*Secret Face 次の日俺は宣言通り、学校を休んで病院の手術室の前に居た。 そこには姫子の父親と義母の美佐江さん、そして弟の裕也の姿もあった。 親父さんは俺の顔を見るなり、色々ありがとう新一君。と微笑まれて、若干後ろめたい気分になる。 半分は…いや、大半が俺のせいかもしれないのに。 「ホント、新一君がいてくれてよかったわ。姫子ちゃん一人だったらやっぱり心配だものね、あなた。」 「うん、そうだな。こういう時には本当にそう思うよ。新一君がいなかったら、姫子一人じゃどうする事も出来なかったろうしな。すまんな、新一君。いつも姫子の面倒を見させて。」 「そんな、面倒だなんて。僕の方が色々お世話になってますよ。」 そうぎこちなく笑みを浮かべていると、ちょいちょいっと下の方から服を誰かに引っ張られる。 ふと見ると、俺の宿敵裕也の姿。 俺はその小さな体を抱き上げて、どうした?と首を傾げる。 「おじちゃん、またお姉ちゃんをいぢめたでしょ?ダメだよ、お姉ちゃんをいぢめちゃ!お姉ちゃんを苛めるヤツは僕が退治しちゃうんだから!!」 このクソガキ…益々口達者になりやがって。 裕也はまた一つ大きくなって、俺の事を『おいたん』から『おじちゃん』と呼べるようになったらしい…っつうか、まだおじさんじゃねぇっつうの! だけど、裕也の言葉が俺の的を得てるだけに返す言葉が見つからない。 「でも、おじちゃんがお姉ちゃんを病院に連れて来てくれたんだよね?今回は許してあげる…ありがとうね、おじちゃん。」 ニッコリと裕也に微笑まれて、思わずつられてこちらも笑みを漏らす。 クソガキに許してもらえたよ…悔しいけど、ちょっと嬉しいかもしれない。 俺は小さな体を抱きしめたまま、姫子の手術が終わるのを待っていた。 暫くして、手術室の電気が消えて中から眠ったままの姫子が姿を見せる。 「手術は無事成功しました。今は全身麻酔が効いてるので眠っていますが、暫くしたら目が覚めると思いますよ。」 そうニッコリと笑って、担当医が俺等に告げてからそのままどこかに立ち去っていった。 みんなして安堵のため息を漏らし、一緒に病室へと戻る。 麻酔から醒めた姫子と、面会時間ギリギリまで話していた父親が明日どうしても外せない仕事が入ってるからと申し訳なさそうに姫子を見ると、姫子は、新一がいるから大丈夫だよ。と、ニッコリと笑って返す。 その言葉に少し寂しそうな顔を見せた親父さんだったけど、新一君がいるなら安心だな、と俺に向かって笑いながら肩をポンっと叩いてきた。 美佐江さんも暫くここに残ろうか?って言ってきたけれど、即座に、あ、それはお邪魔だわよね?なんておどけて見せたりして。 俺の両親もそうだけど、姫子の両親も結構……なんつーか、オープンだよな。 まぁ、一番帰る事を渋ってたのは裕也だって事は言わなくても分かると思うけど。 俺は帰る支度をして、じゃぁ、またな。と声をかけて病室を出て行った姫子の両親を、ある決心を抱いて後を追う。 「あのっ……」 「ん?新一君…どうした?」 俺の声に立ち止まり、ゆっくりと振り返る両親に、一呼吸置いてからゆっくりと口を開く。 「あの、こんな所でこんな事を言うべきじゃないとは思うんですけど……近い将来俺に…いや僕に姫子さんをもらえないですか?まだ高校も卒業してなくて、ハンパな僕がまだ言うべき事じゃないと分かってます。でも、今回の件ですごく彼女が僕にとって大切な存在なんだって事を再確認して、ずっとこの先も自分の手で彼女を護って行きたいってそう思ったんです。僕には無くてなならない存在で、これから先もずっと一緒にいたいって思うから。近い将来、彼女を護れる強い男になってみせます、その時は姫子さんを連れて正式に挨拶に伺わせてください。」 俺の言葉を聞いて、驚いたような、それでいて嬉しそうな表情で両親がお互いの顔を見合わせる。 それから少しの間を置いて、親父さんが徐に口を開いた。 「いつか君からそういう話が来るかな、とは美佐江と話してたんだ。まぁ、こんなに早いとは思わなかったけどね?でも、今の段階の新一君じゃ姫子をやるつもりは毛頭ない。姫子はずっとこの先いくつになっても私たちにとってかけがえの無い大切な宝物なんだ、新一君…君が姫子を想う気持ちと同じようにね。だから姫子を悲しませるような事は絶対に許さないし、間違いを犯すような事が起きる事はもちろん論外。その辺の事も含めて、私は君を全面的に信用してる。分かるね、この意味。」 「はい。」 とは言うものの……若干耳が痛い気がする…あ、心臓も。 「……待ってるよ。」 「え?」 「新一君が立派な男になって、私たちの前に現れるのを楽しみに待ってる。」 親父さんは、信用してるんだから、裏切るなよ?と付け足して、微笑みながら俺に近づき、肩をポンっと叩いてくる。 その叩かれた肩の重みを俺は一生忘れないと思った。 「ありがとうございます。」 「勘違いしないでくれよ?まだ新一君を未来の姫子の旦那として認めたわけじゃないんだからね?」 そうしっかりと念を押されて、両親が帰って行くのを姿が見えなくなるまで俺は見送り続けていた。 病室に帰ると姫子は首を傾げながら、遅かったね、何話してたの?と椅子に座る俺に向かって尋ねてくる。 「あぁ、親父さん達に姫子をくださいってお願いしてきた。」 「へぇー、そうなんだ……って、え?!なっ、何々どういう事?」 「ん?近い将来俺の嫁さんにくださいって頼んできたんだって。」 「ちょっ、ちょっと待って、何その話…私聞いてないよ?」 「まだ言ってねぇもん。」 「まだ言ってねぇもんって…そんな軽く言わないでよ。将来の事だよ?一生の事なんだよ?そんな簡単に決めちゃうの?」 「簡単にだなんて決めてねぇよ。ずっと考えてた事だから。まだ、俺は半人前で姫子を護って行くだなんて偉そうな事を言える立場じゃねぇけどさ、必ず近い将来胸張って堂々と姫子の両親に会えるような男になってみせるから……姫子も真面目に俺との事を考えてくれねぇかな。」 「それって……プロポーズ?」 「んー、プロポーズであってプロポーズじゃねぇな。」 「何それ。」 「クスクス。だって、まだ今の俺じゃ姫子を護って行けねぇから。姫子の全てを護れるような男になってから、改めてプロポーズするよ。」 「……新一」 じっと俺を見つめる姫子の頬に自分の手を添わせて、ふっと笑みを漏らす。 「今回の件でさ、姫子の事がどれだけ俺にとって必要な存在なのかって再確認したからよ。絶対手放したくないんだ、姫子だけは。ずっと傍にいて欲しい。もう俺らだって結婚出来る歳なんだぞ?将来の事を考え始めてもおかしくねぇだろ?」 「そうだけど……」 「別に焦って決めろっつってんじゃねえし、これからの俺を見て姫子が決めてくれたらいい。俺は姫子と姫子の両親に認めてもらえる男になれるように頑張るからさ。」 姫子は暫くの間じっと俺の顔を見つめてから、ニッコリと微笑みかけてきてゆっくりと口を開く。 「私のハードル、結構高いよ?」 「あぁ、どんな高さだろうが超えてみせるよ。」 「じゃぁ、私も……新一に相応しい子になれるように頑張るね。」 「今のままでも充分だけどな?」 そう言ってお互いに微笑み合い、どちらからとも無く唇を寄せる。 俺は必ず強い男になってみせる。 姫子という一人の愛する女を護れるくらいの強い男に。 親父さんと交わした近い将来の約束。 必ず実現させてみせる……だから、楽しみに待っててくださいよ、 ――――堂々と胸張って、姫子を連れて会いに行きますから。 ++ FIN ++
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