←BACK


超獣戯画

 

 

≪第2話:カオルの過去≫

 

何かの事件が重大局面を迎えていたのか、ユタカの兄・ヨウイチは日曜の4時過ぎに帰宅した。

「・・・ただいまぁ〜」
「おかえり〜!」
「ふぁぁっ・・・疲れた・・・今から寝るよ・・・」
「お疲れだねぇ・・・」
「そうなんだよ。今さぁ、脅迫事件が」
「わふ。」
「そう、『わふ。』って・・・ぅわぁぁぁ!犬っ!?なんで?なんで犬いるの?!恐いよぉ!犬恐いよぉ!」

普段冷静なヨウイチがテツヤを見て窓際まで逃げ、カーテンに包まり顔だけ出している。

「ちょっと!ビビリすぎだってば!こいつ、テツヤ。怪我してたから拾ったの。噛んだりしないよ?」
「苦手なのは理屈じゃないの!」
「あ、そうだ。ヨウイチ兄ちゃん、動物病院のカオル先生って知ってる?」

ユタカはうまく論点をすり替えてみた。

「カオル?知ってるも何も・・・昔からの親友だし、今もよく会ってるけど?それが何か?」
ヨウイチがカーテンから顔を出したまま答える。

「テツヤの怪我、カオル先生が治してくれたんだよ。」
「うん。あいつはああ見えて腕はいいよ。」
「やっぱああ見えちゃうんだ。」
ユタカはヨウイチの言葉に笑った。

「それはそうとね、カオル先生がね、飼ってた犬が家出したって言ってたよ。寂しそうだったから励ましてあげてね。」
「それ・・・もう死んでると思うよ・・・」
「えっ?!死・・・」
「だってさ、カオルがその犬飼い始めたのって確か小学生の時だよ。で、いなくなったのが高校の時だから。
まさかまだ『家出した』とか言ってるとは思わなかった・・・」
「そっ、か・・・そんな前の話なのか・・・」
「わふ。」
「うわぁ!そんな話どうでもいいから、こいつ早く捨ててきてよ!」

テツヤはカーテンに隠れたままのヨウイチにさらに近づき、足元にじゃれついた。

「ぎゃぁっ!ユタカ助けてよ!飼ってもいいから、金輪際こいつを俺に近づかせないで!」
「テツヤ、ヨウイチ兄ちゃんから離れてあげて。お仕事大変で疲れてるみたいだから。」

テツヤがヨウイチから離れると、ヨウイチは逃げるように部屋へと駆け込んでいった。

「な?飼っていいって許可出たろ?」
テツヤは犬型のままユタカの方を振り返った。

「脅迫じゃんか〜・・・。」
「結果オーライだ。」
「もぅっ・・・。あ、そうだ。今からさぁ、カオル先生のところに遊びに行こうよ。」
「え〜!あいつ注射ミスったから嫌いだ!」
「いいじゃ〜ん、傷治してくれたんだから〜。行こう?」
「ったく・・・」

玄関で靴を履くユタカの後を、テツヤは重い足取りで追った。


→NEXT

→目次

→シネマTOP