*恋は突然に…




私が秀と付き合い始めて今日でちょうど一年が経つ。

――――そう。今日は私の26回目の誕生日。

年をとったもんだわ・・・・・あっ、いやいや。

1年前の誕生日の前日に5年も付き合ってた彼に突然フラれ、失意のどん底に落とされかけた 私に手を差し伸べてくれたのが彼、柳瀬 秀だった。

『俺を利用してくれたらいい。』

そんな彼の言葉に甘えて、「忘れる為」から始まった私達の付き合い。

だけど1年経った今、彼は私にとって掛け替えのない存在に変わっていた。

彼の言った、『絶対虜にしてみせる。』――――その言葉通りに。

秀は3つも年下の癖に、頼りがいがあってすっごく気が利くのよ。

私にはもったいないくらいの彼氏・・・・・あら、ちょっとノロケちゃったかしら。

だけどね、最近彼が友人と経営しているCafeが雑誌などに取り上げられてからお店が忙しいらしく 毎日電話はくれるものの、ここ2週間程会っていないの。

寂しい・・・逢いたい・・・抱きしめてほしい。

そんな言葉が私の頭の中を駆け巡る。

はぁ。これって相当重症よね。今までこんなになるまで彼氏に逢いたいだなんて思った事なかったのに ・・・。

あぁ・・・今日も会えないんだろうな。

一つため息を付くと、書類で散らばった自分の事務机を整頓して力なくカバンを肩にかけると 会社を出る事にした。



***** ***** ***** ***** *****




・・・・・何だか今日は真っ直ぐ家に帰りたくないなぁ。

私は何の目的もないまま街をぶらぶらと歩く。

別に何のイベントがあるわけでもないのに、やたらと街を歩くカップルが目に付く。

秀・・・会いたいよ。今日、私の誕生日だよ・・・覚えてる?

昨日も電話で話したけれど、特にそんな話題にもならなかったし自分の口からも言っていない。

・・・・・きっと、忘れてるよね。

だって最近お店がすごく忙しいんだもん。きっとこんな小さな事にまで気がまわらないよね。

私だってその辺の理解はできるつもりよ?もう子供じゃないんだし、仕事が優先なのも納得できる。

「会いたい」とわがままを言って仕事に支障をきたすわけにもいかないし・・・。

あぁ。大人になるって嫌な感じ。

そんな事を悶々と考えていると、突然カバンの中で鳴り出す私の携帯。

秀?!

私は慌ててカバンから携帯を取り出すと、画面の表示を確認してから通話ボタンを押す。

『もしもし、智香さん?今、何してる?』

「秀・・・ん〜と、街をぶらぶらしてるよ。秀は?まだ、仕事?」

『うん。まだもう少しかかりそう。何か雑誌とかに載ったお陰で店が超忙しくってさ・・・ 猫の手も借りたいくらい。』

「クスクス。相変わらず大変ね。あっ、でもあまり無茶したらダメよ?体壊したら何にもなんない んだから。」

『体壊れたら智香さんに介抱してもらうから、それはそれでいいんだけど?』

クスクス。っと笑う秀に、何バカな事言ってるの。と笑って返す。

『・・・でさぁ、今日の夜は予定入ってる?』

一瞬ドキン。と心臓が高鳴る。もしかして・・・覚えててくれた?

私は逸る気持ちを抑えながら、携帯を握りしめる。

「え?・・・ううん、特に予定は入ってないけど・・・。」

だって、誕生日なんだもん。できれば彼氏と一緒に過ごしたいじゃない?

会社の子達に食事に誘われたけど、もしかしたら。って思って断ったんだ。

『じゃぁさ。久しぶりにご飯一緒に食べようよ。』

「お店は・・・大丈夫なの?」

『ん?何とか終わらせるよ。何かね、雑誌の取材に協力したからお礼にってホテルの食事券を もらったんだ。で、どう?』

あ・・・なんだ。誕生日を覚えててくれた訳じゃないんだ・・・。

私は少しがっかりしながらも、久しぶりに秀に会える事で心なしか気分が踊っていた。

「うん、行く!!」

『じゃ、決定ね。7時半ホテル待ち合わせでいい?』

「うん。今、6時だから帰って用意しても十分間に合うと思う。で、・・・」

・・・場所は?そう聞こうとした所で、秀と声が重なる

『お洒落しておいでよ?』

「・・・へ?どうして?」

『だってそこ有名なホテルなんだぜ?ほら、駅前の・・・。』

「えっ!!もしかして、あの駅前にある超高級ホテル・・・の事?」

『クスクス。そう、そこ。』

ちょっちょっと待ってよ。あのホテルって五ツ星とか取ってる超有名なホテルじゃない!!

やだぁ。ちょっと何着て行ったらいいのよぉ・・・私、そんな服持ってたかしら。

私は自分の誕生日の事などすっかり忘れて、自分のクローゼットの中の物を思い出してみる。

「えぇぇぇ!もう、何着ていったらいいのよぉ。もっと早く言ってくれれば用意できたのにぃ。」

『あははっ。だって今日もらったんだもん。でも、智香さんなら何着ても綺麗だからいつも通りの 格好でもいいと思うよ?』

「いや〜ん。折角そんなホテルに行くのにいつも通りの格好って。ん〜・・ちょっと頑張って お洒落して行くわ。」

『クスクス。じゃぁ、楽しみにしとく。また後でね。』

「うん、後で。」

あぁぁ。何着ていこうかしら。

これから買いに・・・・は、時間的に無理よねぇ。

はぁ・・・どうしよう。帰ってクローゼットの中を家捜ししないと・・・。

私はくるっと、向きを変えると自分のマンションへと足早に向かった。

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