−人生初−




駅前の時計台の下で、私は目の前を行き交う人達をボーっと眺めながら立っていた。

今日は17年間生きてきて、初めてデートと言うものをするの。

以前の私では考えられなかった出来事。

私は妙に浮かれてしまって、約束の時間よりも随分と早く待ち合わせ場所に着いてしまっていた。

必要な物以外何も入っていない小さなバックから携帯を取り出し、時間を確認する。

――――11時50分

あと、10分か。

先日出来た彼氏、内藤幸一。

彼との約束はお昼だったから、もうそろそろ来るかな?なんて思いながら携帯をバックに戻す。

だけど、この彼氏を待ってる時間も妙に楽しい。

こういうの一回やってみたかったんだよね。

一生無理だって思い込んでたから、何だかこのシチュエーションが凄く嬉しかったりする。

ちょっと恥ずかしかったから、俯いてクスっと小さく自分の中で笑みを漏らしていると、男の人の声が間近で聞こえてきた。



「ねぇ、君一人?」



あー、誰かナンパされてるよ。

まぁ私には全く関係ない事だけど…一度はされてみたいかなぁ…ナンパってヤツ?



「ねぇ…聞こえてる?」



更に続く男性の声。

あらら、素無視されてるのかしら。かわいそー。

でもねぇ。ナンパされるのに慣れてる子だったらそういう対応しちゃうのかなぁ?

私だったら…んー、きっとあり得ないと思うけど…もし、されたらきっと対応に困っちゃうだろうな。

ちょっぴりどんな子がナンパされてるのか見てみたくなって顔を上げると、バッチリと一人の男の人と目が合ってしまった。

「え……」

わっ、私?!

「さっきからずっと声かけてんだけど…素無視かますからビビッちゃったじゃんか」

「あ…あのぉ?」

「ね、君可愛いね。あのさ、暇だったらどっか俺と遊びに行かない?」

「え…えっ?!わっ、私とですか?」

「そ、君と。結構俺のストライクゾーンなんだよね、君。だからさ、一緒に遊びたいなぁって思って」

嘘…うそ、嘘…嘘ぉぉおん!!

私がナンパされてる?なんで?どうして??

「あの…あなたブス専ですか?」

私の言葉に男の人は一瞬止まってから、ぶーっ。と噴出す。

「なに、それ。俺?俺、結構面食いだけど。だから君に声かけたんだし。君、面白いね。ねぇ、やっぱ遊びに行こうよ」

面食い?…だから私?…え…なんで?

私が首を傾げまくっていると、グッと腕を掴まれる。

「うわっ!え、何?」

「ほら、こんな所で突っ立ってても面白くないじゃん?どっか行こうよ」

「いや…その…私、かっ彼氏を待ってるので!!」

どひゃー。言ってみたかったこの言葉。



彼氏を待ってるからあなたなんてお断りよ!



…みたいな。

うわー。言っちゃったよ、ゆっちゃったよ…この私が。

すごっ。痩せると嬉しい事もあるもんだね。

何て内心喜んだけど、そうそうそれに浸っているわけにもいかなくなった。

男の人は私の腕を掴んだまま、ぐいぐいっと引っ張って行こうとする。

やだ、もぅ何ぃ?しつこい、この人。

私は掴まれた腕を思いっきり振り解くと、

「だから、彼氏を待ってるって言ってるでしょ!もぅ、しつこい!!」

と、啖呵を切ってしまった。

はぁ…元々気の強いらしい私の性格。

思わず言ってしまってから慌てて口元を手で押さえる。

「んだよ…ちょっと可愛いからって強気に出やがって。」

ちぇっ、と舌打ちをしてから、男の人は私を睨みつつどこかへ去って行ってしまった。

何が、ちぇっ。だ!私が言いたいわよ、ちぇっ、て!!

いーっだ!と、男性の後ろ姿に表情を崩していると、背後から、クスクス。と聞きなれた笑い声が耳に届く。

「あ、幸一!ちょっと…今の見てたの?」

「あぁ。バッチシ最初から最後まで観賞させてもらってた」

幸一は未だにクスクスと笑いながら、私の元へと歩いて来る。

「やだ、見てたんならどうして助けてくれなかったの?ナンパされてたんだよ、私」

「おぉ、されてたな。でも、明美ならああいう展開になるだろうなぁって思ったから敢えて声をかけずにいてやった」

「どういう意味よー」

「ほら。ナンパなんてされんの初めてだろ?明美が本当に綺麗になったって実感できっかな、って思って」

「だからって見てたわけ?酷いよ、それー。普通なら彼氏だったら怒って助けてくれるもんじゃないの?」

「あぁ。次回からは言われなくてもそうするよ?っつぅか、結構今も内心ムカムカ状態なんだけどね」

「笑ってるクセに」

「顔で笑って心で怒ってんの。ま、俺が思う通りの反応をするかどうかも見てみたかったって言うのもあるんだけどな」

「なにそれ。じゃぁ、もし私があそこであの人について行こうとしたらどうしてた?」

「間違いなく全面に怒りを出してたね。で、どうだった?初めてのナンパは」

「え…ちょっと嬉しかったかも」

「ふーん…………」

私の答えに即座にムカッとした表情を浮かべて、幸一はスッと視線をずらす。

聞かれたから正直に答えただけなのに…

「ねぇ…ちょっと怒ってるの?」

「……………」

「ねぇ、幸一?」

「………さぁ〜って。昼飯何食おうかな」

幸一は私に背を向けると、ゆっくりと歩き出す。

「え…ちょっと幸一?ねぇってば。ねぇ!」

駆け寄って幸一の服の裾を掴むと、彼の腕が私の肩にまわってきてぎゅっと抱き寄せられる。

「明美は俺のモンだから…忘れんなよ?」

そう小さく呟いて、ちゅっと軽くキスをされる。

「んなっ!?ちょっちょっと道端で…」

「いいじゃん。こういうの一回やってみたかったし?お陰で機嫌も直りました」

「ねぇ、それって……ヤキモチ?」

「…以外に何かある?」

「いや…そっか」

それを聞いて私の顔から思わず笑みが漏れる。

「なんだよ…嬉しそうに笑って」

「だって…誰かにヤキモチなんて妬いてもらえるなんて思ってなかったから」

「だから言っただろ?俺の方がヤキモチ妬くのが多くなるんじゃないかって。あ〜ぁ。これから先、どんだけ俺ヤキモチ妬くんだろうなぁ」

「ヤキモチ妬いてくれるの?この私に?」

「当たり前だろ?そんだけ俺は明美に惚れてるって事。覚悟しろよな、ヤキモチ妬く度に明美に機嫌を直してもらうから」

「え…覚悟しろって?」

「キス以上の事をいっぱいしてもらうって事」

「え、え?えぇぇぇ?!!」

幸一は意地悪く笑うと肩にまわした手で軽く私の髪をくしゃくしゃっと撫でてから、そのまま移動して手を繋いできた。

うわぁー。彼氏ができるって大変だぁ。

そんな事を思いながら、それでも何だかちょっぴり嬉しくて繋がれた手をきゅっと握り返した。




++ FIN ++




ファイルをコチョコチョと整理していたら、こんなものが出てきたんですが…(ぇ
見つけたときは、タイトル無しのあとがきも無し。
多分、まだ表に出していない作品だとは思うんですが自信がない(おぃ!
どなたかに贈ったものかもしれないし、イベントに使ったものかもしれない。
でも、アップした記憶もないし記録もないのーっ(救いようがない
いつかアップしようと思って書きかけてたものがそのままになって忘れちまったんだとは思うんですが…
あれ、これどこかで読んだぞ?と記憶のある方はご一報を。
いや一応、お友達に目を通してもらったら、確かにずっと前に読んだことがある。とは言ってもらえたんですけどね。
それをアップしたかはわからない…と。(ですよねぇ〜 涙)
お初にお目にかかるようでしたら、お楽しみいただけたら幸いです〜。
ここで終わる予定ではなく、続きを書こうとしてたんだろうなぁ…(遠い目

H19.6.13 神楽茉莉


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