*Secret Face






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桜咲き誇る新学期。

俺は緊張の面持ちで、掲示板に張り出された大きな用紙を食い入るように見つめる。

・・・・・俺のクラスは、っと・・・C組か。あいつ・・・姫子は同じクラスなのか?

小暮、小暮と小さく呟き、視線を下の方へずらしながら、指で書き並べられた名簿を辿る。

――――小暮 姫子。

おっしゃ!あった!!今年一年、高校最後の年も姫子と一緒のクラスじゃん!!!

俺は小さくガッツポーズを腰の辺りに作り、自然と口元がニヤリと上がる。

今年も姫子と同じ教室にいられる。などと、心躍らせていると、ぽん。と後ろから誰かに背中を叩かれる。

「おはよう、藤原君。今年も同じクラスやね。」

振り向いた先に、そう言って嬉しそうに微笑む姫子の姿。

「あれ、今誰かに背中叩かれた気がしたけど気のせいか?誰もいねぇじゃん。」

「おぃっ。」

「ん?声はするけど・・・見えねぇな。」

「こらーーーっ!喧嘩売ってんのかっ!!」

「おわっ!いたのか。小さくて見えなかった、悪ぃ。」

「・・・・・殴る。」

「クスクス。冗談だって。」

冬休み中、ずっと姫子から『新一』と呼ばれてただけに、久し振りに『藤原君』と呼ばれて若干の違和感を感じながら、姫子とそんなやり取りをしながら微笑み返す。

「もーっ。一緒のクラスでよかったね、って言ってるのに。」

「おぉ!そいそう。これで、今年一年も傍にいてやれるな。他の男にちょっかい出されないように監視する事もできるし。」

「ちょっちょっと、声が大きいって!もぅ、バレちゃうよ?それに監視って大袈裟すぎるって。」

姫子は途端に慌てた様子で周囲を見渡し、小声で俺に話しかけてくる。



――――姫子と付き合い始めて9ヶ月。

未だに全校生徒にはバレていない。

けど、バレてないだけに最近厄介な事になってきている。

姫子と付き合う為に前の女と別れてから、俺はフリーだという噂がどっから流れたのか女の子達の中で話題になってるらしく、春休みの間中入れ替わり立ち代り色んな女の子が家に押しかけてくるは、どこで番号を手に入れたのか携帯にじゃんじゃか電話をかけてくるはで大変だったんだって。

まぁ、それに託けてずっと春休み中姫子の家に入り浸る事が出来たから、それはそれでいいんだけどさ。

こんな状態の中、俺と姫子が付き合ってるなんて事がバレたら、すごい騒ぎになるだろうな。

姫子は今でも学校へ登校する時は、牛乳瓶の底のような分厚いレンズの黒淵の眼鏡をかけて、肩まで伸びた綺麗な黒髪を2つにわけてくくってるから、周囲からは『真面目な優等生』で通ってる。

その『真面目な優等生』と、『無敵の藤原 新一』が付き合ってるなんて事がわかったら・・・。

考えただけでも、ぞっとする。

俺は多分何の支障も出てこねぇだろうけど・・・問題は姫子の方。

女ってさ、男に矛先を向けるんじゃなくて相手の女に行くだろ?

ちょっと顔貸してよ。とかって呼び出して、集団で文句を浴びせたり、ねちねちとした嫌がらせとかをしそうじゃん。

俺の付き合ってた前の女なんて、気が強ぇから教室に怒鳴り込んできて姫子に刃を向けそうだし。

俺と付き合ってるせいで、姫子にそんな辛い思いをさせるのなんて耐えらんねぇ。

別に俺はみんなにバレたって構わないって最近思い始めたんだけど、そいつらや前の女からの嫌がらせとかを姫子にされるんじゃねぇかって思ったら、やっぱり隠してた方がいいよな。とかって思ったりして。

姫子は俺が護ってやるって言ってても、すべてに対応できるわけじゃないし。俺の知らないところで姫子を傷つけられようもんなら・・・俺、絶ってぇぶち切れる。

だから、9ヶ月経った今でも俺たちが付き合ってるっていう事は秘密にしてある。

ま、秘密っつっても知ってるヤツもいるけどな。

例えば、姫子の親友の麻田 恭子とか、サッカー部の連中とか。

こいつらは案外口が堅くて、未だに誰にも話してないらしい・・・その反動で俺をからかってきやがるのが唯一ムカツクところだけど・・・。

そういや麻田やサッカー部で一緒の山上 静の名前は見なかったな。あいつらは別のクラスか?

俺が姫子に再び声をかけようとした所で、不意に横から声がかかる。

「藤原く〜ん、おっはよぉ。ねぇねぇ、私達藤原君と一緒のクラスなのぉ、よろしくね。」

・・・久々に感じる虫唾。

甘ったるい声を出しながら、2人の女生徒が俺に向かってにっこりと笑いかけてくる。

途端に俺の顔から笑みが消え、声のトーンが一つ落ちる。

「あっそ。」

「や〜ん、藤原君冷たいぃ。でもでもそういう所もカッコイイよね・・・で、あんたは?」

俺に対する態度とは打って変わって、俺の向かい側に立つ姫子に冷たい視線を投げかける。

そのあからさまな態度に姫子は苦笑を漏らしながら、彼女達に向けて微笑む。

「あ、私も一緒のクラスなんだ。小暮 姫子・・・よろしくね。」

「ふぅん、そうなんだ。よろしく。あっ!それよりも、藤原く〜ん一緒に教室まで行こうよ。」

・・・・・変わりすぎだっつうの。

俺の目の前にも関わらず、コロコロと態度を変えるこいつらに大きなため息が漏れる。

「はぁ。お前ら勝手に行きゃいいだろ。俺はこの子とまだ話しあっから。」

「えぇぇぇ!なんでぇ?こんな子に何の話があるの?」

「お前らには関係ねぇだろ。」

「いいじゃん、同じクラスなんだったら教室行ってから話せば。小暮さんもそれでいいよね?」

「え?あ・・・はははっ。じゃぁお先に私は教室に行くね。」

俺に見えないように姫子に対して睨みをきかせたらしく、姫子は、はいはい。とでも言うように俺の前を通って足早に教室に向かっていく。

「あ、ちょっ・・おいっ!」

姫子の後を追って行こうとする俺の腕に2人の女が絡みつく。

「あん、もぅ藤原君は私達と一緒に行くのぉ。ね、いいでしょ?邪魔者は消えたんだから。」

お前らが邪魔者だっ!このクソボケっ!!

「・・・・・うぜぇ。」

「・・・・・へ?」

「あぁっ、もぅすっげぇうぜぇっ!俺に纏わりつくんじゃねぇっ!!」

俺は2人の腕を振り払うと、スタスタと教室に向かって歩きはじめる。

背後からは、あ〜ん待ってよぉ。と、甘ったるい声。

誰が待つかっ!!



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