いぶバトル
ツアー中に迎えたクリスマス・イブ。
会場周辺の木々もイルミネーションで飾られ、クリスマスムードは最高潮だ。
会場内も同様で、スタッフが気を利かせたのか、控え室のドア脇に置かれたツリーが小さなライトを色とりどりに点滅させている。
そんなドアの向こうでは・・・
「♪あンめは夜更けすぅぎぃンにぃ」
黒沢が本日7.5回目の山下達郎『クリスマス・イブ』をモノマネつきで熱唱している。
なぜ「.5」になっているのかというと、4回目の際にメンバーからの苦情によりやむなく中断したからだ。
しかしおさまっていたのはせいぜい5分程度で、すぐさま熱唱再開。
どうやら無意識のうちの犯行(?)のようだ、と悟ったメンバーは、今ではそれを突っ込むこともなく諦めの境地に浸っている。
「♪きぃと君は来(く)ぅぬぁ〜い〜」
「・・・あれ?北山は?」
村上が黒沢の鼻唄を気に留める様子もなく、傍にいた酒井と安岡に問いかける。
「お?・・・ホントだ。いないな。」
「あ〜、なんかね〜、一番先に会場入りしてたみたいだけど、俺がココ着いてすぐ出ていっちゃって。」
「♪サぁイレンナぁ〜イ〜」
「へぇ〜。どこ行ったんだろうな?」
カチャと音を立てドアが開き、控え室に入ってきたのは、
「おぉ、ウワサをすれば影・・・」
北山だった。
手には、某大型ショップのおなじみのビニール袋を提げている。
「何?みんなして俺のことウワサしてたの?」
「してたも何も!もうね、ボロクソですよ、ボロクソ。」
「ふぅん。・・・あのね、」
「スルーかい!」
「ツッコミもせずフツ〜にしゃべり出しちゃったよ、この人!」
「♪くぉころ深ぁ〜く〜」
「そんなことより北山、そら何だ?」
北山がビニール袋をアピールするように机の上に置いていることが気になったらしい、村上が他愛もない会話の腰をポッキリ折って北山に尋ねた。
「ああ、そうそう。今言おうと思ってたんだ。これ、」
北山はそう言って、ビニール袋特有のガサガサという音を伴いながら袋を開けて中を覗く。
「マイ炊飯器に玄米セットしてからちょっとヒマだったし、ココの近く探索しにいってたんだけど、」
「♪くぅぁならず今夜ぁ〜なぁら〜」
「こんなん売ってたから、なんとなく買っちゃった。」
そう言って北山が取り出したのは、
「クリスマスグッズ、ですかい・・・」
「そだよ。」
「これを衝動買いと呼ばずして何を衝動買いと呼ぶのか・・・」
「トナカイのツノついたカチューシャ買ってみたんだけど、やっぱりクリスマス・イブってことで品薄でさ、」
「♪サぁイレンナぁ〜イ〜」
「ほら見て。同じの、数揃わなくてねぇ、」
机の上に並べられた5つのトナカイのツノ。
その中のひとつだけツノが大ぶりで立派なカタチをしており、残りの4つは小ぶりでお揃いになっている。