阿部誕2012

01.特攻隊長
朝起きてすぐ思いついたイタズラ。
今日誕生日のあいつにドッキリを仕掛けてやろう。
必要なのは全員への根回しメールとクラッカー、ホールケーキともう一つ。
あいつを足止めする人間。
このドッキリが成功したらあいつはどんな顔をするんだろう。
とりあえず朝練の前にあいつ以外の全員にメールしとかないと。
よし！一声気合いを入れて携帯に手を伸ばした。

02.一塁手
朝、準備をしていたら泉からメールが来た。
「今日阿部にドッキリを仕掛ける。プレゼント・祝いの言葉は部活後まで我慢。部活後、栄口は阿部の足止め、ほかの部員は部室で急いでクラッカーとケーキ準備」
祝いを“我慢”ね。
それって我慢しなきゃいけないくらいには、泉も阿部を祝いたいってことだよね。
うざいだの何だの言ってるわりに仲良いんだから、と笑いながら了解メールを打った。

03.応援団長
泉からの突然のメールで目が覚めた。
こいつはよくこういうことを思いつくな、と感心半分呆れ半分。
「クラッカーとケーキは誰が用意すんの？」
あくびしながら送信すれば、程なくしてメールが返ってきた。
「んなもん、部活顔出す前に浜田がダッシュで用意するに決まってんだろ」
ですよねー。

04.補欠先生
困った。
今日は阿部に会ったらすぐにプレゼント渡そうと思ってたのに。
プレゼントに選んだのはパンダの形のビスケットチョコ。
パンダの顔が阿部に似てるから選んだ。
ドッキリ自体はまあいいんだけど、問題はこのチョコ部分と教室でのオレの席だ。
オレの席、暖房近くて熱いんだよな。
授業中にチョコ…溶けちゃうかも。
……あ！そうだ。
このお菓子は沖と食べよう。
で、阿部には肉まんをあげよう。
阿部と言えば肉。肉と言えば阿部。
それに肉まんならどれだけ温まっても問題ない。
うん。我ながらいい考えだ。
コンビニに寄ることを考えて、いつもより10分早く家を出た。

05.三塁手
今日はいっぱい泉に注意された。
にやにやしすぎ、とか。
ソワソワしすぎ、とか。
阿部に不自然に絡みすぎ、とか。
もう九組の側通るな、とか。
全く泉はオーボーだ。
だけど、阿部の顔見るとにやけちゃうのも本当だからここは大人しく言うこと聞いておく。
ドッキリ成功したら阿部はどんな顔をするかな。
驚くかな。
喜ぶかな。
ありがとうって笑ってほしいな。
あーもう早く夜になれ！

06.左翼手
授業中、こっそり盗み見た阿部の顔はいつも通りだった。
皆から「おめでとう」の一言もなしなのに、阿部は平気なのかな。
オレなら無理。
ねー、今日オレの誕生日なんだ。
ねェ知ってた。オレ今日が誕生日なの。
ねーねー！今日何の日か知ってる？
おめでとうって言ってもらえるまで、こんくらい騒ぐ自信ある。
それでも無視されたら、きっと本気でしょげちゃう。
……阿部は大人だなぁ。
ふぅ、と小さくため息一つ。
花井の声をBGMにノートに視線を落とした。
何だかオレの方が悲しくなってきちゃったよ。
早くおめでとうって言ってあげたい！

07.マネージャー
昼休みのチャイムと同時に携帯をチェックする。
「みんな一日中何も言わないのもかえって不自然じゃないかな？」
そう思ったのも本当。でも、ちょっとだけ…四割くらい、私が皆より先におめでとうって言いたいな…って下心があったのも本当。
私がメールを送ったときは皆は朝練の最中だった。
返信来るなら多分お昼休みの今。
何度目か分からない受信確認をしようとしたとき、携帯が震えた。
メール受信一件。送信者は泉君。
水谷君と花井君も携帯を見てる。泉君は阿部君以外の全員にメール一斉送信したみたい。
「篠岡案。皆が何も言わないのもおかしいため、篠岡のみ先に祝ってよし。何か言われたら“知ってるよ、マネジだもん”で対応」
コレ、前に三橋君に言った台詞だ。
もー何で泉君が知ってるのよ、九組皆仲良しなんだから。何だかおかしくて笑っちゃいそう。
「千代ー何にやけてんの？つーか、あんたちょっと顔赤くない？」
やめて指摘しないで。今必死に別のこと考えてたのに。
もうどうしようどうしよう！私だけ先にお祝いしていいなんて！本当にそうなっちゃうなんて！
怪しまれないように自然に、を心掛けないと…あぁでもどうしたって頬が緩んじゃう。
こんなことじゃダメ！頑張れ！頑張れ私。
ご飯食べてる間に頬と気を引き締めなくちゃ。

08.遊撃手
練習中やたらソワソワしているのが三人。
田島・三橋・水谷だ。
二人は嬉しそうに、一人は少し気まずげに。
どうせ水谷のことだ。誰にもお祝いされないなんてオレなら悲しくなっちゃうよーとか考えてんだろ。
それならそれで「オレは個別に祝うよ」とでも言ってしまえばいいだろうに。
まあオレも、普通に祝ってやれよと思いながらドッキリ作戦に乗っているわけだからあまり他人のこと言えないんだけど。
これが体育会系の連帯感ってやつか。
あとは同じ妄想しない者同士、できるだけ盛大に祝ってやりたいという気持ちもある。
でっかい目を見開いてポカンと口あけた阿部の顔が容易に想像できて笑いそうだ。
よし。最後の大縄思いっきり跳んでやっか。