Love Fight < **Kagura's House**

Love Fight


...11

背後に向かって発せられた長瀬君の言葉にびっくりして、思わず後ろを振り返ってしまう。

え……誰?

不安げな面持ちでじっと目を凝らして見ていたら、二つの影がひょっこりと暗闇の中から出てきた。

「チッ。な〜んだ、バレてた? さっすが修吾。隙のねえやつぅ〜」

「うふふっ。でも、美菜! よかったねぇ♪ ばっちりゴールイン!!」

けっ、恵子に柊君っ?!

まさか……今までの事、見られてた?

うっそ。 すんごく恥ずかしいんですけど〜〜〜〜っ!!!

ニヤニヤと薄ら笑みを浮かべながら歩み寄ってくる二人の姿に、私は恥ずかしくて堪らなくて、きっと真っ赤になっているであろう顔を隠すように長瀬君の腕にしがみつく。

そんな私の様子に、楽しげに二人が囃し立ててきた。

「美菜ちゃん、かっわいぃ〜♪ 照れてやんの〜!!」

「照れなくてもいいじゃない、美菜ぁ。本当にもう、可愛いんだからぁ♪」

いや、普通に照れるでしょうよ。

キスシーンまで見られて照れない人がいるなら教えて欲しいって!!

ほんと……あなた達、二人揃っていい趣味してますね。

「まぁったく! お前らくっつくのにどんだけ時間かかってんだよっ!! 最初っから両思いなんだから、早くくっつけってぇの!!!」

「ほんと、ほんと。何度も告白のチャンスをあげてるのに全然行動に移さないしさぁ、傍から見ててヤキモキしちゃったわよ。ま、最終日までにくっついたから許してあげるけど?」

「え……最初からって……?」

「最初からは、最初からよ。一年の頃から両思いだったって、知っていたって事よ」

「え……えぇぇぇっ!!?」

「お互いの気持ちが向き合っているから、すぐにくっつくと思って暫く放っておいたんだよ。こういう事はあまり周りが口を出すことじゃねえって思ってたからさぁ。だけど、修吾のヘタレが全く行動に移しやがらねえから、痺れを切らした俺らが今回の合宿の間にくっつけようって決めたんだよ」

そう口を尖がらせて呟く柊君に、長瀬君が、悪かったなヘタレで。と、不貞腐れたように呟く。

「美菜も、美菜よ。あれほど私が大丈夫よって背中を押してあげているのに尻込みしちゃうんだもん。どれだけあんた達は両思いなのよ!って言いたかったか」

言ってくれれば良かったのに……恵子の意地悪ぅ〜。

そうしたらあんなに悩まずに済んだかもしれないのにぃ……って、そもそも私に意気地が無いのがいけなかったんだよね。

もっと早くに勇気を持てていれば、もっと早く気持ちが通じていたんだ。 ちょっと、いや、かなり後悔。

「ま、今回、色々と手を回してくれた事には素直に感謝してるよ。直人が言うように俺はヘタレだし? 正直、どうすればいいのかわからなかったから。でも、お前らのお陰で気持ちを伝える事が出来たし、直接美菜の気持ちを聞く事も出来た」

ね? というように、長瀬君が顔を覗き込みながら私の頬を優しく指で撫でる。

その仕草にポッと頬が熱くなって、向けられる温かな視線に目を逸らす事が出来なかった。

「きゃ〜♪ “美菜”だってぇ。もう、なに? この雰囲気。すっかりラブラブカップルになってるじゃん!! ちょっと、お姉さん感激だわ」

「羨ましいねぇ、初々しいカップル! イヒヒッ。キスシーンなんて、ウブすぎて思わずニヤけちゃったもんなぁ。あんま見せ付けんなよ、修吾」

このこのぉ〜。と、肘でつつく真似をする柊君。

いつもの調子で、完全におふざけモードだ。

私だったら絶対に顔を真っ赤にしてたじろぐだけで、何も言い返す事が出来ないこんなノリも長瀬君には通用しなかった。

「とか言いながら、お前らも俺らに触発されたんじゃねえの?」

「は? 何、言ってんの?」

「口紅…ついてるけど? 制服も乱れているみたいだし、俺らを覗き見するまで何処で何をやってたんだよ……変態」

「へっ、変態?! ばっか、お前!! 何を言ってんだよ。制服なんて乱れているわけねえだろっ。念には念を入れて、口だってちゃんとふ……」

「直人っ!!」

突然、恵子の一際大きな声が闇夜に響く。

その声に、しまった。とでも言うように、柊君が慌てて口を手で塞いだ。

「修吾っ!! おまっ……また、カマかけやがったなっ!!」

「何度も引っかかるお前が悪いんだろ」

「ぅっ…………恵子ぉ〜〜〜」

「もう、直人の口軽バカ! 暫く絶交だから、話しかけないでっ!!」

何やら憤慨している恵子。 その恵子に泣きつく柊君。

その様子をしれっとした様子で見ている長瀬君。

三者三様の姿を眺めながら、ただ一人、私だけがこの状況についていけないでいた。

何の話をしているのか、さっぱりわからない……。


「とっ、とりあえずこの話は置いといてだな……花火、やらね? まだ残ってるしさ」

柊君が恵子のご機嫌を窺うように問いかける。

問われた恵子はぷいっと柊君にそっぽを向くと、私たちに話しかけてきた。

あらら…柊君、可哀想。 しょんぼり落ち込んじゃってるよ。

「あ。線香花火じゃん! 美菜たち、これをやっていたの?」

「え……あぁ、うん。長瀬君とね、競争をしていたの。どっちが長くつけていられるかって」

「へぇ、面白そう! あ。でも、確か線香花火って、最後まで火玉がついていたら願い事が叶うとかって、そういうのなかった?」

「うん、うん。あったよね? 長瀬君ともそんな話をしていて……さっき、長瀬君のが惜しかったんだよね?」

「結局、落ちちゃったけどね?」

「ふ〜ん。長瀬でも願掛けとか、そういうの信じるタイプなんだ? ね、何を願ったの?」

私もそれは気になっていたんだ。

あとで聞こうかなと思っていたから恵子が聞いてくれて丁度良かった。

彼からの返事にコッソリと聞き耳を立てたけれど、耳に届いたものは素っ気無い言葉だった。

「教えない」

「えぇーっ! なんでよ、教えてくれたっていいじゃん。減るものでもないんだしさぁ」

「願い事なんて、他人に言うことじゃないだろ。それに、そんなものを知ってどうする?」

「別に、どうもしないけどさ。ま、教えたくないならいいや。 私も、久々に線香花火をしようかなぁ。ね、みんなで競争しようよ!」

「うん。しよう、しよう! 柊君も一緒に、ね?」

恵子の隣で完全にしょげている柊君に声をかけると、彼はチラッと恵子を見る。

俺もいい? と、訴えている柊君の視線。

完全に尻に敷かれてるね。と、小声で囁いてくる長瀬君の言葉に、思わず吹き出しそうになってしまった。

そう言われればそうかも?

恵子は袋から残った線香花火を取り出すと、少し口を尖らせながら一本を柊君に差し出す。

「じゃあ、直人。火玉が落ちなかったら許してあげる事にする」

「マジで? マジでっ?!」

「だけど、もし落ちたら、私が欲しかったブランド物のポーチ買ってもらうからね!!」

「え゛……なんで、そうなるんだよ。この間、ミュールを買ってやったばっかじゃん!」

「この間は “お前に似合いそうなミュールを見つけたから、気に入ったら買ってやるぞ” って、直人が言ったんじゃない。私がねだったわけじゃないもん。でも、さっきのは直人が悪いんでしょ? いいよ、別に仲直りしたくないなら買ってくれなくても」

「だーっ! わかった。買うっ、買うから!!」

「じゃあ、頑張ろうね? あ。直人は別に頑張らなくてもいいけど」

「おぅ。恵子が許してくれるなら、俺、何でもいい」

うん。完全に尻に敷かれてるね……柊君。

途端に上機嫌に、俺、二本やる〜♪ と、はしゃぎはじめた柊君の姿に、ほんの少し苦笑が漏れた。


随分と短くなってしまったロウソクを取り囲んで、六本分の線香花火が翳される。

柊君と恵子が二本ずつ。 私と長瀬君がそれぞれ一本ずつを手に持って、せーの。で、一斉に火をつけた。

一本、一本はとても儚げな花火だけど、六本同時ともなるとそれなりに煌びやかな世界になる。

先ほどとは少し違う華やかな景色に暫く見惚れていると、一番最初に柊君の火玉が二つ同時に落ちた。

「あ゛〜〜〜〜〜っ! 落ちたぁぁっ!!!」

「やったぁ♪ ポーチ、ゲットぉ!!」

そう言ってはしゃぐ恵子は、もはや競争などどうでも良くなったのか、ぶんぶんと花火を振り回して喜びを体で表現する。

当然火玉はその反動で落ちてしまい、あっけなく二人は脱落して他の花火を消化しに行ってしまった。

どうやら恵子のご機嫌もすっかり直ったようで……我が親友ながら、現金なヤツだと思う。

恵子たちが花火の山がある場所に移動してしまったから、残るは私と長瀬君の一騎打ち。

二人ともがいい具合に火玉になりはじめている。

チラッと長瀬君の様子を見てみると、彼は少し笑みを浮かべながら、だけどどこか真剣な眼差しで手元を見ていた。

長瀬君、何かお願い事をしていたりするのかな…

聞いても無駄かな。と、思いながらも口が勝手に動いてしまった。

「長瀬君、何か願い事をしてるの?」

すると彼は手元に視線を向けたまま、あいたもう片方の人差し指を自分の唇に押し当てた。

「シ…。きっといけるよ、コレ。俺の勘が当たっていたら…だけどね?」

そんな意味深な言葉を口にして、長瀬君はまた手元に集中する。

勘って……?

何となくそれ以上聞く事が出来なくて自分の手元に視線を戻したけれど、私は気になって集中する事が出来なかった。

暫く、無言の時間が流れる。

少し離れた場所から恵子たちのはしゃぎ声が聞こえているけれど、ここは別世界のように静かだった。

「見て……美菜」

長瀬君の囁くような声が耳に届く。

それに顔をあげて見てみると、先っぽに黒い塊がついた物を長瀬君がヒラヒラと揺らしている。

もしかして……

「すごい……最後まで落ちなかったんだ?」

「うん。見事、成功」

「すごい。すごい、すごーいっ!! 長瀬君、やったね!! 私、初めて見たよ」

「あははっ! うん。俺も初めての成功。あ、でも…美菜のは落ちちゃったんだ?」

「え……あ! ホントだ。気づかなかった。さっきまでついていたのに……落ちちゃったんだぁ、残念」

「何かお願い事をしていたの?」

そこではたと気がついた。

そう言えば、長瀬君の願い事のほうが気になって自分のを忘れてた。

「願い事をするの、忘れてました……」

「あはははっ! そっか。まあ、願い事は付属品で、元々は競争だったもんね? じゃあ、俺が優勝ってことで」

そう言ってクスクスと笑う長瀬君。

だけど、私はその付属品の事のほうが気になって仕方なかった。

――――長瀬君は何を願ったの?

そう口にする前に、柊君が先に声をかけてきてしまった。

「お! さっすが、修吾。成功させやがったな。 お前って昔から何かと器用にこなすもんなぁ……俺には無理だ。そんな辛気臭ぇこと、チマチマとやってらんねえよ。男なら、ドーン! と、でっかく行かなきゃなぁ? 花火ならどでかい打ち上げを一発ってな。線香花火なんて、俺の性に合わん!!」

「あぁ、お前は昔っからビッグな男らしくガサツだもんな? だから、よく失敗して怒られる」

長瀬君はそう言って意地悪く笑いながら、視線を柊君の後ろで花火を楽しんでいる恵子に向ける。

さすがは長瀬君。 嫌味には嫌味で返し、相手の痛いところまで突いて落とす。

柊君も、痛いところを突きやがって。と、返す言葉が見つからなかったのか苦虫を潰したような顔になっていた。

「ねえ、ちょっと。そっちが終わったなら、こっちに戻って来なさいよ。残りの花火、みんなでパーッとやっちゃおう!」

恵子の一声で、ぞろぞろと元の場所に戻る私たち。

結局、長瀬君が何を願ったのか聞けなかったな。

少しそれが心残りだったけれど、私は今、もの凄く幸せな気分だった。

「次は何をしようか、美菜」

「うーんと、じゃあ……次は、コレ?」

「うん、それもいいね。でも、こっちも綺麗な色だったよね?」

「あ。うん、うん。じゃあ、恵子たちみたいに、二本同時にしちゃう?」

「あはは! 二本同時に? でも、大丈夫かなぁ。美菜に二本も同時にさせて?」

「わっ。ひどーい。それくらいなら私でもきっと大丈夫ですっ」

そんな風に言葉を交わしながら、長瀬君としゃがみ込んで花火を選んでいる私の手は、コッソリと彼の手に繋がれている。

時折いたずらをする様に、指先を摘まれたり撫でられたりすると、隠したくなるほど顔が赤くなったけれど、ちょっぴりくすぐったい気分だった。

今でも長瀬君と両思いになれたなんて信じられない。

絶対に無理だと思っていた人と、こうして手を繋ぎながら笑い合える日が来るなんて思いもしなかった。

だけど、繋がった手のひらから伝わる彼の温もりは、確かに私に届いている。

本当に長瀬君と……

「美菜? そんな可愛い顔をして見てたら、俺、襲っちゃうよ?」

「え……えっ?!」

突然の言葉にびっくりして目を見開くと、彼は少しいたずらっ子のような表情を浮かべながらクスクスと笑った。

どっ、どういう意味!?

「こらーっ、お前らっ!! いつまでイチャついてんだよっ。花火をやらないなら、どっか消えろーっ!」

「わっ! ごっ、ごめんなさい。やります、やりますぅっ!!」

「俺は美菜と二人きりになりたいから、消えたいけどね?」

そう、耳元で囁いてニッコリと笑うと、長瀬君は数本の花火を手に持って立ち上がった。

……え……やっ……へっ?……ふっ、二人きりって……ななっ、長瀬君っ?!




*** *** ***





「お〜い、全員揃ったか? 席に着いたら出発するぞ! おい、こらっ。もうちょっと静かにしろよ、おまえらっ!!」

ガヤガヤと騒がしいバスの中、角川先生が大声を張り上げて前から順に生徒たちの頭数を数えて行くのを横目で見ながら、その視界の隅に映る存在に、やや緊張で体が固まってしまう。

バスに乗り込むとき、当然のように私を隣に座らせてくれた長瀬君。

来たときと同じ座席。 だけど、来たときとは違う私たちの関係。

一晩経つとやっぱりまだ信じられない気持ちの方が大きくて、気恥ずかしさも混じってどう接していいのかわからなくなった。

「どうしたの、美菜? もう、眠くなった?」

「え? やっ、ちがっ……その、緊張……しちゃって」

「あははっ! 緊張って、どうして緊張するの?」

「だって、長瀬君の隣……だし、なんかまだ昨日の事が信じられなくて……その……」

「あぁ。俺も、まだ夢見心地って感じかなぁ。昨日さ、嬉しすぎて眠れなくてね。朝日が昇るまでずっと窓の外を見てたよ」

「うそっ…え、一睡もしていないの?」

「うん。ずっと、美菜の事を考えてた」

そう言って長瀬君は私の手を取ると、二人の間の僅かな隙間にそれを忍ばせて指と指を絡ませながら繋いでくる。

きゅん。と、胸を締め付けられるのを感じながら視線を長瀬君に向けると、うっとりするほど色っぽい眼差しが向けられていた。

「俺の頭の中、美菜の事でいっぱい」

「ながせ、くん……」

「美菜がまだ信じられないなら、信じさせてあげる。だから、俺にも夢じゃないんだって信じさせて?」

長瀬君はそう囁くと、私の顎を指で掬い上げてそのまま軽く唇を重ねてくる。

柔らかい感触が唇に伝わり、ほんのりと温もりが広がっていく。

覚えてる。 この感触も温もりも……大好きな長瀬君のもの。

ゆっくりと緊張が解けていく。 周りの事など気にならず、自然と目が閉じていた。

「……信じられた?」

そう、少し唇を離して長瀬君は私を見つめながら囁きかけてくる。

「ん……。長瀬君、は?」

私も彼を見つめながらそう囁き返した。

「うん。やっと手に入れられたんだって、改めて実感した」

「長瀬君」

「これから、色んなところに一緒に行こうね。もっと、美菜の事を知りたいんだ」

「うん。私も、長瀬君の事をもっと知りたい」

「好きだよ、美菜」

「私も、長瀬君の事が好き」

お互いに微笑みあい、引き寄せられるように顔がまた近づく。

だけど唇が重なる直前、長瀬君の顔がスッと遠ざかっていった。

……………?

「よし。全員揃っているな。 運転手さんが来たら出発するから、もう席を立つんじゃねえぞ! って、聞いてるのかお前ら!!」

背後から角川先生の怒号にも似た大声が、足音と共に近づいてくる。

わわわっ! あぶなっ。そう言えば、ここバスの中だった!!

今更ながらにその事に気づき、瞬く間に顔がゆでだこのように真っ赤に染まっていく。

どうしよう、どうしようっ。長瀬君とキスしているところ、誰かに見られていたら……

「どうしたの、美菜。顔が真っ赤だけど?」

クスクスと笑いながら、そんな意地悪なことを言う長瀬君。

なんで? どうして長瀬君は、そんなに余裕でいられるの??

「だっ、だって。今の、誰かに見られていたら……」

「大丈夫。ちゃんと確認しているから、誰にも見られていないよ?」

そっ、そうなの?

もしかして、周りが見えていなかったの私だけ??

あぁぁ。なんか、もう……恥ずかしいよぉ〜〜〜っ。



バスが走りはじめると、少しずつ騒がしい声が消えていく。

みんな、連日の疲れが溜まって眠っているみたい。

後部座席のほうで、ポツリポツリと話し声が聞こえるけれど、先ほどまでの騒々しさが嘘のようにバスの中は静まり返っていた。

「みんな寝ちゃってるみたいだね」

「うん。だから、角川のイビキがやけにうるさく聞こえるよ」

「あははっ。ホントだ。先生、イビキかいてる。うわぁ、爆睡? よっぽど疲れてたんだね」

「特にこのクラスは騒がしいから。気苦労が絶えないんじゃない? あぁ。それか、三組の担任の事で悩まされているのか」

「ふふっ。あの噂、本当なのかな?」

なんとなく、周りに聞こえないように小声で話している私たち。 自然と近くなるお互いの顔の距離に、内心ちょっとドギマギしたりして。

やっぱり、長瀬君の綺麗な顔が近くにあるとドキドキしちゃうんだもん。

そのせいか、車が動き出したらすぐに寝てしまう私なのに、不思議と眠たくならなかった。

長瀬君とコッソリ手を繋いだままっていうのもあるのかな?

「そう言えば、今日は美菜、眠らないね? 車に乗ると絶対に寝ちゃうって言ってたのに」

「うん。なんか、不思議なんだけど全然眠たくならないの。 あ! でも、長瀬君は眠たいんじゃない? 昨日、一睡もしていないんだよね?」

「不思議と俺も、全然眠くないんだよね。きっと浮かれてるんだよ、美菜とこうしていられるから」

そう言って長瀬君は、繋いでいないほうの指の背で私の頬を撫でて優しく微笑む。

私は何だか恥ずかしくなって、少し俯いてしまった。

浮かれているんだなんて、ちょっと長瀬君らしくない台詞。

スキンシップも多い気がするし、話し方も私にだけ違うんだって気がついた。

今まで、クールで少し近寄りがたいイメージを持っていたけれど、今の彼にはそんな感じはどこにもない。

これって、私にだけ見せてくれる姿なのかな?

そう思うと嬉しくて、思わず笑みが零れていた。

ドキドキとハプニング続きの合宿だったけれど、長瀬君の色んな姿も見られたし、私にとって忘れられない合宿になっちゃったな。

「なに笑っているの? 美菜」

「え? あ、ちょっと合宿中の事を思い出しちゃって。色々あったなぁって」

「そうそう。行きのバスでは頭をぶつけちゃうし、森で迷ってクマさんとか言っちゃうし? あ。そう言えば、俺らの部屋で思いっきり転んだのもあったね」

「……………ぅ」

それ、全部私のドジ話じゃないですかっ!!

確かにそれも色々ありましたけれども! それは私にとって日常茶飯事とも言える出来事で……。

私が言いたいのはそういう事じゃなくて、長瀬君との事なんだけどな。

あぅ。と、うな垂れる私の様子に、長瀬君はおかしそうに声を立てて笑いながら、冗談だよ。と、頭をポンポンと撫でてくる。

「もうっ。長瀬君の意地悪っ!!」

「あははっ! ごめん、ごめん。美菜が可愛いから、ついつい苛めたくなっちゃって。 うん、色々あったよね? 美菜と手を繋いだのも、抱きしめたのも、キスをしたのもこの合宿が初めてだもんな……それに、こうして思いが通じたし。忘れられない合宿になったね?」

「うん。そうだね」

行きのバスで肩を貸してくれた事も、森で迷った時、必死で探してくれた事も、花火の時、初めて私の名前を呼んでくれた事も忘れないよ?

全部、全部、素敵な思い出。 私にとって大切な宝物だもん。

改めてこの二泊三日の事を思い出し、走馬灯のように流れる数々の出来事に自然と笑みが零れていた。

「あ!そうだ……一つ、長瀬君に聞きたい事があったんだ」

「俺に聞きたいこと?」

「うん。長瀬君は言いたくないかもしれないけれど……」

「何? 言ってみて」

「あのね……昨日、線香花火を成功させたとき、何を願っていたのかな……って」

「あぁ、あの時?」

「うん。でも、恵子にもそんな事を聞いてどうする?って、言っていたでしょ? だから、私も聞いちゃいけないのかなって。あ! ダメならダメでいいよ? もう、聞かないから」

「気になるくせに? ダメなら言わなくてもいいの?」

「そっ、それは……教えてもらえるなら、教えて欲しいけれど。 でも、無理にだったらいい」

「無理じゃないよ。俺、美菜には言えないこと、何もないから。俺は美菜には隠し事もしないし、嘘もつかない。そう決めたから」

信じるかどうかは美菜次第だけど? と、長瀬君が笑う。

「長瀬君……」

「あの時、俺が願っていたことは、コレ」

そう言って長瀬君は、柔らかい笑みを浮かべながら繋いだ手を持ち上げてみせる。

………手?

全く意味がわからなくて首を傾げると、彼はクスクスと小さく笑いながら私の耳元に頬を寄せて囁いた。


「ずっと、美菜とこうしていられますように」


「ながせ、くん……」

「この先も、ずっとこうして美菜と手を繋いでいたいなって思ったから」

「この先も、ずっと?」

「そ。ずっと、ずーっとね」

この先もずっと……

長瀬君とこうして手を繋いでいられたら、きっと幸せだろうな。

「うん、ずっと一緒にいたいな」

「いられるよ。俺の勘って結構あたるんだ。だから、覚悟しておいたほうがいいよ?美菜」

「え……?」

「永遠にこの手は離してあげない」

本気とも冗談とも取れる長瀬君の言い方に、どう反応していいのかわからなくて顔だけが真っ赤に染まっていく。

熱い…非常に顔が熱いっ。

私の顔、どれだけ赤くなっているのかしら……。

「あははっ! 美菜、顔が真っ赤。可愛い〜。 これでキスしたら、もっと赤くなっちゃうかな? すごく今、美菜にキスしたいんだけど?」

「うにゃぁっ!! もっ、もうっ! からかわないでくださいぃぃ〜〜〜っ!!」

なんか…なんかっ。長瀬君のキャラ、変わってません?

妙に甘いというか…ストレートというか。

こんな容姿端麗な彼に甘い言葉なんかをストレート言われた日には……あぁ、ダメ。心臓が破裂しそうだ。

まだ、長瀬君と思いが通じたばかりなのに。

初っ端からこんなにドキドキさせられて、私はこの先どうしたらいいのでしょう?

この先、ずーっと、こんな風にドキドキしっ放し?!

嬉しいような、ある意味不安なような……複雑な気持ちを乗せて、バスはのんびりと走り続けていた。



- END -

2009-06-25 加筆修正



だはーっ。ごめんなさい…やっと書き終わりました(T_T) AM.4:53現在
あぁ…空がなんだか明るいわ〜ん。
もしかしたら、このページはあとで修正入れるかもしれません。
そして、ここのあとがきも支離滅裂な文章になってるやもしれません……

このページも、大幅に容量を増やしました。
いや、正確に言うならば……気づいたら増えてました↓↓
一部内容を変更していたり、エピソードを増やしたりしていますが、少しでもお楽しみいただけたら嬉しいなぁと思います。
えぇ。突っ込みたい箇所も多々あるかと思いますが(汗)ニヤけていただいたり、軽くスルーしていただけると助かります。

なんと言うか。全体を通して、旧作品より落ち着いた雰囲気になっちゃったでしょうか。
特に美菜が(笑)
でも、修吾と美菜の雰囲気はいい感じになっているんじゃないかと(勝手に)思っていますので、
恥ずかしいですが…新旧見比べながらお楽しみいただけたら幸いです〜
旧作のほうが良かった。と言われるとちょっと凹みますが(^_^;)

そうそう。あれほど旧作で使っていた美菜の鼻血話ですが。
なんか知らぬ間にカットされてました(カットしたのあんただ)
まあ、女の子だし、鼻血ネタでなくてもいいかな、とか思ったり。
また気が向いたら登場させるかもしれませんけれど(笑)

ひとまず、第一話完成です!! 遅くなってしまって本当にごめんなさいっ!!!
続きは、ちょっと間があいてしまうと思いますが(出た)
水面下で書き溜めて、今度はコンスタントに更新出来るように準備しますね。