:その理由わけを教えてくれ・G:
前編

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注意事項




1・登場するヒーローズが虎徹以外軒並み壊れています。

2・格好いいヒーローズはいません。

3・ツッコミが虎徹と場合によってはアントニオくらいしかいません。

4・テンション高すぎて疲れるかもです。


以上を踏まえましてダメだと感じたら即バックボタンを押してください。
大丈夫な方はこのままお進みください。





























 とある休日、深夜のこと。
 ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹はソファの上、寝苦しさから目を覚ました。
 ただはっきりと目覚めたわけではなく、意識は覚醒しているものの体は動かないと言ういわば金縛りの状態。
 疲れているときよくなるものだ。
 これだけならいつものことと無視もできたのだが、今日はちょっと勝手が違った。
 覚醒した意識が、部屋の中に自分以外の何者かの存在を感じ取っていた。
 現在自分は一人暮らし。他人を自室に招くことはほぼなく、ときおり飲みつぶれ、送ってくれた親友を上げるくらい。
 無論、今日その親友は呼んでいない。
 ならば気のせいかと思ったが、長年培ってきたヒーローとしての経験が思い過ごしにすることを拒んでいる。
 現に、仰向けで寝ている腹の上が重い。
 まるで漬け物石でも乗せられているかのようだ。


(なんだこれ……)
 これまで感じたことのない違和に恐怖を覚える。
 とっさに脳裏に浮かぶ「心霊現象」の四文字。
 つられるように虎徹は昼間娘と一緒にみた映画の内容を思い出し、舌打ちしたくなった。
 ああ、どうして自分はせがまれたとはいえ「シュテルンビルト・レポート〜戸口に潜むグローブ仮面〜」なんてホラー映画を見てしまったのだろう。
 あれさえ見なければ、今の状況も気のせいか、はたまた不審者のせいであると思うことができたのに……。
 だいたいからしてあの映画は内容がよろしくなかった。
 ポスターに躍る"失神率99.9%!"の謳い文句は伊達ではない。CMが放送禁止になるのも頷ける内容だった。
 女子供が間違って観ないように、こういうもののコードはきっちり定めるべきだ。
 楓は幸いにして最後まで楽しんでいたが、映画が終わった後虎徹はトイレでパンツをグショグショに濡らしながら泣く男児と出会った。親近感がわいた。確認したが自分はかろうじて無事だった。




(おい……おい本当にやめてくれよ……)
 いつだったか何だったかで「二十歳までに心霊現象に遭わなければ以降は一切遭わない」と言う話を聞いたことがある。
 幽霊云々とは肝試しのハリボテや真夏のTV特集以外では縁のない存在だった。自分はとっくに期限を過ぎている。
 おかしい。こんなの遅刻もいいところだ。
 だが現実に腹の上の異物は重みを増し、ついにはなにか生暖かい風のようなものまで感じる始末。
 もう気のせいではすまない存在感を発している。
 この状態のまま朝を迎えてしまうのだろうか。いや、朝まで無事でいられるのか……。
 虎徹の中で募る恐怖と懸念が、ある一つの決断を生み出す。




 起きよう。起きて、違和の正体を確かめよう。




 じっとしていたところで何も始まらない。
 頬にかかる風も熱さと強さと生臭さ? を増しつつある。
 このままではマズいと虎徹の中に宿る野生の感がそう告げる。
 起きて、正体を見極めよう。
 泥棒だったらぶん殴って警察を呼んで。幽霊だったら説得してみよう。
 大丈夫。幽霊だって元は人間だ。誠心誠意話せば分かってくれるかも知れない。
 そう思い込み、虎徹はまぶたに力を入れた。
 幸いにして完全な金縛りに遭ったわけではなく、腕やまぶたは動くようだ。

(よしいける! やろうぜ鏑木虎徹! 猪突猛進はお手の物だろ!)
 自分で自分に盛大に発破をかけ、虎徹は小さくまぶたを震わせた。 
 上下のまつげを一本一本結ばれたようにくっつくまぶたを徐々に開いてゆく。
 ゆるゆると開かれる視界に、闇が映る。今が深夜であることを告げる真っ暗闇。
 そしてその闇に――――紅がいる。
 目に鮮やかな赤ではなく、闇を数滴混ぜたような暗めの紅。
 それに包まれたしなやかな肢体。こちらを見つめる白い美貌。
 虎徹が目覚めたことに気づいたか、澄んだ緑眼をふわり、和らぐ。
 そこには絶世の美男子がいた。





 ――――なぜか、ドレス姿で。

 
「――――――――――――ッ!?」




 喉を引き裂くはずの悲鳴は結局音にすらならず深夜の闇にほどけてゆく。
 虎徹は知っていた。金縛りの原因、その正体を知っていた。
 声帯をどうにか震わせ、虎徹は原因の名を呟く。
「バ、ニー……?」
 目の前にいたのは、コンビを組んでいる後輩、バーナビー・ブルックスJrだった。





 男性としては初かも知れない顔出しヒーロー。その端正なルックスも相まって女性からの人気もうなぎ登りなアポロンメディア期待のルーキー。
 
 ――――だが女装だ
 
 かのテロ戦では見事両親の仇たるジェイクを討ち果たしたシュテルンビルトの英雄。以降のヒーロー活動も上々であり、常にランキング上位。時期KOHの呼び声高い売れっ子ヒーロー。
 
 ――――――しかし女装だ。
 
 私生活においては虎徹とたびたび衝突するも根は素直な質らしく、特にテロ戦後は復讐という枷から外れ年相応の顔も見せ始めている。虎徹も事情を知ってから何くれなく世話を焼いていたため、いつの頃からかデカい息子の様な感覚で接している、会社の後輩。

 ――――――――どっこい女装だ。



 ある意味、幽霊と遭遇するより恐ろしい状況だった。
「……なにしてんの、バニーちゃん」
 色々諸々聞きたいことはあれど目の前の衝撃に破壊された言語機能がやっとそれだけ、呟く。
 恐怖も疑問も凝縮されたセリフに、目の前のバーナビーはこれまで見たこともない艶やかな笑顔で、一言。



「こんばんは、夜這いです」
 どえらい暴言を吐いてくれた。



「――――!? ――――!? ――――!?」
「どうしたんですか、おじさん。そんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔して」
 驚きのあまり言葉も声も忘れて叫ぶ虎徹に対し、言った本人が不思議そうに小首を傾げている。
 豆鉄砲なんて生やさしいものじゃない。この衝撃、例えるなら鳩が機関銃もって突撃してきたような意味不明さを感じる。
 虎徹が知る限りバーナビーは自分に対しこんなにも甘い顔は見せない。女装の趣味もない。どころか、虎徹宅の住所さえも興味がないはずだ。
 だがもっと言うなら……。


「バニー……お前、俺ン家の鍵どうした」


 虎徹が借りているアパートはあまり治安のよろしくないブロンズステージにある為、戸締まりはきちんと行なっている。
 入居したとき大家に許可を貰い、ちょっと奮発して性能のいい鍵に付け替えさせて貰いもした。
 仮にもヒーローが空き巣にあうなど言語道断もいいところだからだ。
 虎徹はバーナビーに合い鍵を渡していない。
 一体どうやって侵入したのか。
 声にならぬ疑問を視線に込めて見つめていると、通じたのか。
 バーナビーが誇らしげに眼鏡を光らせ質問に答えてくれた。


「あの程度の鍵、こじ開けられなくて何がヒーローですか」
「少なくともヒーローにピッキングの技術はいらないと思うなぁ、俺ェ!!」


 最悪の答えだった。まだ"合い鍵こっそり作ってました☆"の方が愛嬌があった。
「お前な! それな! 一歩すでに間違えて完璧に不法侵入だからな!」 
「コンビなんだから別にいいじゃないですか」
「コンビになったら泥棒もOKなんてどこ法律だよ!」 
「まぁそれはおいといて」
「おくなああぁぁぁぁぁぁ!」
 重要だ。割とけっこうものすごく重要なことだが、バーナビーはまるで世間話のように気軽に話を切り替えた。
 しかし言葉のフランクさとは反対に、その表情たるや犯人を前にしたときのように真剣きわまりない。
 虎徹も続く言葉を飲み込み、追求を一時中断するとバーナビーの話に耳を傾けた。
 静かな緊張が二人の間に流れる。
 バーナビーはそっと、自分の着ている物を指した。





「これ、ドラマである女優が着てたものなんです」
「……うん」
「僕、前にその女優に似てるって言われたことあるんです」
「……それで?」
 いっこうに要領を得ない説明に、じれながら続きを促す。
 まさかその女優の身に何か事件でも起こったため、自分を呼びに来たとでも言うのだろうか。
 虎徹は少ないヒントから何とか正解を導き出そうと頭を働かせ唸っていると、バーナビーが自信満々、と言ったように晴れやかな顔で答えを吐き出した。



「おじさん、夢に出てきた女優を好きになるんですよね? さあ! 存分に眼に焼き付けてください! 女優似のこの僕の艶姿を!!」
「お前バカかああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 虎の雄叫びが闇を切り裂いた。
「なに考えてんだお前! 女装姿のお前が出てきたところでそれはただの夢じゃなくって悪夢だよ! 絶対うなされてその後そっこー忘れるよう努めるよ! 今だって真夜中、ピッキングやらかした女装姿の相棒が腹の上乗っかってるこの状況が夢ならなって思ってるのにィッ!」
 損した。
 まじめに聞いて損した。神妙に話を聞いていたあの数分間を今すぐ返して欲しい。
 思いっきり叫んだせいか、一気に体から力が抜ける。内からこみ上げてくるこの感情……この漠然とした空しさはいったいなんのか。
「ちなみに下着もこだわり抜いてみました。どうですか、おじさん。ご感想は!?」
「もうおうち(オリエンタルタウン)かえりたい……」
 虎徹は寝転がったまま両腕で瞼を押さえた。
 そうでもしないと、バーナビーがまくり上げたドレスの裾から見たくもないのに黒いレースが付いたシルク仕立てっぽい何かが見えそうになるからだ。

 中年男性が身も世もなくめそめそと嘆いている姿は、きっと端から見ればひどく滑稽だろう。
 それを見つめる女装青年が鼻息荒く興奮している姿は、絶対誰から見てもすごく恐怖だろう。


 ……目を掛けていた後輩が変態だった。それも、庇いきれないくらいの。


 もうこの事実だけで荷物まとめて実家に帰ってもおかしくないレベル。
 不法侵入及びセクハラも含めて提訴、のち勝訴は確実。
 虎徹は目の前で繰り広げられる現実を認めたくなかった。
 いや、目の前の後輩が正気だとは思いたくなかった。
「……もうお前がどこの宇宙人と交信しててもいい。でもできれば地球の言葉を使える奴にしてくれ。おじさん、お前がなに言ってるのか分かんないし分かりたくないし分かる努力もしたくねぇ!」
「言葉で分かる必要なんてありません。今からちゃんと、体に教え込んであげますから……」
 熱にうなされたようなとろりとした目を細めるバーナビー。

 おかしい。なんだかおかしい。

 虎徹は改めて事の異常さに気がついた。
 今目の前にいるのは本当に自分の後輩なのか。自分の知るバーナビー・ブルックスJrなのか。
 もっと別の何かではないのか。
 不安が虎徹の胸中を黒く塗りつぶしてゆく。
 虎徹はふと、高校生だった頃観た映画を思い出した。
 地球侵略を企てる宇宙人が各国家の代表の中身を乗っ取るというSFヒーロー物だ。
「――――なぁ、お前本当にバニーちゃん? バニーちゃんの皮を被った金星人とかじゃねぇよな?」
 恐る恐る。自分でもばかばかしいと思いながら訊いてみる。
 腕の隙間から垣間見たバーナビーは、夜目にも鮮やかな白い貌を笑みに変え、囁いた。

「イヤだなぁ、皮被ってるのはおじさんの方でしょ」
「なめんなっ! もうとっくにムケてるわぁ!」

 きっちり下品なナニの方にバーナビーの指摘を脳内変換した虎徹は咆吼をあげ、バーナビーにつかみかかった。
 言うに事欠いて何を言い放つのか、この男……男……男の娘? は。
 さすがに男の尊厳に懸け訂正せねばならぬと息巻く虎徹の手を、バーナビーがそっと上から握る。
 触れた手が、燃え落ちるほどに熱い。
 視線が合った。
 間近で見る瞳には欲。吐息には熱を孕ませ、バーナビーは唇に弧を描く。
 鼻先をくすぐるのは香水の匂い。
 これほど近くで嗅いだことはない。こんなに甘い物だったろうか、彼の匂いとは。

(ヤバイ……ッ!)

 理性の放つ警告にとっさに従ったのが余計にまずかった。
 逃れようと身を退けば、逆に力を加えて押し倒される。
 二人分の重みを受け止め、ソファがぎしりと揺れた。
 その音に性的な物を感じて、虎徹はカッと頬を紅潮させる。
 目が悪い癖に、バーナビーは見逃さなかったらしい。
 バーナビーの笑みが深まる。
 普段はどこか女性的な白く端正な貌に、にじみ出る野性的な色香。
 雄の顔だ。雄の、欲情した顔。
 吐息がかかるほど間近で見た虎徹の足先から脊髄までを電流が流れる。
 しびれが、虎徹の体から抵抗する力を奪う。
「じゃ、確かめさせてください。おじさんが本当に"オトナ"かどうか……」
「ぅあッ……」
 恐るべきかな誘導尋問。
 気がついたら、逃げるに逃げられぬ雰囲気に落とし込まれている。
 それでもどうにか逃れようと虎徹は必死に喚くが、バーナビーはいっかな意に介さない。
「い、いや、ちょい、まッ」
「うるさい口ですね、塞ぎますよ?」
 ? をつけている癖にやる気満々で顎に手をかけるバーナビー。
 近づく、まぶたを伏せた美しい面。
 やっぱりまつげ長いなぁ……などと現実逃避をしている場合ではない。
(ヤバイ……マズイマズイマズイ――――ッ! 俺、このまんまじゃ美味しくいただかれ……ッ!)
「ちょ、待って、ホント、ま――――ッ!?」
「――――ッ!?」


 突然バーナビーの動きが止まった。
 だが、虎徹の懇願に答えてくれた為ではないらしい。 
 その証拠に、視線が背後――――玄関を見つめている。
 緊迫した空気に虎徹もまたそちらを見る。



 ――――音が、した。
 何かを叩く音。荒々しい金属音。
 まるで、誰かがドアを叩いているような――――。
 虎徹は先ほどとは別の意味で体を硬くした。
 時は深夜である。
 尋ねてくる者がいるとは思えない。第一、チャイムも鳴らさずにいるなんて絶対におかしい。
 虎徹の脳裏に、ぼんやりと昼間見た映画の恐怖が蘇った。
 内容が、今の状況と一致する。
 たしか物語の序盤、ちょうどこんな風にカップルがいちゃついてたら、玄関で音がした。何かを叩く、激しい音が。
 動きを止めるカップル達。
 見つめる玄関からいまだ響く異常音。
 やがてカップルの一人が意を決し正体を確かめに行こうとするが、矢先に音が止ま、



「とま……った?」
 まるで映画とシンクロするように音が止まる。
 後に残るのは水を打ったような静けさと、自身の浅く荒い呼吸音。
 肌を滑る汗に、虎徹は小さく震えた。
 事態が映画の通りに進むのならこのあと――――そう、このあとは、
「ヒッ!」
 よりいっそう激しくなる打撃音。
 家中に響くのではと思われるほどの激しさに、虎徹は息を詰める。
 やがて音の間隔が開く。一発一発、力を込めたかのような重い音に変わる。
 感覚はだんだんと遠く、音はどんどんと重くなり、そして――次の瞬間――――。

あとがき

シリアス書いたらギャグも書かなきゃバランス悪いよね。
と、言うわけで同名タイトルの続きというわけではなく分岐? なお話。
もれなく登場するヒーローズが壊れています。どうかご注意を。

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