*Secret Face あの日から、姫子と新一の交際は始まった。 新一は今までにケジメをつける為に、すべての女性と関係を切った。携帯も新しいのに換えて。 一番モメたのは、それまで付き合っていた彼女。 彼女はすごい剣幕で教室にやってきて、新一の事を捲くし立てた。そんな様子に動じることなく、新一は相変わらずな無表情。 教室にいる生徒は、みんな息を呑んでその様子を見ている。その中に姫子の姿もあった。 『うわっ。何、藤原のやつどうしちゃったの?彼女すっごい顔で睨んでるよ。揉め事??』 遅れて教室に入ってきた恭子が小さな声で、そして面白そうに姫子に呟く。 (恭子、こういう話題好きだからなぁ。・・・はぁ。きっとあれの件だよね。) 『あはは・・・なんだろうね?』 姫子は苦笑するしかなかった。今までの新一の付き合いを考えて、姫子に危害が加わらないように付き合う事をしばらく秘密にしようと言われたからだ。 「どういう事よ!!本気で好きな女ができたって。なんなのよ、それって。私、許さないわよ。どこの女?私、見つけ出して・・・っっ。」 新一は急に立ち上がって、彼女の肩をぐっと掴む。 「お前、そいつに何かしやがったらただじゃおかねぇからな。」 凄く低い声で、新一は呟く。彼女はみるみる青ざめると、踵を返して教室を出て行った。 絶対、許さないから。という言葉を残して。 途端に教室の緊張が解き放たれ、急にざわざわと騒ぎ出す。 「藤原ぁ〜。何、あんた本気で惚れた子ができたの?」 恭子がニヤニヤしながら、新一に近づく。 元々同じ中学出身だったというのと、サッカー部のマネージャーをやってる事で2人はそれなりに会話を交わす間柄だった。 「麻田には関係ねぇだろぉ。・・・でも、ま。見つけたよ。マジで惚れた女。」 新一は恭子から視線をはずすと、そっと友人と何やら楽しそうに話している姫子に向けた。 「・・・・・藤原、熱でもあんの?」 「何でだよっ。」 「あんたが真顔でそんな事言うと気持ち悪い・・・・・。」 「ほっとけ。」 「あはは。ま、中学からの付き合いって事で私に何かできる事があったら協力してあげるからさっ。そん時は言ってよ。でも、あんたを本気にさせる子ってよっぽどいい女ね。」 「あ?まぁな。」 「ふ〜ん。ご馳走様。あっ、ね、それってさぁ・・・・・。」 恭子はちょっと考えてから、顔をそっと新一に寄せると耳元で囁いた。 『もしかして、姫子?』 新一は椅子から転げ落ちそうなくらい驚いた表情を見せる。 「っげ!!はっ!?何でお前それ知っ・・・・・あ。」 ヤバっとでも言うように、新一は片手で口を塞ぐ。 「あはははは。なんだ、やっぱそうなんだ。うんうん、それなら納得。全面協力しちゃう。あの子はオススメよ。取って置きのいい女。」 恭子はケラケラと笑い、新一の背中をバンバンと叩く。 『何で、わかったんだよ。』 新一は頬を少し赤く染めて、周りに聞こえないように小さく呟いた。 『え〜、だってあんたいっつも姫子見てたじゃない。教室でも部活動でも。気が付かなかった?』 (俺、そんな前からあいつの事目で追ってたのかよ・・・・・) 『私ねぇ、そういう勘ってすごい働くのよ。うふふ、今回も当たった』 (・・・・・怖ぇ、コイツ。) 『でも、姫子は絶対大事にしなさいよ!!あの子は私にとっても大事な親友なんだから。何かあったらただじゃおかないからねっ。』 そういうと、もう一度バンっと背中を叩いた。 「わかってるよ。大事にするさ。俺が初めて惚れた女だからな。」 「あ〜くさっ、やってらんない。あんたが、こうもあっけらかんと言う奴だとは驚きだわ。ま、それだけ本気って事ね。でも気をつけなさいよ。学校では多少大丈夫だとは思うけど、外ではいつ悪い虫が付くかわからないわよ!知ってるんでしょ?」 あの子が眼鏡はずした顔。と最後は小さく恭子が呟く。 「あ?ああ。」 そう、姫子は学校では乱視のきつい度が入った黒淵の眼鏡をかけていて、一見真面目でおとなしそうな顔をしているのに、生活の為にバイトをしている時のコンタクトにした時の顔は誰が見てもかわいくてそして護ってあげたくなるような子になるのだ。 (俺は眼鏡でもコンタクトでもどっちでも護ってやりたくなるんだけど・・・・) 新一が姫子のコンタクトになった姿を見たのだって、新一の友人が姫子を気に入ったからであって。 「あの子、自分が男心をくすぐる顔だって事気が付いてないのよね〜。藤原、だからちゃんと捕まえておきなさいよ!!」 「わかってるよ。大丈夫だって。」 そう呟きながらも、少し不安そうな顔を浮かべる新一を見て恭子はニヤっと笑った。 そんなやりとりが、新一と恭子の間で繰り広げられているなどとは知る由もなく、姫子は友人との話に花を咲かせていた。 |