*Love Fight






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・・・・・まいったな。

美菜が行きたいと言っていた水族館に向かってる途中なんだけど・・・。

いつもは全く気にならないすれ違う人の視線――――なのに、今日はやたらと自分の首筋に視線が 注がれてるような気がしてならない。

いつもとは違う自分の体の一部分。

彼女が俺の首筋に付けた紅い痕。

美菜に付けられたという嬉しさはあるものの、やはりそれよりも恥ずかしさの方が上回る・・・。

「はぁ・・・何か今日はやたらと人に見られてるような気がする。」

「え〜、長瀬君が注目を集めるのはいつもだよ?だってカッコイイもん。」

ため息まじりにそう呟くと、不思議そうに首を傾げる美菜。

・・・・・そうじゃなくてね。

俺はもう一つため息を付く。

誰のせいだと思ってるんだよ、まったく。

「美菜が変な所に付けるからでしょ?」

「へ?」

何を?という表情で俺よりも頭一つ分小さい彼女は覗き込むように見上げる。

分かってないよね、やっぱり。俺が何を気にしてるのか・・・。

「コレ!!」

俺は強調するように少し声を大きくして、自分に付いている印を指差す。

途端に頬を赤く染めて俯く美菜。

「ごっごめんなさい!!・・・うぅ。だってそんなにくっきり付くと思ってなかったんだもん。」

「どう見たってくっきりはっきり付いてるよね。」

「うへぇっ。だからごめんなさいってぇ。」

「俺は服から出る部分には付けないようにって気をつけてたんだけどなぁ。」

意地悪く笑い、美菜を覗き込むようにすると昨夜の事を思い出したのか更に真っ赤になって俯く彼女。

あまりの可愛らしさに思わず顔から笑みがこぼれる。

「うぅ・・・だってぇ。なっ長瀬君がいっぱいいっぱい付けるんだもん・・・だから。」

「だって付けたかったもん。」

「うへっ!そっそんなはっきりと・・・。」

「俺もココに付けようかなぁ。」

立ち止まり俯く美菜を見下ろしながらそっと彼女の首筋に親指を這わす。

「やっ・・・ダメだよぉ。それは・・・困ります・・・。」

頬を染めながら俺の顔を見上げる美菜の表情に、自分の中でも昨夜の事が思い出される。

ヤバイかも・・・。

ここにきて、一線を越えてしまってタガが緩んでしまいそうな自分がいる事に気が付く。

ダメだ・・・ちょっと気を引き締めて行かないと。

改めて自分に喝を入れなおすと、行こっか。と呟き、美菜の手を引いて再び歩き出す。



***** ***** ***** ***** *****




水族館は夏休みも終盤という事もあってか、案外空いてるのに驚く。

今頃、小学生などは山積みされた宿題などを頑張ってるんだろうか。

まぁ、空いてるに越したことはないから有難いのだけれど。

クーラーのよく効いた館内は、外から来た自分達にとってはとても過ごしやすかった。

辺りが薄暗いせいもあってか少しヒンヤリとした風が俺と美菜の間を通る。

「わぁっ。涼しいねぇ。動物園とかにしなくってよかったぁ。」

「・・・・・動物園も候補に入ってたの?」

さすがにこのクソ暑い中で動物園は勘弁してほしいかも・・・・・。

「うん。だってチンパンジーとかオラウータンとか見たいもん。」

そう言って無邪気に笑う美菜を見ると、別に動物園でもいいか。などと思ってしまう辺り、自分が 自分でおかしくなってくる。

・・・・・あぁ、惚れてるなぁ。ってさ。

でも、何であえてチンパンジーやらオラウータンなど猿系を好むか・・・・・。

いや、かわいいっちゃぁ可愛い・・・?

女の子なら普通もっと可愛い動物を好きとか言わないか?

そこら辺りまだ俺は美菜を分かってないのかな。ま、これから順に知っていけばいいのだけれど。

「ねぇ!長瀬君、長瀬君、見て見て!!おっきぃ魚ぁ。すごいねぇ。」

「ぶっ。」

入り口から入ってすぐの大きな水槽に駆け寄ってへばり付く美菜を見て、思わず噴出してしまった。

だってあまりにも無邪気過ぎて・・・可愛い過ぎるよね、コレって?

「やっ!なっ何で笑うんですかぁ?・・・いっ今、笑うとこ?」

「クスクス。うん、笑うとこ・・・たまんない。」

あれ、デジャヴ・・・何か前にもこんなやり取りあったっけ?

あぁ・・・そうだ、合宿に行く時のバスで俺の横に座った美菜の仕草や言動があまりにも可愛すぎて思わず 噴出した時に交わした会話。

あの時直人らが仕組んだ事とは分かってたけど、それでも美菜が隣りに座るというだけで有頂天になって たっけ。平然な態度を取るのに必死だったよな、俺。

あの合宿で、まさか美菜から告白されるなんて思ってもみなかった。

――――ずっと1年の頃から好きだった彼女に。

同じクラスでいる間に告白しようとは決めていたけれど、やっぱりどこか一歩踏み出せない自分がいて。

もし、フラれたら?・・・美菜が他のヤツを好きだったら?

そう思うと中々行動に移せなくて・・・情けないよね、俺。

だけど今その彼女が俺の横を歩いてくれて、俺だけに見せてくれる顔があって。

手を伸ばせば触れられる距離にいる。

・・・・・・何か不思議な感覚。

こんな日が来るとは思ってなかっただけに、嬉しいと言うより夢なんじゃないか。って気さえしてくる。

まさか、夢とかじゃないよな・・・昨夜の事だって。

腕に確かに残る美菜の柔らかい肌の感触――――思わず自分の頬をつねってみる。

――――感覚はある。夢じゃないよな。

・・・・・って何やってんだろう、俺。

大きな水槽を眺めていた美菜が振り返り、そんな俺の様子を不思議そうに見る。

うん、確かに彼女は俺の手の届く距離にいる。

再確認しながら、自分の取った行動に苦笑を漏らすと美菜の手を取り先に進む事にした。


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