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突然、俺とくろのカラダが白い光みたいなものに包まれた。
眩しさに病室にいる全員が目を瞑る。

「な、何だ・・・?!」

目を開けると、ママさんの枕元にいたはずの目線が急に高くなっていた。
そして握り締めた手の先には、黒い猫・・・

「戻った・・・?」

自分の頬を力一杯つねる。
人間の肌の感触。
そして、何より・・・

「痛い・・・も、戻ったぁ〜!」

間違いない!俺の声だ!

「にゃぉ〜ん!」
くろもうれしそうに尻尾を振り、一伸びすると、ママさんの胸の中へ飛び込んだ。

背後で北山が音叉を鳴らす音がして、振り返る。

「♪〜 ♪〜」

村上が指を鳴らしたのを合図に、俺たちは歌い出した。

♪Uh〜・・・

「♪波〜の彼方続〜いてゆく、眩〜しさに〜足を止め〜・・・」

ママさんが大事にしてくれたこの曲は、俺たちにとっても大事な歌で。
俺たち5人が「ゴスペラーズ」としてスタートを切った、まさに原点で。

5人の声を、このハーモニーを、俺たちの歌を、大切に思ってくれる人がひとりでも増えますように。
そんな思いを込め、歌っていたデビュー当時の俺たち。

最近は歌うことが当たり前になっていたけど、猫になってうまく歌えなくなって初めて、歌うことの楽しさと5人で歌える喜びを改めて思い知る。

曲を歌い終わると、ママさんは泣いて喜んでくれた。

「ありがとう・・・このことは一生忘れないわ。ゴスペラーズさんの歌を聞いて、病気に打ち勝てそうな気がしてきたわ。」
ママさんはくろの頭を撫でながら、涙を拭っている。

「あの・・・ママさん。」
「何でしょう?」
「そのCD、貸してもらっていいですか?」
「え?・・・ええ。いいですよ。」

ママさんから差し出されたCDを受け取り、病室を出た。

「黒沢、どこ行くんだ?」

ナースセンターに走り、ある物を借りて病室へと戻る。

「はい、これ。今日の記念に、お前らもサイン、書いて。」
「おしゃ、わかった!」

ナースセンターで借りた油性ペンと、ママさんのCDを村上に手渡す。
それを順に回してゆき、CDのジャケットには5人のサインが揃った。

最後に俺が今日の日付と「くろ(代筆)」と書き加え、ママさんに返した。

「早くよくなってくださいね。店が再開されたら、5人で食べに行きますから。」
「はい、是非。ありがとうございました。」
「にゃぁ〜ん」

ママさんの宝物であるこのCDは、デビュー当時の俺の願いを思い出させてくれた。
そしてくろは、俺たちに5人の絆の深さを教えてくれた。
俺はそれらを決して忘れない。
これからもこの5人でずっと歌い続けたい・・・何があっても。

 

 

「さ、さ、こっちですよ!」

先導する酒井の後を、俺たち4人はゾロゾロとついて歩いた。

さすがに酒井はよく道を覚えてる。
タバコ屋の脇の路地から入って右に5回曲がると、あのカレー屋が見えてきた。

路地全体に広がるスパイシーな香り。

木製のドアを開けると、パパさんとママさんの「いらっしゃい!」の声。

「にゃ〜ぉ」
「あっ、くろ!おっきくなったなぁ、お前!」

俺たちの5人の足元へ擦り寄ってくる くろ。

カウンター席だけの店内。

BGMはもちろん・・・

「はい、どうぞ。」
目の前に置かれるアツアツのカレー。

村上が「せ〜の、」とキッカケを作り、5人で声を重ねた。

「いただきます!」

 

 

das Ende

 


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