BROTHER ACT
「お疲れっす。」
「おっ、お疲れ〜。明日も頼むよ。」
「はいっ。」
仕事を終えた俺は、オーナーに挨拶して店を後にした。
この店で皿を回すのが俺の仕事だ。
いや、皿を回すって言っても曲芸師みたいにホントの皿を回すんじゃなくて、ターンテーブルの上のドーナツ盤を回す、いわゆる「DJ」ってヤツだ。
大学生の俺がこのSOUL BARでバイトを始めた時は、ただのバーテンだった。
開店までの時間に好きな曲を暇つぶしにかけていたら、オーナーがそれを気に入ってくれて、バーテンからDJへ転向となったのだ。
軽い気持ちで始めた仕事だったが、俺のかける曲目当てに店に来てくれる客も増え、結局今の今までこの店でDJの仕事を続けている。
オーナーが寛大な人で、この店の演出関係は俺に一任してくれている。
だからDJだけでなく、自慢の喉を活かして客の前で得意のSOULなんかを歌うこともある。
「お、あちぃ。」
温暖化の影響だろうか、東京の早朝は9月下旬だというのにまだ生温い。
長袖を肘の辺りまで捲り上げながら、薄明かりの街を歩いていく。
「・・・Ruicaさん?」
店から出て10秒ほど歩いたところで背後から声をかけられた。
明け方。女の声。
少々不自然なシチュエーションに違和感を覚えつつ振り返る。
店の隣のタバコ屋のシャッターにもたれて立つ若い女が俺に軽く手を挙げた。
「・・・何すか?」
「店で、見てたの。」
誘うような笑みを浮かべる女に、俺は歩み寄った。
こういう仕事をしてると、女が寄ってくることも間々あって、不自由はしない。
“役得”ってやつだろうか。
「そのままお持ち帰り〜♪」というのは、よくあること。・・・だったのだが。