・・・ふたりは見ていませんでした。
BOXのサイドに小さく書かれた「開けるな危険」の文字を。
そもそもそんな危険なものを1周年記念に渡すとか、注意事項をそんな見えにくいところに書くとか、「キャバクラ竜宮城、どんだけだよ」というツッコミはあえてしないようにしましょうか。
とにかくそんな説明くさいことをウンタラカンタラ言ってる間に、紐はほどき終わっており、キャバ嬢は何の躊躇いもなく蓋を取ってしまいました。
コントで実験に失敗してしまった時のようにドカ〜ンという音とともに、BOXの中から「モ〜クモクモクモクモク〜」と煙が出てきました。
(言い方としては「ばくさんのかばん」で熊倉一雄が言う「バ〜クバクバクバクバク〜」と同じような感じの発音でお願いします)
「ごほっ!げはっ!な、何事だ、一体っ・・・」
煙を手で払う男は、我が目を疑いました。
さっきまでいたはずのキャバ嬢は消えていました。そう、まさに“煙”のように忽然と。
そしてキャバ嬢と取って変わるように・・・
「あ?何だこの汚ぇ部屋は・・・」
グラサンをかけた男が現れたのでした。
どうやら煙の作用で変身してしまったようでした。
「あ。カレー。」
グラサン男は、2人前のカレーをひとりでぺろりと食べ、さっさと部屋から出て行ってしまいました。
何が起こったのか理解できない男は、窓を開けグラサン男の行方を目で追いました。
グラサン男は浜辺に向かい、そこにいた子供たちに話しかけています。
「お前ら、もうすぐ晩メシの時間だろ?ガキはさっさと家に帰れ。」
「あのニートとおんなじこと言うんだね・・・ヤス、帰ろ?」
「そだね、きたやまさん帰ろ帰ろ。んじゃまたね、ポンガメさん!」
「気をつけて帰れよぉ〜。」
同じく浜辺にいた亀は、立ち上がって二足歩行でふたりに手を振りました。
グラサン男は、次に亀に声をかけました。
「おぅ。店まで送ってくれよ。」
「送ったらツケをナシにしてくれる?」
「ちっ・・・わぁったよ・・・」
話の内容から推測すると、グラサン男は「キャバクラ竜宮城」の経営者のようでした。
キャバクラで亀がやたら気前がよかったのはなぜなんだ、と疑問を抱いていましたが、亀は時々こうやってグラサン男を運ぶことでツケをチャラにしてもらっていたのでした。
グラサン男を背に乗せた亀は、ツケがなくなったことでかなりゴキゲンの様子で、鼻歌まじりでクロールで海へと潜っていきました。
「何だったんだ、一体・・・」
男は、キャバ嬢が消えたショックとカレーを食われたショックでしばらく窓辺で佇んでいましたとさ。
教訓。二兎を追う者は一兎も得ず。
ちなみに後日談としまして、男はその不思議な体験を筆ペンで描き、その本のヒットをキッカケにニートから作家へと華麗に転身を遂げました。
仕事とお金が手に入ったことで男の輝きは増し、放っておいても勝手に女性が寄ってくるようになりましたとさ。
教訓その2。失敗は成功のもと、失敗は成功の母。指圧の心は母心、押せば命の泉湧く!
おしまい。