犬…ですか」


可愛いってことかな…

なんて照れ笑いを浮かべていると、


「首輪つけて、鎖に繋いで、散歩したい気分」


と、楽しそうな先輩の声が返ってきた。

それって、どう解釈したらいいんだろう…か。



何も考えずに先輩について歩いてるけど、どこに向かっているんだろう。

ふと、そんな事が頭に浮かぶ。

駅とは全く反対の方向に随分と歩いている気がする。

現にココは隣町だし。

車線の広い国道沿いを歩き、先輩はどこかへ向かって歩いているようにも思える。


「あの…先輩?どこに向かってるんですか?」

「今日の特権をやる為の小物を仕入れに、ちょっとな…」

「え…特権って…一緒に帰ってくれることがそうなんじゃないんですか?」

「まあ、コレは。オマケみたいなもんだな。メインはこれから。楽しみだろ、里悠」


そういって、綺麗な笑みを浮かべる先輩の表情が、やっぱりどこかしら意地悪く見えるのは気のせいだろうか。

そう、一瞬過ったことは、先輩の口から出た自分の名前に胸を高鳴らせた私の中からすぐに消えうせていた。

蒼斗先輩、2人の時は本当に「里悠」って名前で呼んでくれるんだ。

私も先輩の事、「蒼斗」って呼べるかなぁ…って、考えただけでドキドキしてきた。


先輩が向かった先は百貨店だったものの、足を向けた場所が私にとって予想外なところだった。

女の子の私がたじろいでいるのに、先輩は臆することなくショップの中に入り、どんどん奥へと進んで行く。

えっ、えっ!?ちょっ…このお店って…なんで?どうして??先輩は何を仕入れるつもり???

うろたえながらあとをついてきた私に、先輩は目の前の陳列されているモノを見上げて指さした。


「どれにする?」

「えっ!?」

どっ、どれにするって言われても…

「とりあえず、今日は俺が一組買ってやるよ」

「買ってやるって…あの…なんで…」

「俺のマスコットになったからには、チェリーの下着は卒業してもらわないとな?」


そういって、先輩は数あるうちの一つを手に取り、これにしとくか。なんて、平然と差し出してくる。

え、え、えぇぇぇっ?!ど、どういうこと??

マスコットになったことと、下着と、どういう関係があるの??

しかも、しかもっ!どうして先輩は、そんなに平然としていられるのぉぉっ!!!?

今まで手にしたことのない、色とりどりの様々なデザインの下着に囲まれ、先輩の様子にもプチパニックを起こす私。

その上先輩は、更に私をパニックに陥らせる行動を取ってきた。


「里悠のブラのサイズは……Bだな、これは」

「☆◎▽X※っっ!??」


極々当たり前のように、肩をポンと叩くのと同じような気軽さで、先輩の手がブレザーの中に入ってきて、私の胸をシャツの上から、クイッと掴む。

私は驚きのあまり言葉を発することが出来なかった。

なっ…なっ…なにされたの、今?

先輩に胸…触られた?しかも…なんでブラのサイズ分かっちゃうの!?

私はもう。なにがなにやら分からなくなっていた。

真っ赤な茹ダコのような顔をして、放心状態の私の横を、クスクス。と笑いながら通り過ぎ、先輩は一組の下着を持ってレジに向かう。


「行くぞ、里悠」

未だ放心状態のままの私に、レジを済ませた先輩はそう声をかけると、さっさと自分は店を出て行く。

「えっ…あっ、はっ、はいっ!!」

私は慌てて先輩を追って、小走りに店を出た。


「里悠…コレ、そこのトイレで履き替えてこい」

「え゛っ!?」

先輩は、暫く歩いてトイレの表示を見つけると、そんな言葉と共に振り返り、先ほど買った袋を差し出してくる。


履き替えてって…嘘でしょ?


「聞こえなかったか?履き替えて来いって言ったんだ」

「いや、あの、でも…」

あんな大人な下着…着けたことないし…

「言っとくけど、お前に拒否権はないから。俺が言う事は絶対だ。歯向かう事は許さない。いいな?」

「そっ、そんなぁ…」

「お前はあの時点で、俺と契約を結んだんだ。俺のマスコットになるっつってな。俺は、契約通り特権をやってる。文句を言われる筋合いはないだろ?」

「で、でもっ…」

「嫌ならいいぜ?今すぐにでもやめてやっても。代わりを見つけるだけだ」


その言葉に、ドクッと胸が痛む。

やだ…代わりを見つけるだなんて。

折角蒼斗先輩と、こんな近くで接する事が出来てるのに、それを他の子に換えるだなんて絶対に嫌だ。

どんな形でもいい。私は特別でいたい…蒼斗先輩の…


「あの…履き替えてきます…」
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神楽のつぶやき…

すみません…今回カナリ、先輩がブラックですよねぇ(汗)
こんなキャラお初かもしれない(苦笑)
うわー。ドン引きされなきゃいいけれど……うほほ〜い。
こんなブラック蒼斗も好きだぞ〜って仰ってくださる方。
次ページまで今しばらくお待ちを…
あの…決して変な趣味はないですので、蒼斗。
念のため(笑)
H18.8.8 神楽茉莉

お題提供 :

萌エロ同盟!様