*Love Game Side-Rei湧き上がってくる感情を、俺はエレベーターのボタンを凝視しながら抑え込んでいた。 唯が俺の背後で何を思い、同じ空間にいるのかなんて、考える事すら忘れるほどに。 あの２人を見ている時の腹の底から湧きあがって来る黒い塊… あの男が唯に触れた途端何かが弾けて、理性では抑えきれなかった俺の感情。 今でも俺があの時割り込んでいなければ、あのままアイツにヤラれていたのかと思うと、何故か言いようの無い感情に苛まれる。 クソ、クソ、クソ、クソッ！！ ムカツク…マジで気に入らねえ。 一度ならずニ度までも、こんな形で唯を助けただなんて。 その上、こうして男から奪い返し、自分の手の届く範囲に唯の存在を感じられるだけで、うるさいくらいに胸がざわめく。 それは多分、支配的な感情… ――――…独占欲 くそっ……俺は何を考えてんだよ。 そう目を閉じて頭（かぶり）を振ってみても、心のどこかで唯を誰にも触れさせたくないと思ってる自分がいることに、少しだけ気付いている自分がいる。 狂ってる… そう感じずにはいられなかった。 このままこうして唯と関係を続けていけばいくほど、俺が俺じゃなくなってしまう気がする。 だったら、今ここでこんなバカげたＧａｍｅなどやめると言ってしまえばいいじゃねえか？ いや…そんな事をすれば俺は認めてしまう事になる… 一体、何を…だ…？ 考えれば考えるほど、自分を追い込んでいる気がする俺。 それらを払拭すべく、もう一度小さく頭を振って、冷静な己をかき集める。 冷静になれ…考えろ… どうすれば自分にとって得策なのか。 どうすれば、元来の自分のペースに戻せるのか。 どうすればこの感情の起伏を……抑えられるのか… 俺はランプが灯っているボタンを凝視したまま、壁についた手をギュッと握り締めた。 エレベーターを降りたあと、シーンと静まり返る廊下に、俺と唯の足音だけが静かに響く。 いつもと同じ光景。 ただ快楽を楽しむための、性欲を吐き出すためだけの場所のハズなのに。 どれほど必死に感情を抑えてみても、一歩ずつ部屋に近づく度に俺の体が疼き出す。 すぐにでも唯を滅茶苦茶にしてやりたいと思う俺と、それを抑止する俺。 ２つの感情に葛藤しながら、俺は部屋のドアに手をかける。 『覚えてろよ、唯。次に会った時には思いっきりお前の中にぶち込んでやるから』 そう、あの言葉どおりにしてやれば済む話。 特別な感情など俺には必要のない事だろ？ 部屋の中に入るなり、自分を押し殺し、無言のまま唯の腕を掴んでベッドへと押しやる。 ベッドに倒れこみ、俺を見上げる唯の表情（かお）、大きめに開いた襟元から浮かぶ白い肌、スカートから伸びる艶やかな唯の細い脚。 その全てが恨めしいほどに、俺を煽りやがる。 こんな女は、はじめてだ… 何度抱いても飽きず、更に俺を煽ってくる女なんて。 脳天がぶち抜かれそうなほど相性のいい身体を持つ女。 今まで関係を持った女の中でも群を抜くほど極上の女。 そして、俺の感情をかき乱す唯一の女。 ――――桜田 唯。 バックルに手をかけながら、様々な思考を張り巡らせ、ジッと唯を見据える。 俺の中に僅かに残る理性。 それで行き着いた己の取る道…そう、発想の転換。 そもそも、このＧａｍｅはどっちが先に堕ちるか、だよな。 だったら… ――――俺のプライドをかけて、先に堕としてやる。 俺がコイツの事を特別視し始めているのは、今までからして揺るぎ難い事実。 それを背けようとするから、感情が余計に揺るがされるんだ。 認めてやる…俺が唯を特別な女として見始めている事を。 だから、どっぷり浸かる前に先にお前を沈めてやるよ。 唯の言動からして、コイツもまた俺を特別視し始めてるに違いない。 執拗に俺に拘る唯、あれはプライドと意地をかけただけじゃない。 あの居酒屋での様子、先ほど助けてやった時の表情…それらを見ても、同じ類（たぐい）の人間だから分かる事。 同じ類の人間だからこそ、それを絶対に認めようとしないのも手に取るように分かる。 俺がそうだったように… 認めたくない事実でも、それを受け入れた方が有利に事が運ぶ場合だってある。 全てを否定的に捉え、感情に翻弄され自分を見失うより、その方が打つ手だって見出せるハズだ。 唯…いつまでもそうやって、もがき苦しんでろよ。 お前がそれを受け入れない限り、俺の上に立つことなんて無理な話。 だけどお前はそれを受け入れまいと、頑なに拒んでいるんだろ？ そのまま沈んで堕ちていけよ。 俺はここから抜け出してやるから。 俺は唯の体に覆い被さり、首筋に唇を這わせ、ストッキングの上から秘部を撫で上げる。 鼻を擽る唯の甘い香り、指先に布越しに感じる、唯から溢れ出る熱い蜜。 唯の口から漏れる甘い吐息を耳にしながら、俺は愛撫もそこそこに、下着と一緒にストッキングを取り去り一気に唯の中を貫いた。 久々に感じる極上の空間。 腰を打ちつけるたびに、意識ごと持っていかれそうになる。 唯の中も俺を待ちわびていたように、熱い蜜が溢れ俺に絡みつき、自身を心地よく締め付けてくる。 ――――ヤバイ… そう感じたのは、唯が俺の頬に手を添えてきた時だった。 自然に近づけていた唯との顔の距離。 唯の手が頬に添えられるまで、こんなにも自分が距離を縮めていただなんて気付かなかった俺。 …何が受け入れただ。 無意識にこうなっているようじゃ、唯となんら変わりねえじゃねえかっ。 そう思ってはみたものの、唯と絡んだ視線を外すことが出来なかった。 頬を高揚させ、俺の律動に合わせて漏れる唯の甘美な声が鼓膜を揺さぶる。 そして、潤んだ瞳で俺を見上げる唯の視線が絡みつく。 言いようのない空気に包み込まれ、異様な感情が俺を取り巻いた。 どちらからともなく…引き寄せられるように…自然に重なった唇。 この瞬間、俺の理性が一気にかき消され、本能によって突き動かされはじめる。 初めて自分の唇に感じる、唯の柔らかく、温かい唇の感触。 それをもっと、と、求めるように、唇を挟み込み、音を立てて吸い上げる。 急激に、俺の中から熱いものが込み上げてきて、一気に身体の熱を上昇させた。 こんな感覚は、はじめてだった。 俺は自然に僅かに開いた場所から舌をねじ込み、唯の舌を絡め取る。 ねっとりと熱い唯の舌に自分の舌を絡め合わせ、掬い上げてそれをしゃぶる。 唯の口内に自分の唾液が流れ込み、吸い上げると唯の唾液が自分の口内に流れ込んでくる。 ２人して狂ったように、唯は俺の頭を抱え込み、俺も唯の頭を抱え込んで、お互いに唇を貪りあう。 肌が痺れ、熱が急激に一点に集中し始め、自然に早まる腰を打つリズム。 「…ぁっ…ぃ…イ…クっ…っ！！」 はじめてだった… 相手の果てる様子を楽しむこともなく、余裕を無くして声を洩らした直後に、性欲を吐き出してしまったのは。 唯とだって、先にいくまいと、理性をかき集めるぐらいの余裕はあったのに。 その余裕さえもこの時の俺にはなかった。 かろうじて、唯もほぼ同時に果てたようで、強い締め付けにより、自身から全てを搾り取られるような感覚に捕らわれつつ、それでも暫くの間、唇を離すことができなかった。 同じ類（たぐい）の唯と俺。 互いにあれほどまでに、頑なに護り続けてきた領域を、侵してしまった事の重大さ。 普通に生きてきた人間には、きっと理解できない事だろう。 このＧａｍｅさえ、人によっては狂気と取るかもしれない。 愛することも、愛されることも拒み続ける俺達が、それを賭けた遊びをしているだなんて。 いや…もう、遊びとは呼べないのかもしれない。 一番触れて欲しくない部分を、今まで貫き通してきた事を、心の奥底に閉じ込めてきた感情（もの）を、引きずり出して粉々に打ち砕こうとしているのだから。 俺も唯も狂ってる。 遊びではじめたハズのＧａｍｅに、運命さえも狂わされ始めている。 その事に、きっと唯も気付いてるだろう。 ２人の間に流れる空気が、それを物語っている。 それでも、唯はきっとこのＧａｍｅを止めると言わない。俺だってそうだ。 ここで止めると言ってしまえば、自分の気持ちを相手に露呈することになる。 誰かを愛して溺れる事こそが、俺たちにとって一番の屈辱なこと。 そして、先に折れるということも。 だから、どちらかが折れるまでこのＧａｍｅは終わらない。 意地と、プライドと、己の存在を賭けた、Ｌｏｖｅ Ｇａｍｅ。 頑なに護りつづけてきた領域を侵してしまった今…互いに踏み込んでしまった今、 先に溺れるのは俺か、それとも唯か。 ――――どちらかの心【はしら】が折れた時こそが… 神楽 ： あ〜、なんかもう。屈折してますか…（苦笑） 神楽には理解できないにゃーっ！ |