Theatrical!
雑居ビルの最上階、5階。
エレベーターなし。
駅から徒歩10分。(不動産会社発表の所要時間)
ビル1階にコンビニ。
家賃―――タダ。
その理由は・・・
「あっつ〜!なんでこんな日に窓拭きしなきゃなんないんだよぉ〜!」
真夏の真っ昼間、ビル屋上に男の叫び声が響いた。
「はいはい、文句言わない。ジャンケンに負けた俺たちがが悪いんですから。暑いんだしサッサと終わらせましょうよ。
左半分は俺がやりますから、黒沢さんは右半分、安全第一でしっかりやってくださいね。」
「そりゃあやるのはやるけどさぁ〜・・・じゃ、酒井、頼んだよ・・・」
黒沢と呼ばれた男は、まだ納得いかない様子でブツブツと文句を言いながら、ビル外壁に取りつけられたゴンドラに乗り込んだ。
「はい、命綱つけたよ〜。」
「じゃ、降ろしまっす。」
「あいあいさ〜。」
もう一方の酒井という男が、屋上に残って操作し、ゴンドラをゆっくりと降ろしていく。
「は〜い!おっけ〜!」
「あいよ〜。」
黒沢がいい頃合いで上に合図を送り、酒井がゴンドラを停止させる。
その声に、黒沢の目の前にある5階フロアの窓が開いた。
「お〜お〜、暑いのにご苦労なこったな〜。」
「うっさいな、村上!」
「『うっさい』」じゃねぇよ。お前だって前回の窓拭きン時に、俺が死ぬほど寒い思いしてんのに、ここでうれしそうにカレーうどん食ってたじゃねぇか。」
村上という男はそう言って、手に持ってたガラスの小鉢の中の冷やしそうめんをすすった。
その背後では、そうめんと氷水が入った大きな鍋に箸を運ぶ男がふたり。
「あ、北山さん、ネギ取って〜。」
「ちょっと安岡、ペース早すぎだよ・・・」
ズスズッ、と豪快な音を立ててうまそうにそうめんをすするふたりを、黒沢が恨めしそうな目で見つめる。
「じゃあな、頼んだぞ〜。」
村上はそう言い残し、ピシャッと勢いよく窓を閉めた。
「・・・くそ〜ぅ!!ぅおおおぉぉぉ〜〜〜っ!!」
黒沢は、なんだか意味不明な雄叫びを上げながら、今しがた閉められたばかりの窓を拭き始めた。