*君の あなたの 微笑に




「千鶴、明日ドライブでもしよっか。」

先生が突然そんな事を言ってきたのは、いつものように塾帰りに先生の家で夕飯を終えて後片付けをしている時だった。

「・・・・・へ?」

一瞬聞き間違いじゃないかと自分の耳を疑い、きょとん。とした顔で先生を見上げる。

「クスクス。聞こえなかった?明日ね、土曜日で休みだからドライブに行こうか?って言ったんだけど。」

「え・・・先生、車乗れるの?」

先生からの突然の話に私の口から少し的外れな言葉が漏れる。

「あ、それ失礼だなぁ。これでも一応大人ですから?免許ぐらい持ってますけど。」

「ドライブって・・・車は?」

「ん。この前ね、中古車だけど買ったんだ。それが今日納車だったから、一番に千鶴と一緒にドライブ行きたいなぁ、て思って。」

にっこりと笑う先生に、ピタッと動きが止まる私。

「・・・嘘。」

「ホント。」

「ホントに?」

「クスクス。ホント、ホント。」

しつこいくらいに、ホント?と聞き倒し、暫くしてから自分の顔からめいいっぱいの笑みが漏れる。

「うそうそっ。ホントにホント?行きたい・・・行きたい、行きたい!!先生とドライブに行きたい!!!」

「あははっ。千鶴、そんな大きな声を出さなくても聞こえるって。」

「だってだって、すっごく嬉しいんだもん。わぁぁ!先生とドライブ?でもでも、どうして急に車なんて買ったの?」

「いつもね、千鶴と会う時は俺の家ばっかりだったでしょ?やっぱり、いろいろ連れて行ってあげたいし・・・ほら、車だったらバレにくいでしょ?だから。」

え・・・それってもしかして・・・

「・・・私の為に?」

「うん。千鶴の為でもあるし、俺の為でもある・・・かな。俺だって千鶴とどこかに出かけたいからね。」

「先生・・・?」

私は先生の顔を見上げ、ん?と首を少し倒しながら私を見てくる彼に飛びつくと、先生は慌てて私の体を抱き支える。

「うわっ!ちっ千鶴っ?!」

「先生、ありがとーっ!!もぅ、すっごくすっごく嬉しい。先生、大好きーっ!!!」

「クスクス。喜んでもらえて何より。」

「あっ!でもでも、本当にバレないかなぁ?・・・大丈夫?」

「んー。俺がコンタクトにすれば少しは変装になるんじゃない?」

「え・・・でも、先生コンタクト苦手でしょ?」

「千鶴の喜ぶ顔を見れるなら、それくらい平気。」

そう、私の腰辺りで腕を絡ませながら先生が微笑む。

つられて自分も微笑みながら、先生本当にありがとう。ってもう一度お礼を言ったら、どういたしまして。って軽く、ちゅっ。とキスをされた。



「先生、先生!先生は、どこに行きたい?」

夕食の後片付けも終えて、リビングで2人並んでソファに座りながら、コーヒーカップを片手に先生を見上げる。

「千鶴は?どこか行きたいところある?」

「ん〜とね、先生と一緒ならどこでもいい!!」

「クスクス。一番困る答え。さて・・・どこ行こうか?」

先生は、クスクス。と笑ったまま一旦席を立つと、本棚から地図を取り出してきて再び私の隣りに腰を下ろす。

「わぁ!どこ行こう?あ、北海道とかは?」

「・・・・・帰って来れないから。」

「クスクス。じょーだんっ。」

「えー、本当にぃ?千鶴、距離感分かってる?」

「あ、ひっどーい。それぐらい分かりますー。バカにしないでください!!」

「それはそれは失礼いたしました。」

地図に視線を落としながら、ぷくっ。と頬を膨らませると、よしよし。とでも言うように、先生が私の頭を優しく撫でる。

もーっ。先生ったら酷い事言うんだから。

と、思いつつ正直あまり距離感を分かっていない自分がいたりする。

・・・・・どれくらいまでなら日帰りで行けるのかなぁ?

そんな事を思いながら、地図を眺めてふとあるものに目が止まる。

「・・・・・海。」

「ん?」

「先生、私海が見たい。海の見れる場所まで日帰りで行ける?」

「海かぁ。そうだね、今なら海水浴客もいないしまだ暑いくらいだもんね。よし、じゃぁ海辺のドライブに行こうか。」

「ほんと?・・・やったぁ!!海、海〜♪ね、ね。何時に行く?早起きして行く?先生、何時に起きられる?」

私の質問攻めに、先生は優しく微笑みながら頭を撫でていた腕を肩にまわして顔を覗きこんでくる。

「クスクス。そうだなぁ、ねぼすけの千鶴は何時に起きられるの?」

「こういう時は早く起きられるもん!4時?5時?」

「・・・・・・それは早すぎ。」

先生は私の顔を見ながら苦笑を漏らし、じゃぁ7時に出発しようか?って頬を撫でてきた。

「7時ね!おっけぃ!!わぁー。楽しみ〜♪」

先生と付き合ってから初めて行く遠出のデート。

自然と自分の心が明日へ向けて躍りだす。




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