やっぱり無人のミーティングルーム。
入って来たのは、これから昼食の黒沢だった。
「あ〜、ハラ減ったぁ〜。」
黒沢は席に着き、手に提げていたコンビニのビニール袋からカレーライスを取り出した。
「さて。お先にいただきま・・・あ。あれ?」
カレーライスの容器にスプーンが付属されていないことに気づいた。
ビニール袋の中を覗いてもスプーンは入っていない。
「なんだよ〜、スプーン入れ忘れてるじゃん。」
黒沢は目の前にある北山の音叉・・・には目もくれず、特に気にする様子もなく右手でカレーを食べ始めた。
「ふむ。コンビニのだけど結構うまいね。ふむ。」
素手で器用に食べ続け、ついにはすべて平らげた。
「ごちそうさまでした、っと。・・・さて、手、洗ってこようかな〜。」
黒沢はミーティングルームを出てトイレへ向かうと、ハンドソープを使って手を洗った。
洗い終わった後も爪はまだ黄色かったが、これ以上洗っても色は落ちない。
これまた特に気にする様子なく、トイレを後にした。
その足でスタジオに向かい、スタッフに声をかける。
「お疲れ〜。俺のレコーディングは?」
「えっと〜、もうちょっと後ですね。黒沢さんの番になりましたら声かけますんで、待っていただけますか?」
「おけ〜。」
黒沢は確認を済ませると、再びミーティングルームに戻ることにした。
「・・・・・・寝るか。」
テーブルに突っ伏して約1分、黒沢は早くも小さな寝息を立て始めた。
ガチャ。
「お疲れさ・・・あ、寝てる・・・」
「ぐーすーぴー・・・ぐーすーぴー・・・」
北山は音を立てないように音叉を探した。
が、音叉はちょうど、幸せそうに眠る黒沢の頬の下敷きに。
「ぐーすーぴー・・・ぐーすーぴー・・・誰がなんと言おうがカレーだっつってんだろうがよ!いっぺん死んでこいやコラぁ!・・・むにゃ・・・ぐーすーぴー・・・」
「・・・こ、これじゃ取れない・・・俺にはこの人を起こせない・・・」
教訓。
『大切なモノは、そこら辺に置きっぱにしちゃダメ』。
以上。
≪完≫