踊る大・大江戸線/1.遊びごと

 

 

「あ゛〜、疲れた!」
「あ、てっちゃん。お疲れ〜。」
「ったく、最近放火が多くてさぁ。夜中も起こされちゃって大変なんだよ。」
「またまたぁ。そんなこと言ってぇ。チャンネェじゃないの〜?」
「テメェ・・・」
「さぁさぁ、お茶でもおあがりよぉ〜。」
「お茶かよ!シケてんな〜!」
「そう言うんならアンタ買ってきなさいよ!」

 

ここは江戸の下町。
長屋の一室に青年5人が集っている。 

小さい卓袱台を囲み、皆で時間を潰すのが毎日の恒例行事である。 

「オイ!何かすることねぇのかよ!」

出された日本茶をフーフーしながら、他の4人を嗾(けしか)ける男―――村上てつや。
普段は火消しを生業(なりわい)としている。
半被(はっぴ)からちらり覗いた胸元が魅力的で、出初め式には江戸の町娘が大勢詰めかけるほどだ。

 

「アンタいっつもいっつも人任せで!たまには自分でもアイデア出してくださいよ!」

猫の頭を撫でながら、村上の言動に対して激しくつっこむ男―――酒井雄二。
瓦版売り業界では一番の稼ぎ頭だ。
その見映えだけでなく、売り文句を唱えている時のエエ声が、町娘の心をくすぐっている。

 

「じゃあさ、みんなで今日のテストの採点手伝ってよ。」

いそいそとカバンから答案用紙と硯(すずり)と朱墨と、そして人数分の筆を取り出す男―――北山陽一。
彼が開いている寺子屋は将来を有望視された子供たちが集まっているが、教え子の“父兄”ならぬ“母姉”は我が子のことより彼とお近づきになることに必死だ。

 

「やだよぉ〜!こんな太い筆でカニの絵とか描けないよ俺〜!」

北山が渡してきた“赤筆先生”用の筆を押し返し、激しく拒む男―――安岡優。
歌人として恋の歌を多く世に発表し、その甘美な世界にハマる町娘が急増中。
公家でもないのに蹴鞠が得意なのも人気のひとつだ。

 

「まぁまぁ、みんな落ち着いて!カレーあったまったから〜♪」

牛の顔が描かれた鍋つかみで、土鍋で過熱した香辛料の汁を卓袱台に置く男―――黒沢薫。
彼の経営する小料理屋には味にうるさい江戸の女性たちが列をなし、彼が掲載された号の料理雑誌は飛ぶように売れるのだそうだ。


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