2つ目の撮影をすっぽかしてしまった5人は社長にこってりと油を絞られた。
「撮影行かないで何やってたんだ?!しかもせっかくの衣装に穴開けて!一体どうなってんだお前らは!」
「すいませぇん・・・悪気は・・・」
『すいません、羽生えてました』なんて言ったら、信じてもらえないどころか『こっちはマジメに話してるんだ!』と言ってますます怒られそうだ。
5人はただただ頭を下げ、このカミナリが去るのを待った。
あの不思議な1日から数えて、初めてのオフ。
5人はある場所に集合していた。
『今日の全校朝礼に、ゲストが来ております。どうぞ、お入りください。』
校長の呼び込みをキッカケに校庭に飛び出していく。
ざわめきが歓声と女子生徒の黄色い悲鳴に変わる。
朝礼台に駆け上がり、歌を1曲。
「♪〜♪♪〜♪〜」
台の上から、例の少年のうれしそうな笑顔も見える。
あの日、5人が彼の自殺を止めていなかったら見れなかったであろう『今日の笑顔』だ。
「おはようございます、ゴスペラーズです!」
湧き上がる歓声の中、酒井のビートが響く。
「今日は俺たちの友達に手伝ってもらおう!出て来い!」
村上の指差す方向に全校生徒が顔を向ける。
いきなり呼びかけられた少年は、目を真ん丸にして驚いていたが、5人が手招きすると戸惑いの表情を浮かべたまま朝礼台に向かって走ってきた。
少年を握手で出迎えた酒井は、彼にマイクを預ける。
躊躇いを見せていたが、酒井が「できるよな?」と聞くと、頷き、マイクを口に近づけていく。
少年のヒューマンビートボックスに再び大歓声が上がる。
少年のビートに乗せて5人は歌った。
ここにいるすべての人たちに、この想いが伝わるように、と。
歌が終わると同時に、校庭中に拍手の渦が巻き起こる。
「みんなありがと〜!!」
少年を朝礼台から送り出し、自分たちも台を降りた。
少年の周りの生徒が興奮気味に少年に熱っぽく語りかけているのが見える。
その近くにはおもしろくなさそうに見ている生徒も見える。
村上はそこへ向かっていった。
「あいつはいろんな経験をして、得がたいいろんなものを手に入れたんだ。
今のお前には手に入らない大切なモノをいっぱいな。それを持ってないお前は、あいつにボロ負けしてるぞ。」
「・・・?!」
「今からでも遅くないんじゃないか?どうしたらあいつに追いつけるか・・・わかるだろ?」
その生徒の肩をぽんぽんと叩き、村上は4人の元へ戻っていった。
「さて、今日の仕事終わり〜。このあと、どうする?」
「あ、俺さ〜、行きたいとこあるんだけど。」
「黒ポン、どこ行きたいの?」
「え?動物園。」
「えぇ?!マジ?!」
「だって!この前せっかく行ったのに見たのちょっとだけじゃん!他のも見たくない?行こうよ〜。」
「え〜、5人で動物園ですか・・・メルヘンというよりホラーだ、ホラー・・・。」
「ほら、行くぞ酒井。」
「マジっすか・・・」
拍手に送られながら5人は校庭を去った。
朝陽を受けた5人の背中から、翼型の光が浮かび上がっていた。
【完】