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ちっちゃいカレ

 

 

むかしむかし。
ある国のあるちいさな村に、ひとりの男の子が住んでいました。

まだまだ幼い男の子でしたが、おしゃれにとても気を遣っていました。
今日もママお手製の白いスーツと黒シャツをパリッと着こなし、黒いサングラスをかけ、エナメルの靴を履いて、玄関のドアを開けました。
気分はすっかり「ブラザー」です。

「パパ〜。ママ〜。ちょっとさんぽにいってくる〜。」
「気をつけてね。危ないから森に行っては行けませんよ。」

ママがそう言ったのを聞いていたのか聞いていなかったのか(いや、確実に聞いていなかったであろう)、家を出た途端、森へ向かって一直線に歩いて行きました。
森の中は木が生い茂っていて昼間でも真っ暗でしたが、男の子は気にする様子もなくグングンと分け入っていきます。

「♪さぁ〜、みどりのフィールド〜」

男の子はそう歌ってはいますが、そこは『field=野原、競技場』ではなく思いっきり『森』です。
しかもその後は自分のパートではないのか、それだけ歌うとほんの少しだけ黙り込み、また歌い出していました。

 

ふんわかした雰囲気を醸し出しつつ歩く男の子の前に、身の丈の3倍もあろうかという大きなトラが現れました。

「うわぁ!トラだ!たべられる!」

ほらほら言わんこっちゃない。
トラが出没するから、ママは『森に行っちゃダメ』って言ってたんですけどね。

「お。これが人里名産『人間の子供』かぁ。いい塩梅で肉がついてて、うまそうだな。」
トラはどうやら『ご当地グルメ』が大好きなようです。

「いやいやいや、かんべんしてくださいよ〜!」
男の子はオッサンのような口調で、顔の前で両手を合わせて許しを乞いました。

「そんなにうまそうなのに。食べなきゃ損だろ。」
「いやいや、いがいとまずいとおもいますよ〜?」
「ふむぅ〜・・・よし、わかった、今日のところは食わないでやる。」

トラは『今食ったら量が少ない。もう少し大きくなってから食った方がお得じゃね?』と思いました。
男の子を『キャッチ・アンド・リリース』することにしました。

「じゃあそのかわり、そのグラサン寄越せ。」
トラはサングラスも好きなようでした。

「どうぞどうぞ、もっていってください!」

男の子は、かけていた黒いサングラスを外してトラに差し出しました。
トラは男の子の手からサングラスを引ったくると、すぐにそれを装着しました。

「お〜。やっぱグラサンがあると落ち着くなぁ〜。・・・じゃあな坊主。もう少し大きく(食べ頃に)なったらまた来いよ。」

トラは「♪もぉ〜行かなくちゃ〜ぁ〜れいで〜」と歌いながら去っていきました。

「・・・ほっ、たすかった・・・」
男の子はそう言って胸を撫で下ろしましたが、男の子とサングラスを奪い去っていったトラとのやりとりを見ている者がいました。


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