*Secret Face










俺は今、非常に機嫌が悪い・・・・・・何でって?

今日からサッカー部の強化合宿とかって言って夏休みを利用して、学校の提携している ペンションに来てる。当初1週間の予定が予約するのが遅くて取れなくなったらしく、 1泊2日の強化合宿。そんならやめりゃぁいいのに・・・意味ねぇじゃん。

姫子もマネージャーだから当然合宿には参加。それはそれでいい。じゃあ何で機嫌が悪いか・・・。

それは、さっきから部員の山上 静(やまがみ せい)のヤツが姫子と馴れ馴れしく話してやがる事。

そりゃ俺が、姫子と付き合う前の行いが悪かったから表立って『付き合ってます』とは言えなくて、 誰も俺と姫子が付き合ってるなんて知らねぇし、遠慮する事もしないだろうけど。

――――ムカツク。

あいつ・・・静は『麻田 恭子』狙いじゃねぇのかよ。

俺はイライラする気持ちを抑えながら、姫子達と少し離れたソファに腰をおろす。

肘掛に肘を付き、2人を睨むように座っていると向こうからニヤニヤと笑いながらモデルの様に 長身で肩まで伸びている金髪に近い髪を今日はアップにしている女が近づいてくる。

「よっ藤原。えっらく今日は機嫌悪いわねぇ。」

「何だよ、麻田。何か用かよ。」

用がなくちゃ話しかけたらダメなの?と、綺麗な顔が笑いながら横に腰掛ける。

「もぉ。あんたって、そんなに丸分かりな顔するヤツだったの?ことごとくびっくりだわ。」

「何がだよ。」

「クスクスッ。焼きもち?姫子が他の男と仲良く話してるから。」

「なっ!!」

そう、コイツにだけは付き合ってる事がバレてる。言ってもいないのに、女の第六感だか何だか 知らないが言い当てられた・・・怖いヤツだ。

俺は途端に顔が赤くなる。

「ぶはっ!!傑作。無敵の2枚目藤原新一が姫子の事となると平常心保ってらんないんだから。」

「っるせぇよ!!用がないなら消えろって。鬱陶しい!」

「お〜怖っ。でもねぇ、静かぁ。あいつも中々いい男だからねぇ・・・」

麻田が2人を眺めながら意味ありげに呟く。

そう、俺の気に入らないもう一つの点。静は俺とはタイプの違った爽やかスポーツマンタイプの男で男女分け隔てなく仲良くするタイプ。んで人懐っこい。「カッコいい」ではなく「かわいい」顔。

まぁ、よく言うなら母性本能をくすぐる顔。俺から言わせれば「ガキの顔」。

あいつは俺と一緒でFWがポジション。ゴールを決めるのはFWが多いから必然と目立つ。

だから、俺ほどではないけれど密かにコイツのファンクラブらしき物があるらしい。

姫子を信用してねぇ訳じゃないけど、そんなヤツと楽しそうに話してる姫子も気に入らない。

小さな事でやたらムカついてくる自分にも腹が立つ。だぁもぉっ!!

「静も案外嗅覚鋭いのかもね。」

「あ?」

突然麻田が妙な事を口走る。何言ってんだ?コイツ。

「うふふっ。姫子が本当はむちゃくちゃかわいい顔だって事よ。気をつけなさいよぉ、藤原。侮れな い相手よ。クスクスッ私の第六感。」

「てめぇ、おもしろがってんだろ。」

「あははっ。バレた?姫子に狂ってるあんた見るの面白くってぇ。ま、何かあれば協力したげるから頑張って護りなさいよ。」

ね、と笑いながら俺の肩を叩くとすっと立ち上がってどこかに行ってしまった。

『ね、』じゃねぇよ!クソッ。いい性格してやがる。狂って何が悪いってんだ――――。

・・・・・はぁ。開き直ってるし。も、自分が自分でやってらんねぇ。

しかし静のヤロー、早く離れろっつうの!!



***** ***** ***** ***** *****




「――――藤原先輩?」

俯いて怒りを抑えようと必死になっていると、不意に頭上から名前を呼ばれる。

ふとその声に顔をあげると、目の前に満面の笑みを浮かべた女が立っていた。

制服のスカートを限界まで短く裾上げして、色気を出してるつもりかシャツは2つ目までボタンを はずしている。茶色い髪の毛は肩の下まで伸びていて毛先はくるんくるんに巻いている。

面倒くせぇ頭。

で・・・誰だっけ?コイツ。――――確か今年入ってきた1年のマネージャー。名前覚えてねぇや。

「あ?何、俺忙しいんだけど。」

「クスッ。え〜忙しそうに見えませんよぉ。座ってるだけじゃないですかぁ。」

久しぶりに聞く甘ったるい声に内心ムカついてた俺は、余計に虫唾が走る。

はぁ・・・何かコイツ今までの女と同じニオイがする。厄介だ。

俺の口から大きなため息が漏れた。

「先輩何だか元気がないですねぇ。ね、どこか散歩に行きません?午後の練習までまだ時間あるし。」

「行きたきゃお前一人で行けば?」

「えぇ〜。そんな冷たい事言わないでくださいよぉ。いいじゃないですかぁ。」

暇でしょぉ?と付け足す言い方に余計に腹が立ってくる。

暇してんじゃねぇっつうんだよ。どっかに消えろって・・・鬱陶しい。

そこで、ふと気が付く――、あぁ俺がどっか行けばいいのか。何も姫子と静が話してる近くで 怒りを増殖させなくても。少し落ち着こう、爆発しそうだし。

俺は徐に立ち上がると、あえてコイツ(名前が思い出せねぇ・・・興味ねぇからいいけど)を 無視してさっさと自分の部屋に向かった。

何か後ろで言ってるけど・・・いいや、面倒くせぇし。

俺は誰もいない部屋に戻ると自分のカバンを枕に畳の上に寝転がると目を閉じた。

しばらく言いようの無いムカつきに襲われていたけど、知らない内に深い眠りに入っていた。



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