湯けむり旅情
≪ひとっぷろ≫
タオルと浴衣を手に持った俺たち5人は、Gメンのオープニングのように横並びのまま、ロビーを横切り、大浴場へ向かった。
廊下の突き当たり、紺の生地に白字で力強く「男」と書かれたのれんを潜る。
脱衣所の棚や籠には何も置かれておらず、今大浴場が無人であることは一目瞭然だ。
「お、やった、貸し切りじゃん。」
ほらな。この時間、風呂空いてるだろ?
俺の読みどおりだな。
これでゆっくりできるぞ〜♪
「やったぁ!俺たち以外いないじゃん!快適〜♪」
「泉質は何だろう?下調べせずに来たからなぁ。」
「いっちょ泳ぐかな。」
「あとで誰が一番長く湯に浸かれるか競争しません?」
ぐぁっ、こいつらがいるんだった!
せっかく広い風呂を独り占めして、静かにのんびりできると思ってたのに〜!
風呂場のエコーを満喫したかったのに〜!
「うわ〜い!風呂風呂〜!でかい風呂〜!」
「S!P!A!!S!P!A!!」
なんだよそれ!アメリカ人かよ!
しかもものっすごいテンション高いし!
4人は服をそこら辺に脱ぎ散らかし「うわ〜い!」などと奇声を発しながら、我先にと風呂場に向かって駆け出していく。
お前らはコドモか?!火野正平の周辺にいるオンナどもか?!
「おいっ、服ちゃんと片付けろよ!泉質によってはヌメリがある場合があるから走るなよ!滑っても知らないぞ!」
みんなが脱ぎ散らかした服を適当に棚に乗せてから、風呂場に足を踏み入れた。
「うわ、広〜い・・・」
でかい檜の湯槽、広い洗い場、大きな大きなガラス窓の向こうには、絶景と大きな露天風呂・・・
そしてなんと言っても、100%源泉かけ流し!
循環式のしょぼい大浴場とはワケが違うっ!
「じゃ、俺、ここで!」
酒井が風呂場の一番隅の洗い場を確保し、湯気で曇ったそこの鏡に「サカイ専用」と指で書いた。
それを見た3人も我も我もと場所取りを始め、鏡に何やら書き始めた。
誰だよ、「男前専用」って書いたヤツ・・・
誰だよ、イマドキ「へのへのもへじ」描いたヤツ・・・
誰だよ、何のひねりもなく温泉マーク描いたヤツ・・・
誰だよ、勝手に「カレー」って書いたヤツ・・・!!