←BACK


「村上さん、続いてあれを。」
北山が村上に耳打ちした。

「OK〜。」
小声で返事した村上は、ウェディングケーキを乗せたテーブルに歩み寄った。

「アムロいきま〜す!」
いきなり叫んだ村上は「とりゃっ!」と言いながら一気にクロスを引き抜いた。

列席者から悲鳴が上がるが、ケーキや周りの花が落ちることなく綺麗な状態で残っており、またも拍手喝采。

「あっ!」
村上が高砂を挟んで反対側に立つ安岡を指差す。

客が安岡に視線を向けたのをキッカケにワインボトルが乗った小さなテーブルのクロスを同じく引っ張った。

これも成功で拍手が起こる。

「あれ??」
今度は安岡がフロアの端で立っていた黒沢を指差す。

「えぇ?!お、俺ぇ?!」
黒沢は想定外の展開に顔を引きつらせて固まった。

「♪どこどこどこどこどこどこ・・・」
村上と安岡が口でドラムロールを歌う。

客が黒沢に視線を集中させる。

黒沢は仕方なく目の前にあるハート型の皿が乗ったテーブルのクロスを持ち、深呼吸をして一気に引き抜いた。

が、皿は期待に反して床に落ちた。

「あ。」

唖然とする新郎新婦と列席者。

「あ、すいません、彼はできないんですよ。これ。」
村上がニコニコと笑って客に説明しながら、安岡と一緒に黒沢の元へ向かう。

「けど、このお皿のように、ふたりの愛は何があっても壊れません!」
村上はハート型の皿を拾って客に見せた。

「村上さんうまいっ!」
安岡が掛け声を飛ばす。

「くそぉっ、お前らハメやがったな!」
「わ〜い!」
厨房に逃げるふたりを追う黒沢。

フロアは笑いと楽しい空気に包まれた。

 

北山は、型に填まった接客以外にもお客様に喜んでいただける術があるということをこの店に来て初めて知ったのだった。

その後北山が給食のお兄さんを辞めて、この店で「伝説のメートル・ド・テル」として再びその名を轟かせるのは、それはまた別の話。

 

 

fin.


→NEXT

→ドラマTOP