:突然だが年少HERO達が○○しました:
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 虎徹は駆けた。

 アポロンメディアの所有するとある施設にある一室を目指し、駆けた。
 額から流れる汗が目に入るが、それすらかまわず駆けた。
 表情には拭いきれぬ焦燥がある。
 呑めり込むような勢いで虎徹は駆ける。
 数日前に見た、無残にも倒れ臥す仲間達の姿を思い出し――――虎は駆けた。






「みん、ブべぇっ!?」




 部屋に飛び込むやいなや、なにかが虎徹の顔面ストライク。
 耳を掴まれ完全ホールド。ついでに気道も十全ホールド。
 どうにか倒れるのは阻止できたが、それまで走り通しだったことも手伝って見る間に虎徹の顔色が酸素不足で赤黒く変わる。


「タイガー、タイガー、タイガー、タイガー、たいがぁ!」
「ずるい、ずるい、ずるーい!」
 顔面にひっついたものがやけに嬉しそうな声を上げている。
 足下で何かの跳ねる気配もするが、今はそれどころじゃない。

(死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ――――ッ!?)

 酸素の行き届かなくなった体が痙攣する。
 へばりついたものを引きはがそうとするが、腕にも何かがしがみついていて動かない。
 さらに無理に引きはがそうとすれば驚異的な握力をもってして耳が引きちぎられそうになる。
 ぐらぐらと脳が揺れる。瞼の裏でお花畑が見える。
 その真ん中で、マッドベアに囲まれやけにさわやかな笑顔でこちらに手を振るジェイクがいた。



 ――――お前そんなキャラだったっけ?

 やたらなれなれしいジェイクに手を引かれかけた所で――――視界が暗転した。





「何やってんだ、おい!」
「やー!」
「ぐふぁあっ!」



 その場で膝をつく。肺が活動を再開する。急激に流れ込んできた酸素が咳と涙とよだれを誘発する。いつもは何とも思っていない空気がうまい。
 涙でふやけた視界の中で、アントニオにひっつかまれ「何か」がばたばたと暴れていた。


「やー! ハナしてよ! タイガーのとこいくのー!」
 高く響く涙声に、虎徹は幼い頃の愛娘を思い出した。
 ああ、そういえばもっと小さい頃の楓も、よく「怖い夢見た……」ってこんな声でベッドに潜り込んできたなぁ。
 今は「添い寝してやろうか?」なんて言おうものならクッションとか椅子とかタンスとかが飛んでくるけれど……。


「たいがー!」
「うごっ!」
 思い出の世界に浸りかけていた虎徹の腹に、衝撃。
 こみ上げる吐気を堪えつつ何だ? と思って下を向けば、枯れ草色のわしゃわしゃしたものが腹にこすりつけられている。
 さっきからいったい何なのか。
 状況について行けず全身から盛大にクエスチョンマークを飛び散らせながら立ち上がった虎徹は、「それ」を眼前まで抱き上げ――――絶句した。





「たいがー、だっこー」
「うおおぉおおおおええええええええええええ!? ぱ、パオリン――――!?」



 手の中に無邪気な笑顔をしたヒーロー仲間のドラゴンキッドことホァン・パオリンがいる。
 ――――ただしその姿はマッドベアサイズ(よりちょっと大きめ)にまで縮小されていた。



「パオリンが縮んでるー!?」
 ヒーロー達の中で一番小柄な少女だが、今は小柄とかそういう話じゃない。
 小脇に抱えて誘拐にも便利なお手軽運搬サイズ。
 よく見れば、アントニオの手の中で暴れているのも小さいカリーナ。
 二人を交互に見合わせた虎徹はさらに絶叫した。


「何だ!? どうなってんだ!? 女の子って年頃になったら縮むのか!? どうしよう、楓が縮んだら――――新しい服とデジカメとアルバム千冊買いたさねぇとッ!」
「――――バカねぇ、アタシがお年頃の時もこんな事なかったわよ。いいから落ち着きなさい」
 縮小パオリンを抱きしめて混乱必至の虎徹の頭を、ネイサンが軽く叩いて正気に戻す。
 よく見れば部屋にはネイサンだけでなくキースもいた。
 見慣れた顔に、それでも混乱は収まらない。


「おい、これどうなってんだ? 俺、バニー達が大変なことになってるってだけ聞いて……」
「私が説明しよう」
 口を開きかけたネイサンをそっと押しのけると、キースが前に出た。
 KOHの申し出に、ネイサンも素直に身を退く。
 真剣な顔でこちらに視線を合わせるキース。
 虎徹も自然、表情を引き締める。



「まず――――残念ながらコレは現実だ」
「ちくしょうやっぱりか! どうせなら夢とか幻覚とか俺にしか見えない妖精さんとかだったらよかったのに!」 
 世の中それほど甘くはない。 
 ひとしきり世の無常を嘆き叫んだ後、ある事実に気づき不惑を前にしていながら虎徹は大いに戸惑った。
「え、じゃあこいつらは……?」
「簡単に言うと先日のHEROTVの企画で壊滅させた犯罪組織から保護したNEXTの能力によって彼らは縮んだ。以上、そして終わりだ」
「本当に簡単に言ったな! ――――って事は、あれか? "あの時"のか……」






 思い返すのは先日の企画――――優秀なNEXTを子供の内から誘拐、飼育し組織の駒にしようとしていた、通称"NEXT牧場"と言う下衆という言葉では足りないような最低最悪の組織をぶっつぶした時のことだ。
 途中分断され、虎徹達年長組は組織の人間、及び粛清にきたルナティックとの戦闘を、バーナビー達年少組は浚われたNEXTの保護を担当した。
 組織のほとんどは能力を持たぬただの人間だったため制圧は簡単に終わったが、厄介なのはルナティックだった。


 敵の捕縛、ルナティックからの保護、あわよくばルナティックの捕獲も考えていたが、当然簡単に話を進ませてはくれなかった。
 パニックに陥り逃げ惑う敵を庇い、何度あの灼炎が身を掠めたか。
「ひどい……そして実にひどい戦いだった」
 キースがその時の有様を思い出し、痛ましげな顔で首を振る。
 思い返す間、虎徹は以前つけられた傷を無意識になぞった。



 どうにか敵を安全な場所まで誘導し、ギリギリルナティックを退けた所で一同は年少組の不在に気づく。
 捕まっていたNEXTの大半は保護されたが、まだ足りない。
 急ぎ残りのNEXTがいるはずの地下へ向かった一行が目にしたものは――――瓦礫の中、薄青く発光しながら一人立ちすくむ少女と、それを取り囲むように倒れ臥すヒーロー達の姿だった。





「女の子は保護され、現在NEXTの扱いに詳しい病院の中。バニー達もすぐ搬送されて……どっこも何ともなかったはずだよな?」
「その通りだ。しかし、今日になって突然、そして一斉にこうなった」
 時間差攻撃。あるいは時限爆弾を思わせる能力だ。
 アポロンメディアお抱えのNEXTに詳しい医者などに診て貰ったが、分かったのは彼らが心身共に幼児退行を起こしていること。能力は何も失われていないこと。そして、この状態がいつまで続くのか分からないと言うことくらいだった、ということだ。
 例のNEXTの少女だが、現在自我を喪失しており取り戻すには今しばらくの時間がかかるという。


「つまりなにか? 医者が解決法を見つけるか、あのNEXTの子が教えてくれるかするまで、パオリン達はこのまんまなのか?」
「私はそう聞いている」
 沈痛そうに呟くキースから視線を移せば、ネイサン、アントニオもまた痛ましげに眼を伏せたり首を振ったりした。カリーナは相変わらず暴れていた。


「そんな……」
 それ以上言葉を失う虎徹。
 抱きしめたパオリンは何が楽しいのかきゃっきゃとはしゃぎっぱなしだ。
 何も分からぬその姿がまた、哀れを誘う。
 親御さんの胸中を思えば、同じ人の親として頭が重い。
 腕に抱いたパオリンの頭を撫でながら、虎徹の中にある父親の部分が今後を憂う。
 同時に、ヒーローとしての部分が首を傾げた。
「なぁ、うちのバニーちゃんやイワンは? あの時確か、二人もいたよな?」
「あの二人もしっかりちゃっかり縮んでるわよ」
 折り懸く美味しそうに育ってたのにもったいない!
 ネイサンが身をくねらせ嘆くのに若干引きつつ、虎徹は周囲を見渡す。
 ネイサンがいる。その隣にキースがいる。その後ろにアントニオがいる。そのアントニオに抱かれてプチ般若がいる。
 しかし相棒も後輩もいない。


「まだ検査かぁ?」
「いいや。ちゃんといるよ」
 キースがにっこり笑って指摘した。




「ワイルド君の頭の上に」
「いつのまに――――ッ!?」




 さっきから頭が重かったのはこの冗談のようなと言うか冗談であって欲しい現状に頭痛がしたから……などという繊細な理由からではなかったらしい。
 本当にいったいいつの間にいたのだろう。
 帽子とサンドイッチされる形で、小さくなったイワンが虎徹の頭にへばりついていた。


「にんぽう・ぼうしがくれのじゅつ!」
「隠れてない! 隠れきれてない! 尻も頭もその他諸々も隠れきれてない!」

 至極満足そうに、そして得意げに虎徹の頭に頬ずりするイワン。
 対抗するように、腕の中のパオリンがその小さな手で虎徹の胸にしがみつく。
 抵抗するように、アントニオの腕の中でカリーナがことさら強く暴れる。

 ちょっとしたモテ期到来。ただし相手は幼児。素直に喜べない。
(どーせ子供にもてるんなら何より真っ先に楓にもてたかったなー……)
 楓、お父さん今日も頑張ってます。だからたまに帰った時服は別々に洗ってくれなんて言わないでください……。
 人の夢と書いて儚いとは、けだし名言だと父親業失格ヒーローは嘆く。
 うなだれ黄昏れていると、上下から視線を感じた。
 目を開ければ、頭の上からイワンが、腕の中からパオリンが泣きそうな顔をしてこっちを見ている。




「たいがー、どしたの? おなかすいたの? ボクのおやつあげる?」
「どこかいたいいたいですか。あたまですか、おなかですか。ぼく、いたいいたいのとんでけします!」




 大人組のだれかがくすり、と微笑ましそうに笑った。
 それぞれ「らしい」励ましの言葉を受け、タイガーも苦笑する。
 理由がどうあれ、大人が子供達のまえで不安な顔をするのはよろしくないだろう。
 虎徹は安心させるようにイワン、ついでパオリンの頭を軽く撫でた。

「ごめんなー。おじさん、ちょーっと考え事してたわ」
「かんがえごと?」
 猫のごとく気持ちよさそうに目を細めながら、パオリン。
 頭の上でイワンも首を傾げる。
「あのなー、みんな揃ってるのに、バニーちゃんだけいないのおかしいなーって……」
「バーナビーさん、いますよ?」
「えぇっ!?」
 不思議そうな声のイワンに驚きをかえす虎徹。
 辺りを見回すが、先ほどと同じく部屋の中は大人組くらいしか見あたらない。
「ずっとずーっといますよ、バーナビーさん」
 イワンが続けた。





「タイガーさんのおしりのところに」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!? 気づかんかったー!!」




 首をひねって後ろを見れば、確かに尻に見慣れた金髪がへばりついている。
 部屋に来てから腰が重いと感じていたのは、年のせい……という否定したい理由からではなかったらしい。



「誰か教えろよおぉ――――っ!?」
「いや、普通気づくでしょ」
 ネイサンが当たり前だと突っ込む。
 虎徹はどうにかバーナビーを引きはがそうとするが、先ほどのカリーナ同様驚くべき握力をもってして腰から手を離そうとしない。
 あげく高速で頬ずりされて背筋に言いしれぬ怖気が走った。


「いやあぁっ! 離れろ! 離れなさい、バニーちゃん! おっさんのケツの感触なんか味わったっていい事ないだろ!!」
「コテツさんのおしりはもはやげいじゅつひんです! コテツさんのおしりはぼくがまもります!」
「今まさにお前から攻撃受けてんだけど!?」
 対象(尻)に目をつむりさえすればせっかくの格好いい台詞も、鼻息の荒さとよだれで台無しだ。
 にっちもさっちもいかなくなって、虎徹は頼れる親友・アントニオに助けを求めた。




「おぉい、アントオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ氷柱花ならぬ氷柱牛――――ッ!?」
「えっ? ああ!? ロックバイソン君が!?」
 手を出しあぐねていたキースも一緒に悲鳴を上げる。



 ――――親友がいたはずの場所に、巨大な氷のオブジェが出現。
 中には花や宝石ではなく、ヒーローが――――アントニオが閉じ込められている。




「なんで俺よりピンチになってんだよ! アントおぶぅあっ!?」
「タイガーのバカー!!!」



 親友の元に駆け寄ろうとした瞬間、突然音速で砲弾が腹部に命中した。衝撃に足が滑る。
 とっさにパオリンを肩にあげ砲弾から避難させた自分、GJ。と自画自賛する間もなく砲弾は容赦なく腹部に刳り込もうとする。
「ばかー! なんでハンサムばっかりかまうのよー! わたしだってかまってよお!」
 砲弾――真の名をカリーナという――が抱きつき、腹にぐりぐりと頭をなすりつけ怒鳴る。
 よく聞けば、声が涙でにじんでいた。

「あたらしいきょくおぼえたのに。ドレスもカワイイのかったのに。ヒーローも、コワイのがまんしてがんばってるのに。なんでバイトさききてくれないの。なんでハンサムばっかりでこっちみてくれないのー……」
 ベストにしがみついた小さな手が震えている。
 腹に暖かいものがじわりと滲んできた。

「カリーナ……」
 まさかカリーナがそんな事を考えているとはまったく思っていなかった虎徹は一瞬ためらった後、よく手入れされた髪を梳き、撫でた。
「ごめん。ごめんなぁ……おじさん、鈍くって。でも、カリーナが頑張ってるのは知ってたぞォ……」
 えらいえらい。
 何度も優しく、ゆっくり頭を撫でる。
 カリーナが顔を上げた。
 普段ならばけして見ることはできないだろう、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を、不思議と汚いとは思わなかった。

「みてたの……?」
「うん」
「しっててくれたの?」
「ああ。カリーナのおかげで、何度も助けられた場面もあったしな」
 ありがとう。
 気持ちを込めてもう一度髪を梳く。
 すると、さっきまでの泣き顔が一転。
 まばゆいばかりの笑顔を見せ、再び虎徹の腹に縋り付いた。
 いいなぁ! と肩の上でパオリンが無邪気に羨む。
「タイガーさん、ボクも……」と頭の上でイワンが控えめに主張する。
 バーナビーが――――バーナビーが?




「……あれ?」




 コテツは自分の状態にようやっと気づいた。
 さっきまでの腰の重みが消えている。
 うつむいている訳でもないのに、視界に自分のつま先が見える。
 手が床についている。
 何か尻が温かい。





「バニイイイイィィィィちゃああああぁぁぁぁぁぁああああんッ!?」
「今度は何が――――バーナビー君!?」


 虎徹の絶叫にアントニオを看ていたキースの慌て声が重なる。


 なんとカリーナに襲撃されすっころんだ拍子に、虎徹はバーナビーをヒッププレス。
 中年男性の尻と床に挟まれ、あわれ相棒はノシイカに。





「うわぁ! ごめん、バニーちゃん!」
 慌てて跳ね起き、潰れたバーナビーを抱き起こす。
「おい、大丈夫か!? どこも怪我――――」
「ぼくらのぎょうかいではごほうびです!」
「すっげぇ鼻血ィィィィィッ!? やっぱどっか打ったんだ! 担架! 医者! 斉藤さあああぁぁぁぁああああん!!」





 鼻血の海に沈みながら幸せそうに気を失うバーナビー。
 それを抱きかかえ慌てふためく虎徹。
 虎徹の頭から決して離れないながらも気絶したバーナビーを案じるイワン。
 何があったかよく分からず、ただジェットコースター気分で動き回る虎徹の肩にしがみつきはしゃぐパオリン。
 抱きかかえられたバーナビーを忌々しげに睨みつけながら、とりあえず鼻孔を凍らせ応急処置してやるカリーナ。
 さらにミニマムヒーローズごと虎徹を姫だっこし、医務室へ駆け出そうとするキース。
 以前凍ったままのアントニオ。




 しっちゃかめっちゃかに混乱する部屋の中、アントニオを炎で溶かしてやりながら一人冷静にネイサンは呟いた。



「――――いいかんじにカオスねぇ……」



 その呟きに賛同できるほど、余裕のあるものなどこの部屋にはいなかった。

あとがき

とりあえずおじさんが愛されてりゃそれでいいよをコンセプトに、年少HEROを○○してみた。
相も変わらずおかしなバニーちゃんしか書けません。
これ続きます。
実は設定に元ネタあり。

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