☆はげしくラプソディ♪
誰もいない教室に置かれたピアノ。
物思いに耽りながら、鍵盤を爪弾く。
幼きあの日、あの人と初めて出会った時に耳にした有名な曲。
忘れもしない。背中に走る衝撃。
子供ながらに思ったんだ。
“ぼくは、この人のようになりたい”って。
いや、“ぜったいに、なってやる”って・・・。
不意の拍手に指の動きを止める。
「いやぁ、さすがだね。君のピアノは聴いていて安心感がある。
表現の仕方に間違いがない。完璧だよ。不安要素がない。」
俺は、教授からの褒め言葉に特に礼を述べるでもなく、頭を下げるでもなく、ピアノの前から立ち上がった。
そして教授の方を向いてから口を開いた。
「俺・・・
ピアノ科から指揮科に転科します。
じゃ、そういうことで。失礼します。」
頭を下げ、呆然と立ち尽くす教授の横を通り過ぎる。
「・・・あ・・・き・・・北山くん!私に相談のひとつもせず、君、一体何考えとるのかね?!待ち・・・」
教室から出、ドアを閉める瞬間に教授の怒鳴り声が聞こえた。
が、防音設計のおかげで、ドアが閉まったと同時にその声は途絶えた。