監督不行き届き
ただ今、レコーディング合宿中。
無人のミーティングルームに入って来たのは、歌録りを終えた安岡だった。
「お疲れサマで〜・・・っす、って誰もいないや。」
テーブルの上にある白い紙の箱が目に入る。
「おっ、これってもしや・・・」
そ〜っと箱を開けると、中には5種類のケーキが入っていた。
「ビンゴぉ〜♪・・・って・・・ん・・・?」
よく見ると、箱の重みで飛ばないようにメモが置いてある。
『おひとり様1個ずつお召し上がりください。』
「やっぱ疲れた時には甘いモノだよね☆」
特に疲れているワケではないが(なんてったって最年少)、一仕事終えたとこなので是非ともHave a break,have a・・・cake、したいところだ。
「じゃあ、え〜っと、ん〜と、ん〜と・・・ここは・・・モンブランで!!」
箱の中にそ〜っと両手を差し入れ、ゆっくりとモンブランを取り出す。
「え〜っと・・・あれ?皿は?あとフォーク・・・」
周りを見回したが、それらしきものは用意されていない。
ひとまず銀紙に乗ったままのモンブランをそっとテーブルに乗せた。
そしてミーティングルームのドアを開け、廊下に顔だけ出して呼びかけた。
「すいませ〜ん、ケーキ食べたいんですけど、お皿とフォークを〜・・・」
返事も返ってくる様子もなければ、人の気配も感じない。
仕方なく、レコーディングスタジオに備えつけられている小さなキッチンに向かったが、そこにも食器類は見当たらない。
おそらくどこかに収納されているのだろうが、安岡はその場所を知らなかった。
安岡はすごすごとミーティングルームに戻ってきた。
「ん〜・・・仕方ない、手で食べる・・・・・・ん?あ、これ、イイ!」
安岡の目がキラリンと光る。
安岡はそれを手に取ると、さっきのキッチンへ足早に向かい、それを洗って足早に戻ってきた。
「はい、では、いた〜だき〜まっす!」
パクっ・・・
「あ゛ぁっ!うま〜っ!これ、すっごくおいしいぢゃん!」
パクパクと食べていると、ガチャっとドアが開いた。
「あっ、お疲れ〜・・・って何やってんの!」
「おぁっ、北山さんっ!!?」
安岡が慌てるのも無理はない。
なぜなら、安岡は北山の音叉でモンブランを食べていたから・・・
「あっ、あ、あ、洗って返すから!」
「当たり前でしょ!」