「♪ぼ〜く〜が〜すべてぇえ〜、なくしたの〜な〜ら〜ば〜ぁ〜・・・」
男の子がそんな歌を口ずさみながら歩いていると、近くで誰かがワイワイヤイヤイ言い合っている声が聞こえました。
「ん?なんだろう?」
男の子は木の陰に隠れて様子を窺いました。
そこは森の中でありながら小さな原っぱのようなスペースになっていました。
そこにさっき会った4匹のトラが一触即発、睨み合っていました。
「おい、お前のその靴いいな。俺に寄越せ。」
「なんでアンタに渡さないといかんのだ?!それよりお前の着てるスーツ、いいじゃないか。」
「そんな大きなカラダ入んないでしょ?そんなことより、その黒シャツ、おとなしく僕に・・・」
「やだ!サイズぴったりだもん!・・・ね、そのサングラスちょうだい?」
「誰がやるかよ。」
がるるるるるる〜・・・
4匹同時に威嚇し始めましたが、なぜか自然とハモっていました。
そしてついに均衡が破れました。
サングラスをかけたトラが、靴を持ったトラを追っかけて。
靴を持ったトラが、スーツを着たトラを追っかけて。
スーツを着たトラが、黒シャツを着た子トラを追っかけて。
黒シャツを着た子トラが、サングラスをかけたトラを追っかけて。
いやはや、えらいことになってしまいましたね。
『ラムがあたるを追っかけて、あたるがしのぶを追っかけて、しのぶが面堂を追っかけて、面堂がラムを追っかけて』という、まるで『うる星やつら』の構図のようです。
4匹は原っぱのちょうど真ん中に立っていた1本の木の周りを、グルグルグルグル回り始めました。
「みんななにやってんだろ。しんどくないのかなぁ。」
男の子は飽きることなくその様子を見ていました。
そして遂に。
あれあれあれ?
グルグル回り続けていた4匹のトラは、ついには溶けてドロドロになってしまいました。
「ひぃぃぃ!と、とけちゃったよ?!だいじょうぶ?!」
まぁ、大丈夫なワケないんですがね。
男の子は恐る恐る木の元へ歩み寄りました。
木を中心に黄色い物体が円を描くように残っていました。
男の子は独自の勘で、それを臆することなく味見しました。
「あ!カレー!」
やっぱね・・・このお話で君が主役だとわかった段階で、このオチはみんな推測済みです。
男の子は液体の中から、サングラスと靴と白スーツ(←カレーで黄ばんだ)と黒シャツを拾い上げて家に帰り、パパとママに一部始終を話しました。
そしてパパ・ママ・男の子の3人でツボを持って現場へ戻り、そのカレーをすべて持ち帰りました。
ママは帰って早々、カレーを温め、ナンを焼きました。
パパはナンを103枚(←とうさん)、ママは88枚(←はは)、そして男の子は9630枚食べましたとさ。(ケタ違いの食欲)
ちなみに、男の子のことを『サンボ』と呼ぶ友達がいましたが、それは男の子がコマンド・サンボの使い手(=コマンド・サンビスト)だったから、そういうアダ名をつけたそうです。
コマンド・サンボの使い手ならトラと闘えばよかったのに、というツッコミとともに、めでたしめでたし。(全然めでたくない)