<ご注意>
こちらの作品には、性的描写・暴力系描写が含まれております。
申し訳ございませんが、18歳未満(高校生含む)の方、そういった表現が苦手な方は、
ご遠慮ください。



*Love Game





「ねえ、おねーさん。この後ボクと一緒に消えちゃわない?」



一軒の小洒落たBARで、みんなが盛り上がっている中、一人タバコを吸いながらショートカクテルを飲んでいるあたしの隣に座って、一人の男の子がそっと耳打ちをしてくる。



高校生のクセしていっちょまえに大人の女を口説いてんじゃないわよ。



そんな事を心の中で思いながら、タバコを灰皿に押し付けて消し、目の前にあったショートカクテルを
一口飲んでから、視線をその男の子に向ける。



何色にも染まっていない、真っ黒なさらさらのショートヘア。

スッと筋の通った高い鼻に、少し上がった切れ長の真っ黒な瞳。

細身なんだけど、しっかりと男としての筋肉を持つ綺麗な腕。

最近の高校生は発育がいいよなぁ、と思えるほどの長身の彼。

こうして制服ではなく普段着を着ていると、どこかの大学生でも通りそうなほど大人びた姿。

そんな彼は間違いなく学校でも…その他でもモテているだろう。

あたしはその子をマジマジと観察してから、ふっと笑みを漏らしてまたカクテルを一口飲む。

「あら。あたしを口説いてくれてるわけ?高校生のボーヤが6つも年上のあたしを誘うなんて、ちょっと早いんじゃない?」

「そう?一晩限りの遊びに年なんて関係ないと思うけどね。それに、このコンパに参加してるわけだから、高校生のボーヤ相手でもいいかな?なんて思ってたんじゃないの?」

彼はクスっと小さく笑みを漏らし、あたしの飲んでいたショートカクテルをそっと手に持つと、クイッと残りを飲み干してから、また小さく笑う。



―――― ひと晩限りの遊びに年なんて関係ないと思うけどね



ふぅん。こういう『遊び』には慣れてるわけだ。

最近の高校生は何して遊んでんだか。

「今日のコンパの相手がコウコウセイだなんて思ってなかったのよ。年下って事だけ聞いてて、あたしは無理矢理参加させられたようなものだから」

「そうなんだ。でも、コンパに参加してるって事はそういう『遊び』もOKって事でしょ?おねーさんくらい綺麗な女性なら、彼氏の一人や二人くらいいるだろうしね」

「誰も『遊び』がOKだなんて、一言も言ってないわよ?さっきも言ったわよね、無理矢理参加させられたって…人数あわせの為だけに、ココにいるかもしれないでしょう?」

「ボク、そーいうの見抜けちゃうんだよね。おねーさん、結構遊んでるでしょ?」

あたしの私生活を見抜いたとでも言いたげな表情で、彼は射抜くような視線を向けてニヤリと笑う。



………失礼な言い方。



クスクス。と不敵な笑みを漏らす彼を少し睨んでから、新しいタバコを取り出して火をつける。

まあ、『遊んでる』事に関しては否定はしないわよ。

特定の人間と付き合う事を嫌うあたしには、一晩限りの男なんて過去に何人もいるし…つい最近もあった事。

だけど、それを高校生のガキに指摘されると無性に腹が立つ。

あんたに何が分かるの?…あんたに何が出来るのよ、って。

でも、売られた喧嘩(…じゃないけど)は買うタチだから、その申し出を受けてあげてもいいけれど?

「……あなたにあたしを満足させられる事が出来るのかしら?」

ふーっと煙を吐き出して、挑戦的な視線を向けると、彼の方も口元を少しあげて意味深な表情を見せてくる。

「さぁ…それはどうだろうね?ボクはまだ高校生のボーヤだから?経験豊富なおねーさんには敵わないかもしれないね」



イチイチしゃくに触る言い方をしてくるわね、この子。



口ではそんな事を言っておきながら、自信たっぷりの様子の彼に、カチン。と頭を突付かれる。

いいわよ。だったら試させてもらおうじゃない?その自信のほどを。

試した上で、そのたっぷりな自信を根こそぎ抜き取ってあげるわ。





「――――いいわ。今日はあたしがボーヤと遊んであげる」







あたし達は一次会が終わった時点で、そっと2人で抜け出した。

あとで友人から何を言われるか大体想像がつくけれど、最終的にはきっと、「あまりボーヤを弄んじゃダメよ」って事に落ち着くだろう。

みんな馴れ合いなんだ…こういう事。

きっと今日も何人かはあたしと同じような『遊び』をするだろう。

彼女たちはそういうスリルと快楽を楽しんでいる。

そう…あたしと同じように。



「ねぇ、おねーさんのお気に入りの場所とかあるの?」

「別に…そんなものはないわ。どうせどこでだってすることは一緒でしょ?それより、その『おねーさん』て言うのやめてよ。なんか、ムカツクんだけど。名前とかで呼んで」

「あー、ごめんね。ボク、イチイチ一晩限りの女性の名前なんて覚えてらんないから。最初から呼ばない主義って言うか、覚えてない」

「あ…そう」



はぁ〜…それだけ沢山の女と寝てきたからって事を自慢したいのかしら?



ニッコリと微笑んで、あたしの腰に腕をまわして歩き出す彼にため息が洩れる。

相当遊んでるわね、この子。

高校生にしてはヤケに女の扱いに慣れてるし、それなりの気配りも身についている。

さっきのコンパの場所でだって、あたしがタバコに火をつけると、さり気なく近くに灰皿を置いたり、飲み物が無くなるとすぐに次のモノが置かれている。

しかもそれぞれの好みを把握してるように、あたしの前にはあたし好みの甘いカクテルが注文されていたし。

今、あたしの腰を抱いて歩き出したのもものすごく自然だった。

この子、学校でもこんな感じなのかしら。

ふとそんなことが脳裏を過る。

いや…きっと違う。学校では明るくて、友人とふざけ合うようなごく一般的な高校生活を送っているに違いない。

『ボク』とは言わずに『俺』と言って――――。


別に確信があるわけじゃない。ただの直感。


「ねぇ…あなた、昼の顔と夜の顔、どっちがホンモノのあなた?」


突然のあたしからの質問に、一瞬、え?と言う表情を見せてから、暫くしてクスクス。という小さな笑い声と共に、さすがだね。と呟く。

「へぇ。ボクが仮面を被ってるってこと分かったんだ…さすが。ダテに何人もの男と遊んでないってわけか。昼の顔と夜の顔…どっちがホンモノのボクなんだろうね?もしかしたら、どっちもボクじゃないのかも」


そういって、何とも言えない意味深な笑みを浮かべる彼。

やっぱり。と、心の中で頷きながらも、それがあたっていたからと言って嬉しいわけでもない。

大体、一言余計なのよ。

黙ってりゃそこそこいい男なのに、その口と性格が災いしてるわよね。


可愛くないクソガキ。


心の中でそう吐き捨てながら、あたしは夜の街を彼と共に歩いた。




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