Help×2
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――――アタシは神様なんて信じちゃいない。 だって、信じても祈っても縋っても、神様は助けてくれなかった。 神様なんていない。 いもしないものを信じて、縋って、そして結局失望するなんて、馬鹿のやることじゃない。 だからアタシは信じない。神様に助けてもらおうなんて思わない。 ……だけどね、今回ばっかりは信じてみてもいいと思う。 と、言うか。 ――――神様でもなんでもいいから誰か助けて! そろそろ働き者のおかみさん達がカマドに火を入れ一日を始めようかという朝のこと。 ルーティは困っていた。 宿の一室で、ただひたすらに困っていた。 いつもは明晰な脳も、なぜか今ばかりは空回りに次ぐ空回りでロクなことなど考えられず、体に至っては全身をがっちり拘束されて文字通り手も足も出ない。 そう、ルーティは拘束されていた。 あわてふためくルーティの心境などお構いなしの様子で睡郷に浸る、仲間のスタンによって――――。 始まりは本当にいつもの朝だった。 朝、いつまでも起きてこないスタンに業を煮やしたルーティがドアを壊さんばかりの勢いで部屋へと侵入。 その後ミノムシよろしく布団にくるまったままのスタンから、毛布を奪取。 怒声一発、アイシクルの何発かお見舞いしてスタンを眠りの国から引きずり戻す。 これがいつもの手順。 しかし、今日に限ってちょっとした計算違いが発生した。 ルーティが延々惰眠をむさぼるスタンを襲撃し、毛布を奪い取ったところまではいつも通りだ。 だがしかし、その後眠ったままのスタンは思わぬ反撃に出た。 忿怒するルーティの腕をつかんだかと思うと、凄まじい力でスタンはルーティを布団へと引きずり込み、拉致した。 当然ルーティは大いにあわて、スタンの戒めから逃れようと暴れる。 しかし、髪を引っ張ろうが頭を殴ろうが、耳元で怒鳴ろうがスタンは全く動じずただ太平楽にイビキをかくのみ。 ルーティは焦った。こんなところ、宿の人間にでも、いや、仲間にでも見られた日には死ぬまでからかわれるか、嫉妬の炎でこんがりローストされるに違いない。 ルーティはあがいた。あがいて、あがいて、あがいて――――それでも腕の拘束はゆるむことなく、がっちりとルーティの腰にからみついている。 ルーティはいい加減怒鳴り続けて痛くなった喉に手をやりながら、スタンをにらみ据えた。 まったく。まだ一日は始まったばかりだというのに、なぜこんなにも疲弊しなければならないのか。 それもこれも、すべて目の前で太平楽に眠る田舎者のせいだ。 「あぁ、生意気。何であんたはそんなにノーテンキなのよ」 腹立ち紛れに鼻を抓んでひねってやれば、それでも起きることなく眉根を寄せてフガフガと苦しそうな顔をする。 なんとも言えない間抜けな面構えに、ルーティは少しだけ溜飲を下げた。 「あんた、ほんっとよく寝るわよねー。なんか、牛みたい」 聞こえるはずもない皮肉が口をつく。 やはり聞こえていないらしいスタンは、夢の中で何か食べているのかただ口をむにゃむにゃ動かしながら、実に幸せそうな笑顔を見せていた。 眠りながら笑えるなんて、なんて器用なんだろう。 ルーティの口元にも、思わず笑みが溢れる。 そういえば、旅を続けてずいぶんになるが、こうやってスタンの顔をじっくり見ることなど無かった。 間近で見るスタンの顔は、意外と整っていた。 髪と同じ金色の眉毛は綺麗なそりをしており、不揃いながらも反り返ったまつげは女性でも滅多にお目にかかれないほど長い。 かといって造形に女性らしい所などはなく、あくまで男性的なもの。 だらしなく緩みきった薄い唇は安らかな寝息をこぼし、ほどよく日に焼けた頬には、どこでつけたのかうっすらと刀疵が残っている。 今は閉じられているものの、真夏の雲一つ無い空のように見事な青い瞳を、実はとても気に入っていた。 「何考えてんだろ、アタシ」 ルーティはスタンの寝顔から視線を外した。 いったいどうしたことだろう。 普段のルーティなら、スタンをいくら凝視したところで、こんなにも胸が高鳴ることはない。 なのに、なぜ今日に限ってこんなにも心臓がどきどきして、顔が赤くなるのだろう。 これではまるで、普通の少女のようではないか。馬鹿馬鹿しい。 ルーティは少しでもそんなことを考えた自分が腹立たしくて、情けなくて、そして少しだけ嬉しかった。 「バカスタン。ワラ頭。田舎者。万年睡眠魔。三文剣士」 思いつく限りの蔑称を呟きながら、ルーティはまたスタンの鼻を抓む。 いつまでもバカをやれる仲間でいたいと思う反面、この胸の内に隠し込んだ本心に気がついて欲しいとも思う。 かといって、何もかもさらけ出すには、ルーティはあまりにプライドが高すぎた。 「三流マスター。バカ。間抜け。アホ。鈍感。……鈍感」 本当に自分は何をやっているのだろう。 恨み言を呟くのもいい加減空しくなって、ルーティはスタンの鼻を抓むのをやめた。 最後に一つだけ。小さく一つだけ。 「バカスタン……いい加減気づきなさいよね」 これくらいの弱音なら許してくれるだろう。 ルーティはスタンの胸元へ頭を預ける。すると、縋り付いたのと同じタイミングでスタンが身じろいだ。 すわ、起きるのかとルーティは泡を食ってスタンの腕から逃れようとする。 だが、スタンはルーティの体をしっかり抱きしめたまま、あまつさえ頬すりしてきた。 はじめに拉致された時よりも数倍慌てながら、ルーティは暴れる。 しかし、それでもスタンの戒めは解けない。 そのうち意識が浮上してきたのだろう。 スタンはぼんやりと薄目を開けた。 固まるルーティ。いまだ遠い夢を見ているような視線のスタン。 やがて、スタンはルーティの背中を一撫ですると、空ろな声で一言。 「……リリス――――太った?」 ルーティの中で何かがはじけた。 ――――それは清涼なる朝のこと。 街の片隅にある小さな宿屋が、鬼神のごとき少女の罵声と悲しいほど狼狽えた青年の悲鳴と共に全壊、崩壊。 まっさらになった跡地には、なぜか氷付けの青年が取り残されていたと言う。 |
あとがき
五周年連続更新企画作品。
コレでもスタルーと言い張ります(笑)
スタルー結構好きなんです。
ゲーム中、チャットで、
ルーティが「髪伸ばしてみようかなー」って言うのがあったんですけど、
それがモロツボに入って……。
あと、スタンの「田舎帰る」発言に慌てるチャットもツボ。
かわいーなー。るーてぃ、かわいーなー。
ちなみに、以下コレの別バージョンを手短に。
ごらんになりたい方は反転してください。
ルーティ縋り付いたところでフィリア乱入
↓
フィ「ご、ごめんなさい!」ル「ちょ、まって!」
二人慌てる。フィリア去る。誤解、確実に生まれる。
↓
ル「なんでこうなるのよー!」
結構ありがちなネタですね(笑)
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