〜*〜 Eternal Lover 〜*〜



変わらない日常

変わらない生活

変わらない…仲間


ずっとそうだと思ってた。

何も変わらないと思ってた。

この先もずっと笑い合える仲間だと思っていた。




だけど、私達の歯車はあの日から完全に狂い出していた――――。




「ねぇ。最近、正樹付き合い悪くなったよね?」

然程気にしてる様子もなく、何となく。といった感じに綾祢(あやね)がワインの入ったグラスを煽りながら誰となしに問いかける。


いつものようにお酒をしこたま買い込んで、あの日と同じ武の部屋で飲んでいる私達。

ただ、あの日と違うのはここに正樹の姿がない事。

そうしてしまったのはあの日の私の一言。

キッカケを作ってしまった私の言葉。



――――だったら試させてよ、正樹のキス



私は、いつも隣に笑いながら座ってるハズの正樹の存在がない、ぽっかりと空いた空間を眺めながら、グラスに口を付ける。


「あぁ。なんか正樹のヤツ。最近バイトを増やしたとかで中々休みがないんだってよ…悪いなぁって言ってたけど?」

「そうなんだぁ。正樹ってば生活苦しいのかしら?」

「さぁ?女に貢いでたりするんじゃねぇの?あいつの女、結構派手好きだろ…大変だよなぁ」

「あー、俺も一回見た事あるけど…結構遊んでるタイプっぽいよな?なんであの子と付き合ってんだろ、正樹のヤツ」

「さぁ…好きだからなんじゃないの?」

「そうかなぁ?一緒にいるとこ見た事あるけど、幸せそうに見えなかったけど…」

「そんなの、他人が見て幸せかどうかなんて分からないわよ。それはそれで正樹も幸せなんじゃないの〜?」

「そんなもんかね?」


それぞれに酒やツマミを口にしながら、いつしか話題は正樹から別の方へと流れて行く。

私はそれに参加しながらも、頭の中では正樹の事ばかりを考えていた。



あの日交わした正樹とのキス。

些細なキッカケで一線を越えてしまった私達。

今でも目を閉じれば正樹の温もりも体の重みも思い出せる。

あの日の事を思い出すだけで、体が熱く火照ってくるけれど……


ねぇ、正樹。

あの日限りって約束したよね?

日が昇れば全て忘れて、私達はまた元の仲間に戻るハズだったでしょう?

どうして…どうして、逃げるの?

どうして、私の前に姿を現さないの?


あの日から正樹は私を避けるように、お昼休みに学食にも来なくなったし、こうした飲み会にも参加しなくなった。

偶然どこかで会ったとしても、スッと視線を逸らされて、いつの間にか姿が見えなくなっている。


……もしかして避けられてるかも。


そう思うだけで心が痛んだし、ギュッと胸を締め付けられたように息苦しくなる。


正樹の声が聞きたい…正樹の笑った顔が見たい。


その想いだけが日々強くなっている。

私達はもう、昔のように笑い合えないの?

気の合う仲間に戻る事はできないの?


ねぇ…正樹。声を聞かせてよ。




私は正樹の事を考えながら、いつしか一人でワインボトルを1本空にしてしまっていた。

これくらいじゃいつもは酔わないハズなのに、気が滅入ってる時ってどうやらアルコールのまわりが早いらしい。

視界に映る景色が、視線を動かすたびに残像のように残って後からついてくる。


「ねぇ、ちょっと沙代子?さっきから口数少ないけど…酔っちゃったとか?」

「え?あ〜ん〜…カモ。ちょっと頭がクラクラする…」

「マッジで?珍しいじゃん、沙代子がワイン1本如きで酔うなんてさ…どうした?何か悩み事でもあんのか?」


悩み事…ね。

あるにはあるけど…絶対言えない、こんな事。


まだ少し残る理性で口から漏れてきてしまいそうな言葉をグッと喉の奥へアルコールと共に流し込む。


「別に…悩み事なんてないわよ?ちょっと体調が優れないだけ…ね、ゴメン…今日は先に帰ってもいいかな?」

「あ?別にいいけど…そんな体調悪かったのか?」

「体調悪いクセにそんなに飲んで〜。沙代子もホントに酒好きよね?ねぇ…一人で帰れる?あたしも一緒に帰ろうか?」

「あ、ううん。大丈夫よ…綾祢はそのまま飲んでなよ。ぶらぶら歩いて酔いを醒ましながら帰るから…」

「歩いてって…もう夜中だぞ?こんな時間に女一人で歩いて帰ったらヤバイんでない?それでなくてもお前いい女なんだから狙われやすいってのに」

「そうだよ。彼氏に迎えに来てもらえば?」

「あー…ヤツはそんなんで迎えに来ないよ。だ〜いじょうぶ、大丈夫。武の家から私の家までそんなに遠くないしさ?いざとなったら携帯に電話するから…いつでも出られるように近くに置いといてよ」

「りょーかい。マジやべー時はすぐに電話して来いよ?俺らがすぐに駆けつけてやっからさ」

「さーんきゅ。じゃ、ごめんね…お先」



私は少しフラつきながら立ち上がり、みんなの心配そうな顔に見送られて武の家を出た。

あのままみんなの所にいたら、いつしか本当の事を言ってしまいそうで怖くて…

今のこの関係を壊したくなかったから、私は逃げた。



――――ううん。もう既に壊れちゃってるのかもしれないけれど。



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