グラサンカッパは公園のベンチへまっすぐに歩いていき、自ら手にしたリードをベンチ脇の街灯の柱にくくりつけた。
そしてベンチに大股を開いて豪快に腰かけ、腕組みをしたままじっとしている。
「どういうことなんだ・・・」
北山とふたりでグラサン(面倒なので以下省略)をずっと観察するが、動く様子は全くない。
グラサンに気を取られ、俺たちはユタタンとカオちゃんの存在をすっかり忘れていた。
突如「がるるるるるるるぅ〜・・・」という威嚇するケモノの声がし、慌てて振り返ると、ユタタンとカオちゃんの目の前に大きな大きな野良犬が迫っていた。
「かぁ?」
「ぱ?」
「ぐあぉぅっ!!!」
「ユタタン!」「カオちゃん!」
もう間に合わない。
ダメだ。
野良犬に食われる。
そう思った・・・のだが。
「きゃぅんっ!!」
なんと、自分のリードを外したグラサンがこっちへ向かって全力疾走したかと思うと、ユタタン・カオちゃんの前に立ちはだかり、犬を豪快に投げ飛ばした。
そのフォームたるや、全盛期の千代の富士を彷彿とさせるムーブで、まさに「見事」としか言いようがない。
相手が北尾光司あたりでも余裕で勝てそうだ。
「かぁ〜!」「ぱぁ〜!」
ユタタンとカオちゃんも感心しきり。
グラサンに向って、トコトコ歩いていく。
「ああっ、ユタタン!カオちゃん!」
そのカッパも相当ヤバいって!
と内心ヒヤヒヤしていたのだが、ユタタンとカオちゃんはグラサンに向かってパコパコとクチバシを鳴らした。
するとグラサンも、答えるようにパコパコした。
どうやらグラサンは俺たちに危害を加える気はないらしい。
その風貌から他の飼い主たちに誤解されていただけだったようだ。
なかなかの好青年・・・いや、好ガッパだ。
「てっちゃ〜ん!!」
突然、幼い女の子の呼ぶ声がした。
「て、てっちゃん・・・?」
ナニゴトか?と思い様子を窺うと、幼稚園の制服に身を包んだ女の子がグラサンに駆け寄り、抱きついた。
「てっちゃん!いいこにしてたぁ?」
「かぁ。」
「かえろっか!」
「かぁ。」
なんとグラサンの飼い主が幼稚園児であり、しかも「てっちゃん」というとっても可愛らしい名前であったことに大いに驚いた。
後日、ユタタンとカオちゃんを助けてくれたお礼に、他の飼い主たちの誤解を解いておいた。
その結果、「てっちゃん」はこの公園に集まるカッパたちの“リーダー”のようなポジションに君臨している。
たま〜にユタタンがイタズラすると・・・
「かぁっ!!」
上手投げで制裁を下してます・・・
それにしても、ユタタン、何度投げられても懲りないな・・・誰に似たんだ、ったく・・・
(’⇔’) 完