*Love Fight






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「はじめまして、美菜さんとお付き合いさせていただいています長瀬 修吾と申します。」

シーン。と静まり返った我が家の広くない和室に修吾君の声が響く。

私の隣りには修吾君。そして机を挟んで彼の前に私の父が座り、その横に母が座る。

・・・・・で、何故か私の右斜め前には弟、幸太郎の姿。

――――何故いる。

この緊張感の中、似つかわしくないニヤニヤとした笑みを浮かべた幸太郎に、あっち行ってよ。と口パクで口を動かしながら睨みつける。

いいじゃねぇかよっ。と、立ち退く気配も見せずにそのまま居座り続ける幸太郎。

もぉ。お父さんとお母さんがいるだけでも、修吾君かわいそうなのにそれに加えて弟にまでいられちゃやり辛いじゃない。

そんな私の心配を余所に、修吾君と父の会話は進む。

「君の噂は予々うちのヤツと幸太郎から聞いてる。美菜を大事にしてくれてるそうだね。」

「はい。とても大切な女性なので、僕の出来る限りの事はしてるつもりです。」

「で、今日は?美菜と付き合ってるって言う報告かね?」

「はい。美菜さんと付き合い始めて、ご両親に挨拶もないまま付き合って行くのはどうかと思いまして。今日ご両親共いらっしゃるとの事でしたのでご挨拶に伺いました。」

すごい・・・修吾君てばどうしてそうスラスラと言葉が出てきちゃうの?

それに堂々としてるし、緊張してないのかなぁ。横にいる私の方がすっごい緊張しちゃってるよぉ。

私は口から飛び出してきそうな程高鳴る心臓を何とか抑えようと必死で耐えていた。

だってだって、付き合ってるっていう挨拶だけならまだしも・・・これからが本題なんだもん。

あぁ。どうしよう・・・やっぱり面と向かって許可を得るなんて無理なんじゃないのかな。

修吾君はうちの両親がダメって言ったら諦めるって言ってたけど・・・。

「そうか。今どき珍しいな、ちゃんと挨拶に来るなんて。おい、幸太郎。お前も相手さんの家にこうやって挨拶に行ったのか?」

「うぇっ?!何でそこで俺の名前が出るんだよっ!俺は俺でちゃんとやってっから心配すんなって・・・それよりも今は美菜の事だろ?」

「むむぅ。わたしは別に反対せんぞ?こうやってきちんと挨拶出来る子だからな。安心して認めてやるぞ。」

がははっ。と大きな口を開けてバカ笑い。――――恥ずかしいからその笑い方やめてほしいんですけど。

ちょっと、お父さんその笑い方やめてよ。と言おうと口を開いた所で、修吾君と声が重なる。

「それでですね・・・挨拶もそうなんですけど、一つ許可を頂きたい事がありまして――――。」

うわっ!きたっ!!本題だぁ・・・やだぁ。すっごいドキドキしてきちゃったよ。

私は開いた口を閉じられないまま、修吾君に視線を向ける。

きっとすっごいバカ面の私。

「何かね?」

修吾君はもう一度きちっと正座し直すと、真剣な眼差しを父に向けた。

「来週の金曜日のクリスマスイブに美菜さんとの外泊を許可していただきたいんです。」

「外泊?!」

俄かに父親の声が大きくなり、眉間にシワがよる。

やぁぁぁ!やっぱダメだっ!!絶対ダメだっ!!こっ怖すぎるよぉ・・・やっぱり言わなきゃよかったんじゃ・・・――――。

「無理を承知でお願いに来ました。でも、美菜さんに嘘を付かせてまで行きたくはないので、ダメだと言われれば諦めます。でも、許してもらえれば・・・・・・」

「ダメっ!!」

ガーンッ!!・・・その一喝に私の肩がガクンと垂れる。

やっぱりダメだよね。そりゃそうだよね・・・いくら付き合いを認めてもらえたからって外泊なんて無理・・・・・

「・・・・・って言うと思ったかね?」

「「は?」」

父の言葉に私と修吾君の声が重なる。

私たちの間の抜けた声に、お父さんは少し笑うと再び表情を固めて腕を組む。

「もうね、お前達がそういう関係なのは知っとるよ。母さんが前に言ってたし。隠れてコソコソと行かれるなら怒らねばならんが、こうしてちゃんと直々に許可を貰いにきたんだ。その行動に免じて許可してやる・・・・・んが、しかし!!」

なっなんだっ!!急におっきな声だしてっ!!!

大きな声に私の体がビクンッ。と飛び上がる。

「ちゃんと責任ある行動は取ってもらわんと困るぞ?・・・意味分かるね?」

「はい。それはもちろん。」

何々?・・・私はちっとも意味が分かりませんがぁ。責任ある行動?それって道中気をつけろって事かなぁ?

首を傾げる私に、幸太郎がここぞとばかりに茶々を入れてくる。

「美菜、お前意味分かってねぇだろ。」

「なっなによぉ・・・分かってる・・・もん。」

「ほぉ。分かってんだ。大人になったなぁ。」

意地悪い笑みを浮かべる幸太郎。――――ん?大人になった??どういう意味?

私がきょとん。と修吾君を見上げると、彼も困ったような笑みを返してくる。

・・・・・・何でしょうか。

「・・・・・ん、まあ。美菜はこんな調子で分かっとらんみたいだから、長瀬君。君がしっかりしてくれなくちゃいかんぞ?」

「はい。肝に銘じておきます。」

なっなによぉ。私だけ「はみご」ですか。

意味が分からず、一人頭を抱えているとお父さんが、ところで長瀬君。と口を開く。

「はい。」

「――――・・美菜のどこに惚れたかね?親のわたしが言うのも何だが、結構苦労するだろ・・・ドジすぎて。」

――――はっ?!・・・ちょっと待ってよ、お父さん。実の娘を掴まえて苦労するとはどういう意味だぁ!!

「なぁ、オヤジもそう思うだろ?修吾さんみたいにしっかりした人が、どうして美菜なんかに惚れるのかね?不思議でたまらん。」

「ちょっちょと・・・。」

「お母さんも不思議なのよねぇ。実際会ったらすっごい男前じゃない。長瀬君、本当に美菜でいいの?考え直すなら今のうちよ?」

おいお〜いっ!今日初めて口にしたかと思えば、なんちゅう事を言うんだお母さん!!

「クスクス。いえ、僕は美菜さんがいいので考え直す事はありません。美菜さん以外は考えられませんから。」

しゅっ修吾君!あぁ・・・なんて素敵な人なの、あなたって人は。

改めて彼に惚れ直し、私を罵る家族を睨む。

「みっみんなして何て事言うのよっ!!」

「だって・・・・・なぁ?」

「・・・ねぇ?」

「・・・のぉ?」

そう口々にこぼしてお互いを見合う私の愛する家族達。

なぁ?ねぇ?のぉ?じゃねぇーーーーっ!!!

なんか・・・頭痛くなってきた。



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