私、志筑 里悠(しづき りゆ)。高校1年の16歳。 ひょんなことから先日より、桜坂蒼斗(さくらざか あおと)先輩のマスコットになってしまった子羊です。 蒼斗先輩は、2つ年上で高校3年生。 誰に対しても優しくて、背も高くてカッコよくて硬派なイメージの蒼斗先輩。 そんな彼は、もちろん学校内では超有名人。 学校内の殆どの女の子が彼に憧れを懐いていると思う。私もその内のひとりだったし。 蒼斗先輩に恋をして、彼みたいな男の人が彼氏だったらいいなぁ〜なんて、ほのかな想いを懐いていたけれど… それはもしかして間違いだったんじゃないだろうか…と、ほんのちょっぴり。 本当に、ほんのちょっぴりだけど、最近そう思うときがある。 だって、私が恋心を懐いたのは、優しくてカッコよくて硬派なイメージの先輩で。 今、目の前にいる先輩とは……遥かにイメージが… 「────…里悠?この間買ってやった下着のセット、約束どおり今日着けてるよな」 この前連れてこられた、先輩のお父さんが以前使っていたという工場にやってきた私たち。 2階の事務室のような部屋に入ってソファに腰掛けた先輩が、開口一番にそんなことを聞いてくる。 ふと脳裏に先日の出来事が蘇った。 先輩が買ってくれた下着をつけて、ワケも分からずこの場所についてきて 私の予想を遥かに超えた特権で気を失って……放心状態で帰ったあの日。 別れ際、先輩が耳元で囁いた言葉が耳から離れなかった。 ────まだまだこれからだぜ、里悠…楽しみだろ? どうなっちゃうんだろう、私。って思った。 先輩の言う「特権」って言葉に、ホイホイと尻尾を振って飛びついてしまった私だけど… 自分がどんどん変わってしまう気がするの…先輩からの特権によって。 でも、戸惑いながらも先輩の近くにはいたいワケで。 昨日の夜に先輩から送られてきたメール…『明日、あの下着必ず着けて来いよ』という要求に素直に従って、今ここにいる私がいる。 「は…はぃ…」 耳まで真っ赤に染め上げて俯く私を見て、蒼斗先輩は、クククッ。と、含み笑いを漏らす。 あー、やっぱり。2人きりになるとイメージがガラリと変わっちゃうのね。 さっきまで他の委員の人たちと図書室にいたときには、クスクス。って綺麗な笑みを浮かべて優しく笑っていたのに。 あきらかに目の前で笑っている先輩の笑みには、「意地悪」なものが宿っている。 これは、決して学校では見ることのない先輩の裏の顔。 それは今は、私だけが知っている先輩の…素顔? 先輩のマスコットになるという契約を結んだから見れるもので、所謂「特別」なものだけど。 なんかこの「特別」は、知らなかったほうがよかったんじゃないんだろうか。 なんて思ってしまう。 「お前さ、そんなエロい顔して今日一日学校にいたのか?」 「えっ…エロいって…そそ、そんな顔っ…」 「してるぜ?あの下着つけて、あの日俺に弄られたことを思い出してたりしたんじゃねえの?…ククッ。授業中とかさ」 「あ…ぅ…」 なんでバレてるんだろう…。 確かに今日一日、体がソワソワして落ち着かなかった。 いつもと違う下着。紐状になった布の部分がことあるごとに敏感な部分を刺激して。 その度に先輩に触れられたことを思い出していた。 私ってば、エッチぃーっ!と、思うと益々変な気分になっちゃって。 なんか…どんどん変な方向へ進んでいる気がしてならない今の私。 でもやっぱり先輩の「特別」でいたいという思いのほうが強いから、私はそれを考えないようにしていた。 「あははっ!その顔…ご名答ってとこ?クスクス…エロい女」 「そっ、そんなぁ〜…」 先輩の言葉に途端に恥ずかしくなって、泣きそうになりながら俯くと、おかしそうに笑う先輩の声が部屋に響く。 ……そんなに笑わなくてもいいのにぃ。 「泣きそうな面してんじゃねえよ。俺がそうなるように仕込んでんだから悦べって。俺好みの女になるようにしてやってるってことだぞ?」 「先輩…の?」 「そ。エロ〜い女になるように、ってな?」 ニヤリとした笑みを浮かべる蒼斗先輩。 そこには爽やかなイメージは微塵もなく、逆に綺麗な顔ゆえに色っぽさが倍増で艶かしい。 蒼斗先輩って…もしかしてエロ大魔王ですか… その言葉を寸前のところで飲み込み口を噤んでいると、ソファに座る先輩が長い脚を組みかえる。 「ところで。今日の特権…なんだと思う?里悠」 ……全くわかりません。 なんだと思う?なんて聞かれても、全く私には想像ができない。 濃厚なキスだって、前回のこの部屋での出来事だって、私の想像を遥かに超えるものばかりで、ただただ先輩に翻弄されるだけだった。 ただ今の私にわかることは、この先の特権を与えられると、また自分が知らない自分に変わってしまうということだけ。 先輩の言うように、また一つエロい女になってしまう。ってこと。 それでいいの?って少しは思うけれど、それでも私は先輩の近くにいたいって思うから。 学校での先輩とは真逆のような姿を見せられても、先輩の特別でありたいと思う私は、やっぱり蒼斗先輩のことが好きなんだろうな、って思う。 ううん。逆にこうして私にだけ見せてくれる先輩の姿があるから、益々好きになっているのかもしれない。 そう思う私って変…なのかな。 先輩の問いに対して答えを出せずにいると、暫くの間をおいて先輩が、その前に。と、零す。 「キス…」 「え…」 「もー、いい加減できんだろ?ココ、跨って座ってやって」 そう言って、先輩は組んでいた脚を解くと、ポンポンと自分の脚を軽く叩く。 ひぇーっ!まっ、またですかっ?! また私からあの大人なキスをしてこいと? しかも、しかも!先輩の脚を跨いで座って?? そんな…無理だよ。絶対、無理ぃ〜〜〜っ!!! もー、いい加減って言っても、まだ3回目だよ?そんなに容易く出来ることじゃないってぇ!! と、抵抗してみたくても出来ないことはわかってる。 きっと私が、無理です。って言ったら、じゃあいいよ、他探すから。って言われるに決まってる。 そっちのほうが嫌だ。 私が先輩のマスコットなんだもん…私が先輩の特別なんだもん。 他の子が先輩の特別になるのはやっぱり嫌だから… 私はグッと胸元を握り締めて決意を固めると、ゆっくりと先輩に近づいていく。 その様子に満足そうな表情を浮かべて、先輩は背中をソファーに預けた。 頬を紅く染めながら先輩の肩に手を添えて、俯き加減で彼の脚を跨いで座る。 そっと顔を上げると間近に見える蒼斗先輩の綺麗過ぎる整った顔。 やっぱりカッコいい…めちゃくちゃカッコいいよぉ。 近ければ近いほど当然のことながら、どアップに映る先輩の顔。 視界いっぱいに映る、その先輩の綺麗な顔に暫し見惚れていると、はやくしろよ。と、先輩の催促する声がする。 その声に押されるように、あ、すいません。と、慌てて我に返ると、ゆっくりと体を倒して先輩に顔を近づけていく。 前回まで慌てふためいていた私にも、3回目にして少し彼の様子を窺うという余裕ができていたみたい。 重なる直前まで絡まっていた先輩との視線。 その、真っ直ぐに私を見る先輩の瞳が、重なる直前にゆっくりと伏せていく。 少し傾く先輩の顔。伏せられた瞳から伸びる長い睫毛。 その姿が凄く色っぽくて、ドキドキと胸が激しく高鳴る。 自分も目を閉じ、重なった唇から伝わる先輩の柔らかい唇の感触と温もりに、更に鼓動は加速する。 はぁ…ダメ。キスだけで死んじゃいそう… 頭の半分でそう思いながら、もう半分では先輩を失望させたくない。なんて思ってる自分がいて。 だから、まだ少しぎこちないけれど、前回までの先輩とのキスを思い出しながら必死で実践に移してみた。 上唇と下唇を順に唇で挟み込み、チュッと音を立てて軽く吸う。 少し私が顔を傾けると、先輩の顔が反対側に少し傾く。 完全に唇が重なって、僅かに開いたところからチロっと舌を出して先輩の口内を彷徨わせる。 と、すぐに絡み付いてくる先輩の熱い舌。 2人の舌が絡みあい、口元からいやらしい音が漏れている。 息が次第にあがってくる。体が熱く火照ってくる。頭が真っ白になっていく… 「随分上達したじゃん…里悠…」 キスの合間に言われた先輩のその言葉が嬉しくて、でもちょっぴり恥ずかしくてはにかむと、フッと笑みを鼻から漏らして再び先輩の唇が重なる。 褒めてもらえた…蒼斗先輩に。 随分上達したじゃんって。すごく嬉しいかもしれない。 その言葉に浮かれて、先輩とのキスに酔いしれて、頭がボーっとしてきた頃、先輩の唇がゆっくりと離れていく。 そしてもう一度軽く唇を合わせてから、先輩が視線を合わせてきた。 意味ありげな視線…と、口元にニヤリとした笑みを乗せて。 「今日の特権……今からお前の身体、舐めてやるよ」 「………へ…」 ナメル…?………って… えぇぇぇぇっ!!! なっ、舐めるって…私の身体を?!えっ、えっ!?えぇぇぇっっ!!! キスによってボーっとしていた頭が一気に覚めた。 「だっ、誰がですかっ」 「俺が」 「なっなっなんで先輩がっ?!」 「それが今日の特権だから」 文句ある?とでも続きそうな彼の言葉に眩暈を覚える。 私の身体を舐めるって…どこの部分を舐めるというのっ? その疑問は先輩の次の言葉によってすぐに解決されてしまった。 「脱げよ、ブラウス」 「えっ!?脱げって…なっなんでですかっ」 「は?舐めるから」 「どっどこを〜〜〜っ」 「身体だっつってんだろ…主に胸とか?その周辺とか下にいって…」 途中から気を失いたくなった。 先輩の言葉はあまりにも生々しすぎる…。 「ほら、早くしろって。時間がなくなるだろ」 「いぃっ、今ここでですかっ?」 「そ。今すぐここで」 「そんな…む…」 「できねえとか言うなよ?…」 あぅっ……言おうとしてました。 すかさずそう言って言葉を遮ってくる先輩の声に、思わず口を噤んでしまう。 「…前にも言ったと思うけど、お前に拒否権はない。俺の言うことは絶対だって言ったよな?それでも無理とか言うなら……」 「わーっ!いっ言いません。ぬぬ脱ぎますっ、今すぐここで頑張って脱ぎますから!!」 先輩の口からその先の言葉を聞きたくなくて、私は慌ててそう遮る。 先輩はそれに、そ?じゃ、頑張って脱いで。と、少し笑いながら背中をパフッとソファーに預けた。 蒼斗先輩の脚の上に跨って座っている今の私。 その私を少し見上げるように、ソファにもたれながらジッと見ている蒼斗先輩。 あぁ…とんでもないことを言ってしまった。 先輩の目の前で…しかもこんな恰好であんな下着を着けているのに脱ぐなんて…。 しかも脱いでしまったら先輩に、あんなところやこんなところまで舐められてしまうなんて〜〜〜っ! 私は湯気が出そうなほどに顔全体を真っ赤に染めて、ふぅぅっ。と震える息を吐き出しながらそっとブラウスのボタンに手をかけた。 |