*君の あなたの 微笑に 先生と付き合いはじめてから3ヶ月が経った。 あれから先生は「ちゃんとご両親にだけは本当の事を言わないとね。」って言って、私の両親に挨拶に来てくれたの。 お父さんもお母さんも、最初すっごく驚いた表情をしてたんだけど、先生がちゃんと責任を持って付き合う事、私を大事だと思ってくれてる事を説明したら、渋々だったけど承知してくれた。 もっとも渋々だったのは父親だけで、母親の方は夜のお仕事をしてるせいか、そこら辺はさばけてて、 「あら、千鶴にもやっと彼氏が出来たのね。」 なんて、笑いながらタバコを吸ってたけど。 でもよかった。許してもらえて。 だから、晴れて私たちは恋人同士となった・・・って言っても付き合ってる事を知ってるのは、父と母。それと私の親友の優実だけ。 そりゃそうだよね、担任の教師と付き合ってるなんて事がバレたら、大変な事になっちゃうもん。 だから外で大手を振ってデートする事も出来ずに、専ら私は先生の家にお邪魔して2人の時間を過ごす事にしていた。 先生はいつも「ごめんね。」って言うんだけど、私はちっともそんな事気にならないんだよ?だって先生と一緒にいられる事だけで幸せになれちゃうんだから。 けどね、そんな幸せな中にも一つだけ不満があるの・・・。「不満」と言うより「不安」かな。 先生と付き合って3ヶ月経ったんだけど、先生ったらキス以上の事してくれないんだよ? こんな事言うと私がすっごくエッチな子みたいに思われるかもしれないけど、周りの子達の話を聞いてたら、 「――――・・昨日、彼氏と初エッチしちゃったぁ。付き合ってまだ日も浅いんだけどぉ・・・でもすっごい幸せぇ〜♪」 とか、 「もうね、彼ったら凄いのよ。一回じゃ終わらないの!離してくれないんだって。」 とかって言うわけよ。 それ聞いたらね、先生って私の事「女」として見てくれてないんじゃないかって不安になっちゃう。 しかも今は夏休み、学校に行ってる時よりも数段2人きりで会う機会が増えてるのに、触れる回数がそれに反比例して減っていく。キスだって大人なキスをしてくれたのは最初の数回だけで、後は軽く触れるだけのキスばっかり・・・。 こんな事考えてる私って変なのかなぁ?そうじゃないよね、普通だよね? 好きな人と結ばれたいって、一つになりたいって思うのって変じゃないよね? ――――それが例え、自分の担任の先生だったとしても・・・。 ・・・・・ねぇ、先生。私の事、やっぱり子供として見てるの?一人の女としては見てくれてない? そんな不安が私の胸を過る。 今日も私は塾を終えて、両親が帰ってくるまで先生の家にお邪魔する為に、途中のコンビニでジュースとおやつを買って先生の家の前に立つ。 ピンポ〜ン♪ 軽快なチャイムが家の中に響いてから、程なくして先生がドアを開けてくれる。 「おかえり、千鶴。今日も勉強頑張った?」 「先生、ただいま。今日もお邪魔しま〜す。ん、頑張ってきたよ。でもね、やっぱり英語は苦手。」 大好きな笑顔に出迎えられて、そんな話をしながら先生の後について家の中に入る。 「クスクス。それは困ったね、俺と付き合ってるのに英語が苦手なんて。もっと勉強しなきゃね。あ、ご飯食べ終わったら勉強しようか?」 「えぇぇぇぇ!!塾でいっぱい勉強してきたもん〜。先生と一緒にいる時まで勉強なんてやだぁ。」 「・・・・・あのね、千鶴は受験生でしょ?そんな事言っててどうするの。」 「んもぅ!先生みたいな事言わないでください!!」 「これでも一応教師ですけど?」 「うぐっ。いっ今は違うでしょ?帰ったらまた勉強します!だから先生と一緒にいる時ぐらい勉強の事は忘れさせてよぉ〜。」 「クスクス。ま、とりあえずご飯先に食べようか。勉強の事はその後でって事で。」 おかしそうに笑う先生に、あのねぇ〜。と軽く睨む。 もぅ!勉強勉強って!! 私が頬をぷくっ。と膨らませていると、足元に猫のチーが擦り寄ってきた。 「ニャー。」 「チー。ただいまぁ、いい子にしてた?もう、先生ったらね勉強、勉強ってうるさいんだよ?チーからも何とか言ってやって。」 出会った頃よりも随分と大きくなったチーを抱き上げると、鼻先に自分の鼻先をくっつけながらそんな事をぼやく。 「こーら、チーにボヤかないの。そんな事言っても受験は遠のきません。」 「もぅ、先生の意地悪!!あぁ〜やだやだ。受験なんてどっかいっちゃえばいいのにぃ。」 「クスクス。現実逃避?」 「だぁって、大好きな先生と一緒にいるのに勉強勉強って言うんだもん。先生は一緒にいるのに私が勉強ばっかりしてて楽しいの?」 「楽しいの?って。少しの我慢でしょ?今頑張って大学に受かったらいくらでもゆっくりと一緒の時間が楽しめるんだから、今は我慢。」 「『今』は今しかないのにっ!!先生ったら冷めてるっ!!!」 更に頬を膨らまして、ぷいっと横を向くと、先生の苦笑交じりの笑い声が耳に届く。 そしてチーを抱いたままの私を後ろからふわっと抱きしめると、そっと囁いてきた。 「そういう事言わないの。俺だって我慢してるんだからさ。今は頑張る時でしょ?後で後悔させたくないから言ってるの。分かる?」 「分かんない!だって後悔なんてしないもん。もぅ泣きたくなってきたぁ!!」 「あぁ、もぅ千鶴・・・泣かないの。この話はもう終りにするから、ね?ほらほら、お腹減ったでしょ?ご飯食べよう。」 先生は軽く私の頬にキスをすると、頭を優しく撫でて顔を覗きこんでくる。 「うぅ・・・先生のバカ。」 「ごめんごめん。俺が悪かったから・・・許してね。」 ポンポンと頭を軽く叩いてから、そう優しく微笑む。 ・・・・・なんか、すごく自分が子供に思えてくる。 もっと先生と年が近かったら・・――――そんな事を思いながら力なく椅子に腰を下ろす。 |