人生はスコブル上々だ

 

 

2009年の、或る晴れた夏の日。
ゴスペラーズの5人を乗せた1台のワゴンが、渋滞のない高速道路を順調に進んでいた。

目的地は某地方にある某県の外れ。
あるリゾート地のスキー場に急遽造られた野外イベントの会場だ。

「ふぁ〜あっ・・・っと、あとどのくらい?」

大アクビをしながら運転手にそう尋ねたのは、後部座席に座っていたリーダーの村上だ。

「ん〜と、そうですねぇ・・・あと1時間ちょっとですかねぇ。」
「なるほど。ありがと。」

助手席に座って資料を手にしていたマネージャーが後ろを振り返る。

「あ、そういえばみなさんにお伝えしてなかったんですけど、」
「ん?何ぃ〜?」

窓の外を見ていた黒沢が、顔を前に向き直し、聞き返した。

「実は直前に決まったんですけど、明日のイベントにユニコーンさんが出るらしいですよ。」

マネージャーの言葉に車内がどよめく。
無理もない。
ユニコーンといえば、自分たちの世代なら誰でも聴いていたであろう超有名なバンドである。
1993年に惜しまれつつ解散してしまったが、今年2009年・・・つまりつい先日、復活を果たしたばかりだ。

「えっ、マジ、ユニコーン?!え、マジで??!」

一早く反応を見せたのは、メンバー最年少の安岡。
目をキラキラと輝かせている。

「ええ。でも出演することはご本人さんがステージに出るまでシークレットのようですから、みなさんも気をつけてくださいね。」
「心配ご無用。呟きゃしませんよ。」
「同じく。ダイジョウブです。」
酒井と北山もうれしそうに答えている。

「実は俺、この前出た復帰後初アルバム買ったんだよ。『シャンブル』ってヤツ。」
ニンマリと笑顔を浮かべた村上に、黒沢が興味津々に「どうだった?」と尋ねる。

「うん、『ユニコーンここにあり!』ってカンジ。ユニコーンのテイストはそのまま残しつつ、オトナの円熟味が加わったっていうの?
しかも相変わらずメンバー全員多才なんだよな〜。・・・あ〜っ、くそっ!出るって知ってたらCD持ってきてサインしてもらうのによ〜!!」
「ムチャ言わないでください、僕も知ったの事務所出る寸前だったんですから・・・。」
大いに悔しがる村上を、マネージャーが苦笑いを浮かべて宥めた。

「やっぱ『大迷惑』歌うんだろうか。」と呟いた酒井が、「♪でれでれでれでれ、でれでれでれでれ」と『大迷惑』の前奏を歌い出した。

すると誰かれともなく「♪ぱ〜っ、ぱぱ〜っ、ぱ〜らぱ〜」と後に続き、車内は じきに大合唱となった。

 


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