最近、蒼斗先輩がなんか変だ。 以前にも、あれ?と思うことがあったけれど、それは記憶にも残らないほど些細なことだった。 だけどここ数日の先輩は、鈍感な私でさえ気づくほど以前とは何かが違う姿を度々見せる。 なにが?と、言われると説明できないけれど絶対変だ。 態度? 言葉遣い? 醸し出す雰囲気? よくわからないけれど、何かがおかしい。 そう思い始めたのは多分、あの青木先生との事があった辺りからだと思う。 私にとって衝撃的な出来事。 あの事を思い出すと今でも気分が少し落ち込む。 あのあと、青木先生と蒼斗先輩の間で話し合いなどが持たれたのか私は知らされていないからわからないけれど、どうやら先生の狙いは見事に外れて不発に終わり事なきを得たらしかった。 もちろん、先生の企みが何であり、それが不発に終わったことや、私が先生の計画を潰してしまったということなど私自身は知る由もない。 青木先生とは、あれから一度も会っていない。 もともと先生は2年生の英語の担当だったから授業で会うこともないし、廊下で偶然すれ違うことすらなかった。 噂によると、引越しの準備や手続きなどに忙しく、学校には引継ぎの業務にのみ来るくらいで殆ど顔を出していないのだという。 あんな衝撃的な出来事があっただけに、出来ることなら先生とはこのままずっと出会わずに済んで欲しいと願っていた。 だけど、青木先生が教師をやめてこの学校を去る日、わざわざ彼女は私のところまで最後の別れの挨拶とやらを言いにやって来た。 もちろんそれは、別れを惜しむようなしみじみとしたものではなかったけれど。 「あなた、よほどのおバカさんなのかしら?」 「え…?」 「私があれほど忠告してあげたのに、まだわかっていないようね。 もっと自分の身体を大切にしなさいって言わなかったかしら?もっと幸せになれる恋愛をしなさいって言ったはずよ? なのに、どうしてそれをしようとしないのかしら」 「あの…」 「あなたみたいに穢れをしらない純粋な子には、あの子を扱うことなんてできない。 結局最後は捨てられて泣かなきゃならないのはあなたなのよ?一時的な感情だけで間違った方向に行っては駄目。 いくら改心したように見えても、元々の性格なんてそんな簡単に変われるものじゃないの。 これは、あの時のように嫌がらせで言っているんじゃないのよ? いち女の先輩として忠告してあげてるの」 私の言いたいこと、わかるわよね?と、青木先生が鋭い視線を向けてくる。 私はそれにどう反応していいのかわからずに、ただ俯くことしか出来なかった。 「この前のことは、私もやりすぎだったと後悔してるわ。 いくらあの子の態度が気に入らなかったとは言え、あなたを巻き込んでしまったことは大人として失格よね…でも、忠告すべき点は間違っていないと思う。 ねえ、一つ聞くけど、あなたは私みたいにセックスを遊びとしてなんて考えられるの?」 「セッ?!!」 青木先生の口からサラリと流れ出た言葉にびっくりして、思わず素っ頓狂な声と共に顔が瞬く間に紅く染まっていく。 もともと何も知らない無知な私だったけれど、先輩からの特典や友達の会話などを聞いたりしてそれなりに知識はついてきたと思う。 だから、セックスというものが如何なるものなのか。 どんな風に行われるのか。 初めて聞いた時は卒倒するほど衝撃を受けたけれど、今は理解できているし、それなりに受け入れられていると思う。 その話をする時の、みんなの顔がとても幸せそうだったから。 やっぱり、好きな人と結ばれたいよねぇ。というみんなの意見に賛成できたから。 今は、私も早く先輩と結ばれる日が来ないだろうかという期待さえ持っている。 こんな事を考えるようになった自分に驚いたけれど、きっとこれは自然の流れなんだよね? 好きな人と、いつか結ばれることが幸せなんだって。 そう思っていたから、先生の言葉が凄く衝撃的だった。 セックスを遊びで考えられるの?なんて。 それに…“セックス”なんて言葉をサラリと言えちゃうなんて、大人だぁ。と思っている私はやっぱりまだまだ子供なんだろうか。 先生の言った言葉にたじろいでいると、考えられないでしょう?とでも言うように彼女が少し笑う。 「あなた達の年頃だったら、好きだからエッチする。って感覚なんでしょう?でもね、色々と経験をしていくと例え気持ちが伴っていなくても簡単に割り切って体の関係が持てちゃうようになるの。 確かに、好きな相手としかしないという人間もこの世には沢山いるでしょうけれど、あなたが慕う桜坂先輩はハッキリ言って前者よ? 気持ちがなくても簡単に誰とでも寝ることが出来る。それはあなたもわかってるわよね?」 「それは…」 わかっています。と、私は力なく頷いた。 あの日、蒼斗先輩の口からハッキリと聞いたから…先輩がどんな人で、どういうつもりで私に近づいたのかって。 最初から薄々はわかっていた。 先輩に気持ちがないってことも、面白がっているだけだってことも。 だけど、私は先輩の傍にいられるだけで幸せだったし、先輩と過ごす時間はそれだけでいっぱいいっぱいだった。 先輩がどう思っているかなんて関係なかった。 ううん、考えもしなかった。 ただ、先輩の“特別”でいられることだけで満足だったから。 ――――お前にマスコット契約を持ちかけたのも、ちょっとした思い付きの遊びのつもりだった 正直言って、先輩の口から告げられたあの言葉はかなりショックだった。 そうかもしれないと思いながらも目を瞑ってきたことを、ハッキリと言われてしまったのだから。 だけど、それを聞いても私は先輩の傍にいたいと思った。 たとえ複数の中の一人だとしても、遊びでもオモチャでも構わないとさえ思った。 その気持ちは今でも変わらない。 自分がどれほどバカなことを言っているのかわかっているけれど、気持ちに嘘はつけなかった。 「はあ…恋は盲目って良く聞くけれど、典型的なタイプね、あなた。どうなっても知らないわよ? 桜坂蒼斗を知る女として最後の忠告をしに来てあげたけれど無駄足だったみたいね…」 「青木先生…」 「先生はやめて。もう、私は教師じゃないから。 まあ、もともと私は教師になる資格なんてなかったのよね…生徒と関係を持っちゃったし、私情を持ち込んであなたのような幼気な生徒まで巻き込んじゃったんだものね。 あの子の言うとおり最低な教師よ、私は」 人間的にもかしら?と、自嘲気味に笑う青木先生に、私は何も声をかけることが出来なかった。 もしかしたら、先生も本気で蒼斗先輩の事を好きだったのかもしれない。 だからこそあんな行動を取ってしまったんじゃないだろうかと心の中で思っていた。 「本当は、あの子がどんな男なのかをあなたにバラして、こっ酷くフられて最低な男だと罵られればいいって思ってたんだけど…とんだ計算違いだったわ。 まあ、そんな事を考えた私もバカだけど、あなたもほんと、おバカな仔羊ちゃんね。 せいぜい最後の砦だけは崩されないように頑張りなさい?ま、あなたには無理だと思うけれど…って、もう崩されちゃった後かしら?」 「え…と…?」 先生の言っている意味が最後のほうはわからなかった。 最後の砦って何? 崩されるって?? わけがわからないと首を傾げる私の様子に、青木先生はちょっとおかしそうに笑う。 「あははっ!意味がわからないって顔をしてるわね。 わかりやすく言えば、最後までエッチしたの?って意味よ。 桜坂君と一つになれたの?って言ったほうがいいかしら?」 「なっ?!…えっ!!…はっ!!?…ひっ…一つにって…」 瞬く間に顔が真っ赤になっていくのがわかった。 先生はその私の反応に、少し切なげな笑みを見せた…ように私には見えた。 「その反応…やっぱりまだみたいね。 処女だからってわけでもなさそうだし…あの子、それだけ本気だって事なのね」 「え…?」 最後、先生の声が聞き取り辛くてそう言って聞き返したけれど、先生は同じことを言ってはくれなかった。 その代わりに返ってきた衝撃的な言葉。 「ま、セックスするときは、必ずコンドームを着けなさいってことね。 間違っても中出しなんかさせちゃ駄目よ? あいつ、安全日だと知るとすぐに中に出しちゃうから」 「はっ?!コッコンド…!!なっ…中だし??!」 ナカダシ…って、一体なに?! 聞いたことがある気がする…でも、なんだったっけ? いつ聞いたんだっけ?? しかも、安全日ってどんな日なんだーっ!! セックス…コンドーム…中出し…安全日…ダメだ、頭がパンクしそうだ。 あなたにはそんな非道なことをしないとは思うけど?なんて意地悪く言う先生の言葉なんて全く耳に入ってこなかった。 あまりの衝撃に目を白黒させながら口をパクパクとさせている私に、先生は再びおかしそうに声を立てて笑いながら、何を思ったのか急に私の頬をムギュッと軽く抓ってくる。 全然痛くはなかったけれど、突然の刺激に私の体がビクッと震え目が見開いた。 「悔しいけれど、あなたに蒼斗を譲ってあげる。でもこれは、あなたにだから許してあげるのよ? あいつの事、しっかり見張っていなきゃ駄目よ?それと、私みたいな女になっても駄目。あなたはそのままの姿で、しっかりあの子の心を掴んでいなさい」 ……え、どういう意味? その答えも青木先生の口から聞くことは出来なかった。 結局わけがわからぬまま、疑問も解けぬまま青木先生とはその後会うこともなく、数日後に外国へ旅立って行ったという噂だけ耳にした。 今頃、青木先生は異国の地でどうしているんだろう。 英語の教師だったから会話には不自由しないとして、どんな生活を送っているんだろう。 旦那さんがいても、また違う誰かと関係しているのだろうか。 簡単に割り切って、体の関係を今も誰かと持っているんだろうか。 お互いに気持ちがないのに体だけの関係を持つなんて…。 セックスが遊びだなんて…。 そんな事をして何になるんだろう。 どういう気持ちなんだろう? 私には考えられない。 想像もつかない。 そういった事に疎い私だけど、少なくとも自分の気持ちが伴っていなければきっとそんな事は出来ないと思う。 好きだからこそ結ばれたいと思うんだろうし、好きじゃなきゃ幸せにもなれないと思うんだけどな…って、これは半分理恵ちゃんの受け売りだけど。 もっと大人になれば、青木先生の言うことも理解できるようになるのかな… それがわかるようになれば、もっと蒼斗先輩に近づけるのかな… きっとまだまだ成熟しきれていないから、あの時先輩は私のハジメテを貰ってくれなかったんだよね。 あの時は、色んな感情が入り混じって頭が混乱していたから、全ての会話を覚えているわけではないけれど、いくつか覚えている言葉もある。 飽きるまで傍にいてもいいと言ってくれた先輩。 私が望むなら、何度でも抱いてやると言ってくれた先輩。 だけど未だに先輩は、私のハジメテを貰ってはくれない。 どうしてなんだろう…それが先輩の目的だったはずなのに。 あの時、何か重要なことを言われた気がするけれど、そこを覚えていないから痛い。 それに、最近の先輩の様子も気になるところだ。 悪いほうの予感がしないから、取り立てて気にはしていないんだけど、ふとした時に感じる違和感。 それが何なのか、私はまだ掴めずにいた。 「――――…ゆ?…りゆ?…里悠!」 「えっ…あ、あ!はっはい!!」 「さっきから呼んでんだろ、なにボーっとしてんだよ」 「すっ、すいません…ちょっと考え事を…」 いつもの工場2階にある元事務室で、せっかく蒼斗先輩と二人きりでいるというのに、暫くトリップしていたらしい私は、先輩の声でハッと我に返る。 目の前の先輩は私の返事を聞いて、ほんの少し訝しげに眉を寄せた。 「なに、考え事って」 「え?あ…いや、大したことじゃないんです。その…数学?の小テストが今度あるからどうしようかなぁって…全然得意じゃないんで、心配で…」 青木先生のことを考えたりしていた。なんて、言ってはいけない気がして思わず適当に言葉を繋ぐ。 それを聞いた蒼斗先輩の表情が、今度は若干険しいものに変わった。 「俺と一緒にいるときに、小テストのことなんて考えてんのか?おまえは」 「わっ!すいません…つい…」 咄嗟にそう頭を下げたけれど、何だか妙な違和感に私の首が傾いた。 あれ…こんな事を言うひとだったっけ? いつもなら、ふーん。って、興味なさそうに返事をして、何を考えていたんだとも聞いてこなかった気がするんだけど。 頭を下げたおかげで前に垂れてきた自分の髪を首を傾げながら無意識に耳に引っ掛けると、それを見ていた先輩が手を伸ばしてその髪に触れてくる。 トクンッ。と高鳴る胸の鼓動。 同時に頬もほんのりと熱を帯びた。 「ずいぶん伸びたな、髪の毛」 「え?あ…そっそうですね。肩上だったけど、もう肩の下まで伸びてますもんね」 「このまま伸ばすつもり?」 「うーん、特に伸ばそうとか思っているわけじゃないんですけど…中学はずっとおかっぱ頭だったから、このまま伸ばしてみてもいいかな、って。 あはは…似合わないかもですけどね」 「似合うんじゃね? 伸ばせよ、このまま。そのほうが俺はいい」 先輩はそう言って優しく微笑むと、まるで愛おしいものに触れるように私の髪を指先でサラサラと何度か梳く。 「え…」 一瞬、全てが固まってしまった。 先輩がそんな事を言うなんて…って。 いやまあ…俺好みのエロい女になれとは何度も言われているけれど、こんな優しい笑みを浮かべながら、こんなに優しく扱われながら、そのほうが俺はいいなんて言われたことは未だかつて一度もない。 だから、思わず先輩の顔をまじまじと見てしまった私。 それに気づいた先輩は、怪訝そうな表情を浮かべた。 「なんだよ…変なツラして」 「いや…先輩、熱でもあります?」 「は?」 「もしくは、落ちていたものを拾って食べたとか…」 「はぁっ?!」 「はたまた寝不足で意識が朦朧としている…とか?」 「何言ってんだ、お前…」 完全に、変な人を見るときの視線。 でも、私にしたら先輩のほうが変な人だ。 やっぱり、先輩の様子が何か違う。 学校での姿でもなく、今までの姿とも少し違う。 「先輩、何かあったんですか?」 「それはこっちの台詞だっつーの。 何、意味不明なこと言ってんだよ」 「え、だって…いつもと様子が違います。 なんか、こう…優しくなったというか…」 「は?なにそれ。 今まで俺が優しくなかったみてーな言い方じゃん」 それって今までも優しかったじゃん。って言ってるように聞こえますが? そーれーはーなーいーしーっ!って、面と向かって言えないのが悲しいけれど。 だけど先輩は私とのやり取りの中に何かを見つけたようで、ほんの少し表情が変わる。 相変わらずわからないままの私の表情はそのままで、声も頼りないものだった。 「上手く言えないんですけど、何か変わりました?」 「ふーん、お前には変わったように見えんの?」 「はい…」 「じゃあ、変わったんじゃね?」 「え…どこが?」 「知らねえよ」 いや、知らねえよじゃなくて。 その顔、先輩はきっと何が変わったのか知っているんだ。 なのに意地悪して教えてくれないんだ、きっと。 こういうところは、今までの先輩のままなんだけどなぁ。 なんだろう? 全然腑に落ちなくて、難しい顔をしている私を見ながら先輩はフッと笑みを漏らした。 「どーでもいいだろ、そんなことは。 俺が変わろうが変わるまいがお前自身が変わるわけじゃねえんだから、考えるだけ無駄だってことだろ」 「そう…ですけど…」 「余計なことを考えている暇があったら、もっと気ぃ配れよ。 飲み物、なくなってんだけど?」 「えっ?うわっ!ほんとだ…すっ、すいません気がつかなくて。 あの、何飲みますか?」 「コーヒー」 言われてすぐに立ち上がり、早速準備にかかっている私。 ずいぶん先輩の先の行動を読めるようになってきたつもりだったけれど、やっぱりまだまだだなぁと、やかんから立ち上る蒸気を眺めながらため息が漏れた。 先輩が好む、砂糖なしでクリープ入りの濃い目のコーヒー。 私がそれを慎重に手に持って先輩のもとまで運んでいると、彼が突然妙なことを口走った。 「お前さ、早く俺に抱かれたい?」 「は…?って、へっ?!」 何を突然仰られるのでしょうか。と、思ったときはもう遅かった。 それに気をとられた私は、テーブルの脚に足を取られてそのままダイレクトに先輩のいる場所に倒れこむ。 手に持っていたカップからコーヒーが見事に外に飛び出して、事もあろうか先輩のズボンの股辺りにバシャッと全部かかってしまった。 「っつ!あっつ!!あっつ!!! おまっ、何やってんだよ!」 「ひゃぁぁっ!わぁぁっ!!ごっごめんなさい、すいませんっ!!! どっどうしよう先輩のズボン」 弾けたように立ち上がりズボンを摘んでバタバタと滴を振り落としている先輩に、何度も何度も謝りながら近くにあったタオルで慌ててコーヒーを拭き取る。 きっとものすごく熱かったと思う。 ズボンもシミになっちゃって取れなかったらどうしよう。 申し訳ないという気持ちと、どうしようという焦りばかりが頭を駆け巡り、思わず泣きたい衝動に駆られる。 「ごめんなさい…本当にすいません! 先輩、大丈夫ですか?火傷していません?」 「ったく、俺への気遣いはズボンの後かよ」 「え゛っ…あ…すいま…せん」 あぅ。私としたことが…何たる不覚っ。 大切な人の心配をする前に洋服を気遣ってしまうなんて。 情けなさも加わり、どうしようもなく自己嫌悪に陥った私は、半分泣き顔になりながら必死で先輩のズボンをタオルで拭う。 「もう、いいって。あんまそこ擦ンな」 「だってちゃんと拭き取らないと…」 「押さえつけたら気持ち悪ぃだろ…しかも熱いし!」 「ひゃあぁぁっ!だから、ごめんなさいってーっ!!」 「あ〜ぁ…使い物にならなくなったらどーすんだよ、お前」 「あのっ、クリーニング代お支払いしますんで。シミ抜きでもなんでも出しちゃってください!」 「そっちの心配なんて最初からしてねーっつうの。問題は中身だろうが」 「へ…」 そこでやっと気がついた。 先輩がいつの間にかまたあの意地悪い笑みを浮かべていたことを。 こういう表情をするときの先輩は、エッチモードに切り替わったときなんだ。 「クソ熱いものをぶっかけられたんだ、ちゃんと正常に機能するか確認しろよ」 「え…」 「え、じゃねえだろ。 確認しろって言ったら、意味わかるよなぁ?」 「いやぁ…私にはさっぱり…」 先輩の前に跪いている私を、ニヤリとした笑みを浮かべながら見おろしてくる蒼斗先輩。 彼の言わんとすることがわかってしまう自分が悲しかったけれど、まずはトボけてみたりした。 一応、オヤクソクということで… 「ふーん、トボけるんだ?とっくに意味わかってるクセになぁ? あー、それとも何か。俺が指示を出しながらのほうがいいってか?一つ一つ丁寧に言葉に出して指示してやろうか?」 「いっいえ…それだけは結構です!」 さっさと実行に移せばよかったと後悔しつつ、私は頬を赤らめながら首を横に振る。 大体、先輩が一つ一つ言葉になんか出したら私の意識がきっと持ちこたえられない。 放送禁止用語連発。 関係のない余計なことまで言い出すんだから。 いくら最近そういう事に慣れてきたとは言っても、まだまだ私は先輩のレベルには達していないのだ。 「じゃあ、どうすんの?」 「う〜…確認…しますぅ…」 しょんぼりとうな垂れて情けない声を出す私に、先輩が、シッポ垂れてる子犬だな。と言って笑う。 だってぇ…確認するってことは、やっぱりそういう事をするって事でしょう? まだ慣れてないんだもん。 先輩を弄ることに対して… それに、先輩は既にエッチモードに入っているみたいだけれど、私はまだ入れていない。 その状態でし始めるということは、私にとってもの凄く勇気のいることなのだ。 先輩もそれをわかっているはずなのに、わざと意地悪な事を言うんだよね、いつも。 こういう所はやっぱり変わっていない。 そして、先輩の言葉は“絶対”だということも… 私は、はぁ。と軽くため息を漏らしてから、よし。と、気合を入れた。 |