*恋は突然に…








今日は私、七瀬 智香(ななせ ともか)の25回目の誕生日。

本来なら彼氏の俊樹と一緒に最高に幸せな気分で過ごす筈だったのに・・・・・。

《ごめん、トモ。俺・・・もうお前の傍にいられない。他に好きなヤツできたから》

――――突然の別れ話。

それは大学時代から付き合って5度目の私の誕生日の前日だった。

しかも、直接会ってではなく携帯電話で。

歳も歳だから、将来の事考え始めてたのに・・・どうして急に?しかも今日誕生日だよ、私。

俊樹の様子が半年程前から変なのは薄々気が付いてた。

お互い働き出して何かと忙しかったせいかな?って思ってたけど。

いつ電話しても出てくれなくなって、出たかと思えば素っ気無い態度。

折角の同じ休みの日にも急用が出来たからと言って会おうとしてくれなかった。

だからってどうして別れ話が誕生日の前日なのよ。嫌がらせ?

彼は自分の伝えたい事だけ伝えると一方的に電話を切ってしまった。

《誕生日おめでとう、智香》と言う言葉も無く――。

親友の久美に電話をして散々話を聞いてもらったけど気分は晴れなくて。

私は泣き明かした。信じられなくて・・・信じたくなくて。

今朝からなんにもする気が起きなくて、会社には生理痛で休みます。と嘘をついた。

お陰で数少ない有給を消化しちゃったわよ。

理由をちゃんと聞きたくて、俊樹の携帯に何度電話しても着信拒否。もぉ、サイテー。

私は脱力感で重くなった体をベッドに放り出してうつ伏せた。

はぁ・・・もう涙も出なくなっちゃったよ。

ねぇ、俊樹。私達の5年間って一体何だったの?

好きな子が出来たからって、長年付き合った彼女を簡単にフるの?

誕生日だってのに、何でこんな気持ちになんなきゃなんないのよ!!

誕生日だから、私にとって特別な日だったから――余計に心にずしん、とくる。



私がベッドの上でウトウトとしかけた時、ピンポ〜ンと玄関のチャイムが鳴った。

誰だろう?平日の昼間だから訪問販売とかかな・・・だったら嫌だな。

顔だけ起こすも、出る気になれなかったのであえて無視をした。

しばらくの沈黙の後、ピンポンピンポ〜ンと軽快な音が連続して鳴る。

もぉ、誰なのよ。諦めて帰りなさいよ。私は留守よ!!

ピンポンピンポンピンポ〜ン。向こうも意地になっているのか、チャイムを鳴らし

続けてくる。

だぁぁぁ。もぉ、うるさい。わかったわよ、出ればいいんでしょ!出れば!!

私は半分ヤケになって、ドアフォンを取った。

「・・・はい。」

『あ。どうもぉ、こんにちはぁ。』

ドアフォンから聞こえてくる声は、若い男らしく少し軽い感じがする。

何よ、人がフラれて落ち込んでるってのに抜けたような声だしてさ。

「あの、何のご用件でしょう?」

『えっとですねぇ、今日は羽毛布団のご紹介をさせていただきたくてですねぇ・・・』

うわっ、やっぱり訪問販売じゃん。しまったぁ出るんじゃなかったよ。

私は落胆のため息を付くと、必要ありませんので。と伝えドアフォンを切ろうとした。

『あ、待って。切らないで。じゃあ羽毛布団の変わりに僕を買いませんか?』

「・・・・・・・・・・」

『もしも〜し?』

「・・・・・は?」

おっしゃってる意味がよく分かりませんが。

『僕を買ってくださいよ。七瀬智香さん。』

「はぁっ!?誰、あんた。何で私の名前知ってるのよ!!」

急に背筋が凍る。誰なのコイツ。何で私の名前知ってるのよ。

マンションの表札には、女の一人暮らしだから名前は出してない筈なのに。

ドアフォンを脇に置くと、慌ててドアに駆け寄りドアアイから外を覗く。

小さなレンズから映し出されたその男は見覚えの無い若い男だった。

長身の体はスーツをさらっと着こなし、髪の毛は少し長めで染めているのか薄茶色い。

目鼻立ちが整っていて『いい男』だった。風貌からして年下か同じ歳のようだ。

私、こんなヤツ知らないわよ。誰なのよコイツ。

私はもう一度ドアフォンを手に取ると、あんた誰なのよっと低く呟く。

『クスクス。わかりませんか?智香さん。僕ですよ、柳瀬 秀(やなせ しゅう)』

「・・・へ?柳瀬秀って・・・あの、大学のサークルで一緒だった秀?」

『うん、そう。思い出してくれた?なら、開けてほしいんですけど?』



突然やってきた秀は、私の覚えている柳瀬 秀とは少し雰囲気が違った。

彼は私が大学4回生の時に入学をして、私の所属しているサークルに勧誘されてきた。

イベントサークルだったから普段メンバーと顔を合わせる事は少なくて、たまに集まる飲み会

の時やランチの時に合わせる程度。だから私はあまり下の子の顔を覚えていない。

彼氏中心の生活だったし・・・。

けれど、秀はサークルの中で結構人気があったから少し印象に残っているんだよね。

記憶の隅にある彼は、まだ「高校生」の抜け切らない幼い感じで髪の毛も黒い短髪で

背は高かったけど、かわいらしい感じの男の子だったのに――・・・。

今、私の前に立つ柳瀬 秀はスーツをさらっと着こなす『大人の男』だ。

私が卒業してから3年経つけど、こんなに人って変わるもんなんだろうか。ちょっと驚き。

きっとこの子は会社とかでモテるんだろうな、そんな事を思いながら彼を見る。

「どうしたのよ、突然。びっくりしちゃったじゃない。よく私の家がわかったわね。」

「ごめんごめん。驚かそうと思ってさ。住所は久美さんから聞いたんだ。」

「久美に?ふぅ〜ん、そうなんだ。偶然ね、今日は私会社休んだから家にいたけど本来なら仕事で

いないわよ?」

「今日・・・休みなの知ってたから。」

「・・・・・へ?」

言葉の意味がうまく呑み込めず、私は首を傾げる。

「俺、大学入った時からずっと智香さんを見てたんだ。でも彼氏とずっと仲良かったろ?だから俺の

入る隙間なんてねぇよなぁって諦めたつもりでいたんだけど、やっぱずっと心に引っかかっててさ。

智香さんが卒業した後も忘れらんなくて、久美さんに智香さんと彼氏が別れるような事があれば連絡を

してほしいって頼んでたんだ。・・・で、昨日の夜中に久美さんから連絡あってさ。」

「は・・・ぁ。」

私の頭の中は混乱していた。

それって・・・どういう意味?

「だからさ、俺が彼氏の事を忘れさせてあげるから。俺を買ってよ。」



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