〜*〜 Eternal Lover 〜*〜



夜道をふらふらと千鳥足で歩き、どこへ向かうでもなく私は歩き続けてた。

彼氏のアパートに行く気にもなれなかったし、一人住まいの自分のアパートに帰る気にもなれなかった。



………正樹…今頃なにしてるのかな。



ふと気付けば正樹の事ばかりを考えてる私。

やだな…ホントどうしちゃったんだろう。




「さ…よこ?」



聞き覚えのある声に呼び寄せられるように後ろを振り返り、ドクン。と心臓が一つ高鳴る。



「……正樹」

「どうしたんだよ…こんな時間に一人でこんな所をうろついて。今日は飲み会だったんだろ?」

「正樹こそ…どうしてこんな時間にこんな所にいるのよ」


どうやら知らない間に正樹のマンションの方へと向かっていたらしく…動揺している私は変な事を口走る。

急激に高鳴る心臓がアルコールのまわりを更に早くしているのか、一気に視界が、ぐにゃりと歪む。

後ろによろめく私を慌てて支えるように、正樹の腕が私の腰にまわる。


「俺はバイトの帰り。おまっ…酔ってるのか?ふらふらじゃないか」

「べっ別に…酔ってなんかないわよ。ちょっとふらついただけ…」


身近に感じる正樹の存在に頬までもが赤く染まってるようで、私はそれを隠すように下を向き、彼の胸元をギュッと握る。


「ねぇ…どうして避けるのよ」

「……え?」

「正樹…私の事避けてるでしょう?ねぇ…どうして?どうして避けるのよ」


正樹は押し黙り、腰にまわした腕をスッと外し私との距離を少しおく。



……やっぱり…避けられてる



「あの時約束したよね?また元通りの仲間に戻るって…約束したじゃない。なのになんで?一線を越えたら嫌いになっちゃった?私とは仲間に戻れないくらい…話したくないくらいに嫌いになっちゃったの?」

「嫌いになるなんて…んなワケないだろ?」

「だったら…どうして」

「嫌いになれたらどんなにか楽だろうよ…だけど、仕方ねーじゃん。あの日からどんどん俺の中のお前に対する気持ちが大きくなって、自分じゃ抑えきれないくらいお前に傾いて…俺はもう、お前が望むように仲間には戻れない。俺は…自分の気持ちに嘘はつきたくねーから」

「そ…んな。だって、正樹には彼女がいるじゃない」

「別れたよ…あの日」

「うそ…」



別れた?そんな…どうして急に

別れられないって言ってたじゃない…別れるつもりもないって。なのに…どうして?

驚愕の事実を知らされて、一瞬頭がパニックに陥ってしまう。



「沙代子?あの時言ったよな…俺に女がいなければお前に惚れてたって。あの時お前をこの腕に抱いて、もう自分に嘘はつけないって気付いたんだよ…本当の俺の気持ちに」

「本当の…気持ち?」

「あぁ。俺は本当はずっとお前に惚れてたんだって事。お前の傍に居たいが為に『仲間』なんて言葉で誤魔化して、自分の気持ちに背を向けていたんだ。正直、前の女とは沙代子と出会う前から完全に冷え切ってたよ…だけどお互いにキッカケが掴めなくてずっとズルズルと付き合ってた。だから、あの日アイツに「別れてくれ」って言ったらあっさりと部屋を出て行ったよ…「あたしもいつ言おうか迷ってたんだ」って言って」

「でもっ…」

「だから何の柵も無くなった今、俺はお前が仲間としての俺を望む限り、お前の前には現れない。俺は沙代子を仲間として見られないから」

「そ…んな。約束したじゃない!あの日限りだって…お互いに寂しさを埋める為に…あの日だけで忘れようって…」

「忘れられるわけねーだろ!俺は今でも覚えてるよ。お前の唇の柔らかさ…肌の温もり…色っぽい顔も声も全部忘れらんねーし、忘れたくねぇ」

「約束が違う…仲間に戻ろうって…そう約束したでしょ?」

「仲間がなんだって言うんだよ。惚れてる気持ちを誤魔化してまで俺は仲間なんてやりたくねーよ。お前のその『仲間』っつう存在理由って何だよ…自分の気持ちに嘘をついてまで守らなきゃいけないもんなのかよ!」

「……………」



私は正樹の言葉に一気に押し黙る。

確かに…私が守ろうとしている『仲間』ってなんだろう。

気の合う仲間?…許しあえる仲間?…自分にとって居心地のいい場所?

だけど、正樹がいない今となっては私にとってその場所は居心地のいい場所なんだろうか。

確かに、綾祢も武も翔馬も一緒に居て楽しいし、気も許せる。

私にとっては彼らも大切な存在……だけど、何かが物足りない。

正樹がいなくなって、その空間で正樹の事ばかりを考えてる私の中の『仲間』と言う存在理由って…



「俺の自惚れかもしれないけど、あの時確かに沙代子は俺のモノになったよな?身体だけじゃなく心も一緒に…」

「わたっ…私には彼氏が…いるもの…」

「そいつの事が好きか?…俺よりも」



その言葉に一瞬鼓動が、ドクン。と高鳴る。

正樹よりも…私は彼が…?



「……………好き…よ」



今にも消え入りそうな私の声。

正樹はその言葉を聞いてから、顎に手をあてて自分に向けさせると、真っ直ぐに私の目を見てくる。



「俺の目を見て言えよ…ハッキリと今の男が好きだって…そう俺の目を見て…」

「………ごめん。これから彼氏んとこ行く予定だから…」



私はスッと正樹から視線を外すと、彼との距離を突き放すように体を翻して駆け出す。



「俺は諦めねぇから!ずっとお前の事を待ってる…お前が仲間としてじゃなく、俺を見るまでずっと!!」



背後から追いかけてくる正樹の声。

私はその声を心の奥で耳を塞ぎながら、暗闇を走った。



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