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マスター、カウンターから出て、客の元へと歩み寄る。

マ「失礼ですが・・・彼女はなぜあなたの元を去って行ったんです?」
ウ「(小声で)さすがマスター!火中の栗を拾いにいった!」
客「・・・俺がところ構わず歌っちゃうからですかね。」

客、悲しげな笑顔。

ウ「予想どおりの答えじゃん!篠沢教授を除いてみんなおんなじ答えだよ、そんなの!」
マ「なんで彼女のこと引き止めなかったんですか?」
客「(遠い目)・・・俺のレパートリーの中で引き止める曲がなかったんです。」
ウ「なんだそれ!?今普通にしゃべれてるんだから、歌じゃなくて普通に引き止めたらいいじゃん!」

マスター、ウェイターの方を振り返る。

マ「安岡くん。・・・あれを。」
ウ「アレって?・・・あぁ!わかりました!」

ウェイター、笑顔で答える。

マスターとウェイター、客の席の傍らに立つ。
マスター、音叉を使い音をとる。

マスターとウェイター、『One more day』をアカペラで熱唱。

客、聞き入る。

歌い終わった後、客、立ち上がりふたりに深く頭を下げる。

客「素敵な歌をありがとう。彼女に気持ちを伝えてくるよ。」

客、マスターにカレー代を支払う。

客「あ、そうだ・・・歌詩、書いた紙みたいなの、ないかな?」
マ「この店出てすぐのところにCDコーナーがありますので、
そちらでアルバム『Soul Serenade』またはベストアルバム『G10』をご購入ください。」
ウ「マスター、そういうところは抜け目ないですね・・・」
客「ありがとう。お礼に・・・」
ウ「え?」
客「先割れスプーン、全部普通のスプーンにしておいてあげたから。・・・じゃ。」
ウ「えぇ!?」

客、「♪わ〜ん、も〜、でぇ〜ぃ」と歌いながら、下手へと消えてゆく。

マスターとウェイター、先割れスプーンの先の紙ナプキンを次々外していくが、全部普通のスプーン。

マ「お客さまは・・・」
ウ「神様です・・・」

(暗転と同時にBGM『スプーン』流れる)

 


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