福を引け!

 

 

ここはコンサート会場控え室前にある廊下。

そこに長机を置いて、過ぎ行く人々に声をかける男がひとり。

「はい〜。ただ今抽選会をやっておりま〜す。」

長机の上には木製で八角形の福引抽選器が置かれている。

 

「・・・黒ポン、また何かおかしなことを・・・」
たまたま前を通りかかった北山が足を止める。

「おぉ!北山ぁ!」
「・・・何やってんの?」
「クジ付きカレー。これぐらいしないと最近誰も食べてくれないからな〜。あ、北山もどう?」
「・・・『どう?』って?」
「こちらで『ぽんカレー』300円でお買い上げいただくと、もれなく抽選券1枚差し上げておりま〜す。」
「金儲け主義だ・・・」
「違うよ〜、材料費とトントンだよ〜。」
「で?」
「ん?」
「賞品。」
「あぁ、賞品ね。引いてからのお楽しみです。」
「・・・どうせカレーでしょ。」
「当たり前じゃん!もちろんそれもあるよ〜。」
「カレー食べて賞品がカレーって!いらない!大相撲の優勝賞品の『どんこしいたけ1年分』ぐらいいらない!」

「なんだなんだ!キノコを冒涜するヤツはどこのどいつだ?!」
北山の叫びを聞いて酒井が駆けつけた。

「雄二、どんこしいたけ1年分ほしいと思う?」
「ほしいに決まってんだろ!なんだ、ここで抽選したらどんこしいたけ1年分くれるのか?!」
「そんな賞品ないってば〜!」

「わっ、何これ?どこでこの抽選するやつ買ってきたの?」
廊下の賑やかな様子を嗅ぎつけて安岡がやってきた。

「これはねぇ、合羽橋に売ってた。コックさんの白衣買いに行った時に一緒に買ったよ。」
黒沢はうれしそうな笑顔を浮かべ、抽選器の横に置かれたカレーの鍋を木べらで混ぜている。

「ぽんカレー買ったら1回抽選できるらしいよ。」
「安岡、お前やってみろ。」
「・・・いや、きっとロクな賞品ないだろうから遠慮しとくよ・・・」
「そんなことないよ〜!豪華賞品の数々をご用意いたしておりますよ〜。」

「お前ら廊下に屯(たむろ)って通行の邪魔すんなよ・・・って何だこれ?」
たまたま通りかかった村上が3人を掻き分け、長机向かいの黒沢と対峙した。

「何って、見てのとおり・・・抽選会〜・・・」
「何その申し訳なさそうな感じ。トーカ堂のキタさんじゃあるまいし。」


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