青空の下、並盛町に
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あぁ、やっぱりだ……。 目に飛び込む青空を見上げながら、ツナは思った。 あぁ、やっぱりだ。やっぱり最後はこうなるんだ……と。 ――――熱に理性を飲まれながら、聞こえるはずのない恨み言を"現実"に向かって吐き捨てた。 ――――齢一歳にも満たない赤ん坊でありながら何人もの愛人を抱え、挙句の果てに世に知られた殺し屋というトンデモ設定のリボーンがやってきてから、ツナの平凡な生活は予想外に次ぐ予想外で破綻の一途を辿っていた。 主な被害者は"常識" ツナが何年もかけて養ってきた常識や良識は、規格外の家庭教師によってモノも見事に蹂躙、破壊された。 あり得ない話である。本当にあり得ない。 いや、こんな現実、あってはいけない。 なので、ツナは自分の中に遺ったありったけの常識と理性をかき集めて、叫んだ。 「人間は空飛ばねーッ!!」 その常識をあっさり覆し、牛柄シャツの伊達男は爆風をお供に青空へと吸い込まれていった。 「ご無事ですか、十代目ー!!」 遙か後方から土煙を上げて走り寄る犬――――もとい少年は、青ざめ固まるツナの前で急ブレーキをかけた。 さっきの爆風と一緒に青空へと吸い込まれた心が、鼻先をくすぐる煙草の臭いに舞い戻ってくる。 "人間は爆風によって空を飛べるか?"という偉大な実験を成し遂げた張本人が、心配と怒りを微妙な加減でミックスした表情で顔をのぞき込んできた。 「申し訳ありません! 俺がセンコーに呼ばれている間に、あんな牛ガキに好き勝手させてしまって……っ!!」 小奇麗な顔を歪めながら、必死にツナの手の甲をハンカチで拭う獄寺。 皮膚がズリ剥けそうなほど真っ赤に擦られた手の甲は、つい先ほどまで牛柄シャツの男――ランボの唇が触れていたところだ。 学校から家への道のり。珍しくひとりぼっちの帰り道で、ツナがランボを見つけたのは全くの偶然である。 いったいどう言ったわけか、電柱の影で体を覆うほど大量のスズメにつつかれていたランボ。 なぜかどう言ったわけか、こういうイジメにあいやすい子供は、いつものようにぐぴゃぐぴゃ泣き喚いていた。 ランボさんは強いんだぞーとか言葉の通じないスズメ相手に必死に説明していたが、鼻水垂らしながらだったので説得力はない。 しばらく呆れてその光景を見ていたツナだったが、どこから取り出したのか五歳児の手には余るほどの重火器が握られているのを見て慌てて走り寄り――――。 次の瞬間、爆発する白い煙に視界を奪われた。 (アイツ、またやりやがった!) 舌打ちしたい思いでゆっくり目を開けたツナが見たモノは、先ほど鼻水を垂らしながら泣き喚いていた子供などではなく、どこか気怠げな雰囲気を身にまとわせた少年であった。 「これはこれは、ご機嫌麗しゅう、若きボンゴレ十代目」 先ほどの"十年バズーカ"によって呼び出された十年後のランボは、気障の上に気障を塗り重ねたような笑顔で挨拶をしてくる。 ツナは引きつった顔でそれに答えた。 毎度毎度思うのだが、この女たらしな笑顔標準装備の少年と、学習もしなければ反省もしない子供が同一人物だとは思えない。 ツナは時の流れの偉大さ加減を改めて胸に刻み込んだ。 「まいどまいど大変だね、ランボ」 呼び捨てにすることに若干の違和感を感じながら、ツナはねぎらいの言葉を掛ける。ランボは緩く髪をかき上げ、笑った。 「お気になさらず、若き十代目。オレはアナタに会うためでしたら、いつどこにいようとも馳せ参じますので」 別に、ツナがここにいたのはまったくの偶然だし、ランボが呼び出されたのは現代の自分のピンチを救うためだと思うのだが……。 そうつっこもうとあげた片手を、ランボが突然握りしめた。頭に疑問符を浮かべてツナはランボを見つめる。こっちを見つめ返すランボの目は、なぜだか熱に浮かされているかのように潤んでいた。 そしてランボはそっと、羽がふれるかのように優しく、持ち上げた手の甲へと口付ける。 「えと、ラン……」 とまどいに揺れるツナの言葉を、ランボは真剣な顔で遮った。 「五分間だけなので手短に言います。若きボンゴレ。オレは十年前からアナタのこと……」 ――――ランボが言えたのはそこまで。 続きは爆発音によってかき消された。 いったい十年後のランボが何を言いたかったのか、ツナは分からない。 ただ一つ分かっているのは、十年後のランボが何かを言いかけた瞬間爆発で吹っ飛ばされるのがこれで五回目だという事だ。 今回ももしかしたらと思っていたのだが、獄寺は今日生活指導の教諭に呼ばれて放課後居残りをさせられていたのでよもや現れるとは思っていなかった。 「獄寺君、参考までに聞くけど、何でここに……」 「十代目の俺を呼ぶ声が聞こえたもので!」 いや、呼んでないし。 ツナは心の中でつっこむ。 だいいち、学校からここまでだいぶと距離がある。よしんばツナが獄寺の名を叫んでいたとしても、聞こえるわけがない。 だが、獄寺の幻聴癖は今に始まったことではないので、ツナはつっこまずにおく。 イタリアから規格外マフィア(関係者含む)が大量輸入されるに従って、ツナのモットーに"触らぬ神に祟りなし"が追加された。 なのでつっこむ代わりに、途中で抜け出してきたのであろう学校へ戻るよう促す。 普段から素行の悪い獄寺のこと。今回の件でまた教師に悪い印象を植え付けたのでは、学校生活がやりにくくなる。ひいては、四六時中くっつかれているツナもとばっちりを受ける。 そのことをなるべくソフトに、簡潔に説明してみたのだが、獄寺は何を思ったかにっこりと爽やかな笑顔で、 「大丈夫です! 生徒指導室にダイナマイトばらまいてきたから、今頃爆破されて跡形もないっすよ!」 「なにそれ、根本的な解決になってないー!!」 戻る必要はなし! と親指を立てて得意満面な獄寺に対し、ツナは紙のように顔を白くさせて絶叫した。 ついにやりやがった、この男。 とにかく何でも爆破すれば解決すると思っている節のある獄寺だが、一応これでも学校の成績はいいし、想像力(を通り越えて妄想力)もある方だ。 そんなことすれば、公共物破損の他に、もしかしたら殺人罪まで加わるかも知れない事が、どうして想像できないのだろう。 ことツナが絡むとイノシシもびっくりの一直線バカぶりを発揮する獄寺。罪の意識を全く感じていないのは、彼がマフィアに囲まれて育ったせいか。それとも地か。 「ごごごご、獄寺君!」 「はい!」 獄寺の胸ぐらをつかんで、ツナは青ざめた顔を近づける。対する獄寺は、名前を呼ばれていたくご機嫌に返事をした。なんだか構ってもらって喜ぶ犬にも見える。 ツナはそんな全く今の状況にそぐわない微笑ましい幻覚を振り払うと同時に、大きく息を吸い込む。 「な、」 なんて事するんだ。 そう声を張り上げ問い詰めかけた、まさに刹那――――獄寺の顔が視界から消えた。 |
あとがき
別名「とりあえずツナが受難に遭っていればそれで満足だよ」シリーズ。
管理人の中で獄寺とはきっと人間ではないんですよ。
「右腕」という生き物なんだと思います。