〜*〜 Eternal Lover 〜*〜



私は夜道を駆け抜け、正樹のマンションの部屋の前に辿り着く。



だけど、少し躊躇われてた。

彼氏がいるのにも関わらず、寂しさを紛らわす為のように正樹の元へ来てしまった自分。



いいんだろうか…こんな中途半端な事。

私にはまだ彼氏と言う存在がいる…なのに、こうして正樹の所に来てもよかったんだろうか。



ドアフォンを押そうかどうしようか躊躇っていると、ガチャリと鍵の外れる音がして、正樹が顔を覗かせる。



「早く入って来いよ…沙代子」

「………ごめん」

「どうして謝るんだよ」

「なんか…自分でもどうしていいのか…分からなくて…彼氏がいるのに、寂しさを紛らわす為のように正樹の所まで来ちゃって…私…」



言葉を吐き出す度に、自分の瞳から涙が溢れ出す。

その体を家の中に引き入れるように、正樹は私の体を抱き寄せる。



「いいよ…俺が来いって言ったんだし。それに沙代子はこうして来てくれたじゃんか。今は紛らわす為でもいい…沙代子が俺の事を男として見てくれてるんなら」

「……正樹…」



ガチャンとドアが閉まる音を背中越しに聞きながら、私がそっと正樹の背中に腕をまわすと、彼もギュッと私の体を抱きしめてくる。



「沙代子………俺にしとけよ」

「まさ…き…」

「俺は沙代子を悲しませたり、寂しい思いなんてさせない。沙代子が俺と同じように男と別れるキッカケが掴めないなら、俺が作ってやるよ…」


その言葉に大きく心が揺るがされる。



――――別れるキッカケ。



ずるずると今まで来てしまっていた徹との曖昧な関係。

そう…正樹が言うように、私はずっとそのキッカケを掴めないでいたのかもしれない。

臆病な私、卑怯な私はずっとその関係に疑念を持ちながらも、自分の気持ちを誤魔化して、誤魔化して今まで別れを切り出せずにいたのかもしれない。



ずるい私……。



徹と別れるキッカケが掴めなかった私は、正樹を男として見ているクセに、彼は『仲間』だと自分に言い聞かせて諦めていんだ、きっと。

本当は、心のどこかでいつも少しでも正樹を感じたいって思ってたんだ。

少しでも正樹との距離が縮まればいいって思ってたんだ。

『仲間』としての空間を利用して…

だから私は執拗なまでに仲間と言う言葉に固執してたんだ。

私が正樹を好きになって、彼が私の傍から離れて行く事も怖かったから…だから。

その思いに気付いてしまった今、私の中で新たな何かが動き出す。




「沙代子…いつも目を閉じて一番に浮かんでくるのは誰の顔?」



突然の正樹の質問に、一瞬意味が理解できずに彼の腕の中で首を傾げると、また抱きしめた腕に力を入れられながら同じ質問を繰り返される。



私が目を閉じて一番に浮かんでくるのは…



「…………正樹の顔」

「じゃあ、声を聞きたいって思うのは?」

「……正樹の…声」

「顔を見たいって思うのは?…抱きしめて欲しいって思うのは?」

「正樹」

「……キスして欲しいって思うのは?」

「まさっ…」




彼の名前を言い終わらない内に、その言葉を吸い取るように正樹の柔らかい唇が私の唇に重なってくる。

あの日と同じように、優しいけれど脳天を揺さぶられるような刺激的なキス。

覚えてる…この感触。

忘れられなかった…正樹とのキス。

私は正樹の背中にまわした腕に力を込めて、彼からのキスに自分の気持ちを込めて返していた。




正樹が好き…私は正樹の事が好き……




正樹の熱い舌が唇を割って私の口内をかき回す。

それに自分のモノを絡めるように、私もまた彼の口内をかき回す。

溢れ出しそうな唾液をお互いに吸い合い、気持ちを確かめるようにキスを深くする。

正樹は名残惜しそうに、私の下唇を挟みながら唇を離してゆっくりと視線を絡めてくる。




「沙代子…好きだよ」



その言葉を一度目を閉じて心に沁みこませ、再び目を開けて彼の綺麗な瞳をしっかりと見つめる。



「私も…正樹が好き…」

「だったら…」



彼の言わんとする事が分かったから、私は正樹が言葉を発する前にコクンと一つ頷いて見せる。



「ん…私ももう、自分に嘘はつかない。自分の気持ちに気付いてしまった以上、彼氏にも嘘はつきたくないから…明日、話をしてくるよ」

「俺の所へ来いよ…必ず」

「うん…必ず」

「あぁ、必ずな。だから、今すぐにでも沙代子を抱きたいけど…我慢するよ」

「…正樹」



正樹は私の頬を優しく撫でながら、優しく微笑みかけてくる。




「寂しさを埋める為にお前を抱くんじゃなくて、幸せにしてやるためにお前を抱きたいから」



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