*恋は突然に… ソファの上で秀に抱きしめられながら、幸せな気分に浸って眠りについた私。 その眠りを妨げるように、朝っぱらから玄関のチャイムがけたたましく鳴り響く。 誰よ…こんな朝早くから。さっき眠りについた所なんですけど!! リビングにかけてある大きな時計に目をやると、まだ午前6時を差している。 秀もビクっと体を震わせて、眠い目を擦りながら体を起こす。 「誰だよ…こんな朝っぱらから。」 「ホント…誰かしら。」 私は秀の腕から抜けると、ボーっとする頭を抱えてドアフォンを取る。 「……はい。」 『あの!朝早くからすいません!!俺、大橋司って言います…あの、ナツキ…橘ナツキっていませんか?』 声がでかいっ!! 未だに寝ぼけてる脳を大きくて低い声が突き抜ける。 思わずドアフォンを耳から離しながら、ふと、誰だっけ?と、首を傾げる。 司…司とナツキ…!? すっかり忘れてた。ヤツの存在を!! 寝室で堂々と寝てやがる存在を思い出し、軽く手を頭に当てる。 私は、ちょっと待ってね、今鍵を開けるから。と伝えてからドアフォンを置き、秀に司君が迎えに来た事を伝えて玄関の鍵を開ける。 ドアの向こうから現れた彼は、どこかしら秀に似ていて甘いマスクの持ち主。 あら、可愛い子ね。なんて思った事は内緒にしといて、彼に上がるようにと促すと、 「あ、いえ。ここでいいです。」 と、若干頬を赤く染めながら司が返事を返してくる。 暫く玄関で無言のまま2人でいると、奥から秀と制服に着替えたナツキが出てくる。 「ナツキっ!この場所すげぇ探したんだからな!!」 「司…べっ別に探してなんて言ってないもん。」 ぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いたナツキだったけど、一瞬見せた嬉しそうな笑みが印象に残る。 ――――ナツキは司の事を好きで好きで仕方ないんだ。 秀が言ってた言葉を思い出して、少し含み笑いをしてしまう。 素直じゃないなぁ、って。 「ナツキ、ごめんな?つまらない事で意地張って、お前を怒らせてしまって…許してよ。」 「やぁだ。司なんて知らないもん、私にはここにいる秀ちゃんって言う素敵な彼……」 「ナツキ…昨日言ってた事と違うじゃねぇか。素直になれって言ったろ。」 秀はナツキの言葉を遮り、ポンっと軽く彼女の頭を叩く。 「うぅ……許してあげる……私もごめん。」 「ナツキ。」 真っ赤な顔で俯きながら、モジモジとナツキは制服の裾を弄る。 かーっ、もう何?一変して可愛らしくなっちゃって。 彼もワザワザこんな所まで朝早くに迎えに来ちゃって…健気ねぇ。 はっ?!……おばさん化してる?私。 ナツキは靴を履いてから、くるっとコチラに向き直ると、ペコッと一つお辞儀をする。 「迷惑かけてごめんなさい。」 「ホント、すげぇ迷惑。」 「ひっど〜い。でも、そのお陰で昨日の夜は燃えちゃったでしょ?ナツキ、寝ちゃってたから全然知らないけど。」 「当たり前。すっごい燃えたね……いてっ!」 真っ赤な顔で秀の背中に張り手を一つ。 高校生相手に何言ってるのよ、もう!! まぁ…確かに燃えちゃったけど。 はぁもう。近頃の高校生はススんでると言うかマセてると言うか……すごいわね。 「ナツキ、帰ろう?」 「うん。」 「あの…朝早くから本当にすいませんでした。」 ペコっとお辞儀する彼に対して、秀が、仲良くな。と微笑む。 高校生カップルは仲睦まじく手を繋いで帰って行った。 本当にもう…散々な日だったわね。 ふぅ。とため息を漏らして秀と共に寝室へ戻る。 「はぁあ。振り回されたなぁ、ナツキに。」 「ホント…彼も大変ね。ここの場所、どうして分かったのかしら?」 「あぁ、さっき言ってたけどコッソリ夜中にメールしたらしいよ、住所書いてここにいるからって。迎えに来て欲しけりゃ電話すりゃいいのにね?アイツも意地っ張りだなぁ。」 「でも、彼はちゃんと迎えに来たじゃない。ここの場所必死で探したんでしょうね、愛されてるじゃない…ナツキちゃん。」 「まぁ、俺の智香さんへの愛にはまだまだ程遠いけどね。」 「…秀。」 「あーっ!でもやっと休みを満喫できるって感じ。もう一回寝て、起きたらどこかへ出かけようか。久し振りに。」 「うん!いいね、色々買い物とかしたかったのよ。」 「あぁ、でも久し振りに家で智香さんと2人きりでまどろむのもいいかも。」 「え〜。」 ベッドの上で秀に抱きしめられながら、ぶぅ。と頬を膨らませたけど、それでもいいかなって思う。 こうしてただ抱きしめられてるだけでも、幸せを感じられるから。 「あ、そうだ。智香さん…」 「んー、何?」 「今度怒るような事があっても、完全無視だけは止めて。すげぇ落ち込むから。」 「あー…ごめん。」 今回は、カナリ怒っちゃったからなぁ…私。 あんなに秀に対して怒りを露にしたのは初めてかもしれない。 それだけ私が秀を愛してるって事…よね? 散々振り回されて、憎たらしい子だったけど、あの子のお陰で秀に対する気持ちを再確認できた気もする。 だから、ちょっぴり応援してあげるわ。可愛らしい高校生カップルを。 「智香さん、愛してる。」 「私も…愛してる。」 全身に秀からの愛を感じながら、秀の温もりに包まれて私は暫くの間眠りについた。 ++ FIN ++
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