君は無慈悲なご主人様。
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「最近、中等部の生徒会長と仲がいいようだね」 担任のウッドロウにそう言われ、次の授業の準備を手伝っていたスタンはきょとんと眼をむいた。 一瞬、誰の事かわからなかったが、続いてリオンの事と思い当たる。 そういえばよく昼休み、中等部の生徒会室で昼食を共にする為、生徒会役員だとは思っていたが、よもや生徒会長とは……。 考えてみれば知り合って一ヶ月しかたっていないのだ。 知らない事がたくさんあったって不思議ではない。 (……その割には、アイツ俺の事よく知ってるよな) ついぞ疑問に思わなかったことまで、考えてしまう。 「よく、教員の間でも話題になっているんだ。あの生徒会長にもやっと友人が出来たのか――――とね」 笑うウッドロウ。 対するスタンは、 "友達なんかじゃありません" なんて口が裂けても言えるはずなく。 「あ、はははははー」 ひとしきり笑って誤魔化したあと、軽く溜息をついた。 ――――最近溜息が増えた気がするのは……気のせいではあるまい。 二人が出会ったのは、一ヶ月前の満員電車でのこと。 この日、スタンは生まれて初めて痴漢にあった。 よく、痴漢にあった女性が声も上げられずただ震えるしかない、というのを聞いた事があるが、まさか自分も同じ状況に陥るとは思いもよらなかった。 ただし、スタンの場合は恐怖というより、驚きに声が固まったという方が正しい。 怒りが頭を掠めた時間は、短かった。 その次に襲ってきたのは、圧倒的な快楽。 振り払おうにも、体は始めて他人から与えられる快感を欲して動かない。 いつ周りの人間にばれるとも知れない状況のなか、スタンの内で理性と本能がせめぎあい、とうとう理性が折れそうになった時。 目的の駅の一つ前。 無理やり手を取られ、構内のトイレに連れ込まれ――――気がついたら目の前の少年の手の中へ、白濁を吐き出してしまっていた。 そのさい、放心したあられもない姿を、携帯に撮られ、言う事を聞かなければネットに流すと脅迫を受けた。 恐慌状態に陥ったスタンに、少年は自らの身分を名乗り、こう続けた。 「今日からお前は僕の奴隷だ」 「遅い」 昼休み。 弁当片手に全力疾走で向った中等部生徒会室でスタンを迎え入れたのは、椅子にふんぞり返った偉そうこの上ないリオンだった。 いつもどおり、まわりには誰もいない。 スタンは遠慮なく、床に膝をついた。 「お、お前なぁ……」 こっちは二時間連続の体育が終わって、ダッシュで棟の違う中等部までやってきたと言うのに、この態度はあまりに無慈悲過ぎないか。 「ここまでどんだけあると思ってる!?」 「怒れる元気があるのなら大丈夫だろう。さっさと食事にするぞ」 「お前なッ!」 「写真」 「――――っ!!」 抑揚の無い声でウィークポイントをつかれ、スタンは奥歯を噛み鳴らしながら、それでもだるい体に鞭打ち従った。 食事の間は、たいてい二人とも静かだ。 中等部と高等部。離れているせいか話題が無い。 趣味だって、好きなテレビだって、ましてや好きなタイプの女の子だって、何一つ共通するものが無い。 ただそれでも、スタンは時々話題をふる。 生徒会室は特別教室ばかりが集まっている棟にあるため、めったな事では生徒は近づかない。 校内放送も、リオンの独断で生徒会室だけ回線が切ってある。 静寂と言うBGMは、弁当の美味さを半減させる。 だから、たとえ相槌が無かろうと、話題が無かろうとスタンは喋り続けた。 これも奴隷の務めなのかと思えば、なんだか泣けてくる。 (――――だいたい、俺たちのどこが仲良しなんだ?) 何度目かの、会話ではけしてない大きな独り言の後、スタンの頭につい数時間前に交わした、担任との会話が蘇る。 まったく接点なんて無い、すべてリオンの脅迫から生まれたこの関係。 もしも、あの朝がなければ、おそらく彼のことなど知らずに、スタンは学校を卒業してしまっていただろう。 (――――そうか、卒業すれば、切れるんだよなぁ) そう思えば、儚きかな人の縁。 しかし、卒業までの歳月を指折り数えたスタンは、そのあまりの長さにどっぷり灰色の溜息をついた。 食事が終われば、後はもう自分の教室に帰るだけだ。 ――――少なくとも今まではそうだった。 「――――で、なんでこうなるんだよ」 体がのめりこみそうなほど柔らかなソファーに腰掛けて、スタンはぼやいた。 その膝の上には、見たくも無い顔が平然と乗っかっている。 食事を終えてすぐ、「眠い」と呟いたリオンは、本人の都合など尋ねようともせず、スタンに膝枕を要求した。 「――――生徒の見本となるべき生徒会長サマが、授業サボったりしていいのか」 「バカか、お前は」 リオンは、寝転がったまま髪をかき上げた。 「この僕が、たかが授業を一、二時間エスケープしたくらいで成績を落とすとでも思っているのか?」 「俺はどうなんだよ!俺は、お前ほど頭がよろしい訳じゃないんだぞ!」 「お前なんかがたかが一、二時間授業に出た所で、成績が上がるわけじゃないだろう。お前の頭は今で打ち止めだ」 しらりと言い放たれた暴言に、スタンの頭にたちまち血が上った。 「言ってろ!俺は、お前が何と言おうと授業に出るぞ」 「逆らうのか」 リオンがゆっくりから体を起こす。声のトーンが下がった。 「お前は、いまだに自分の立場が理解できていないようだな」 「なんだよ……いうこと聞かなきゃ写真で脅せばいいって思ってんのか!?そうそう言うとおりになんかならないからな!」 今日と言う今日は堪忍袋の尾が切れた。 リオンがケータイで脅すと言うのなら、こっちは力ずくでも奪い取って阻止してみせる。 体格差がある分、こっちのほうが優勢だとスタンは踏んだ。 リオンは、今にも吠え掛からんばかりに睨みつけるスタンをしばらく見つめると、なんだか哀れみの篭ったような溜息を吐いた。 「学習能力が無いな」 「大きなお世話だ!」 「しかたない。悪いのはお前だからな」 聞き終わる寸前、突然体が浮いた。 「デッ!?」 頭をソファーの肘掛に打ってしまい、スタンは呻いた。 痛みの走る後頭部を撫でていると、リオンが腹の上で馬乗りになっている。 リオンは、スタンの顎の線を指でなぞると、 「しつけの悪い犬にはお仕置きが必要だな」 そう言って、見る者に戦慄を覚えさせる笑みを浮かべた。 とたん、スタンの顔から血の気が引いて。 「ちょ、まて!冗談だろ!!」 「この状況でジョークだと思えるなんて、改めてお前はよっぽどの大物なんだな」 大物なんていわれたって嬉しくない。 スタンは渾身の力を込めてリオンを振り払おうとした。 しかし、耳の裏をべろりと舐められて、力が抜ける。 「痛くは無い。ただ、意識は吹っ飛ぶかもしれないけどな」 さっきまでの『力だったら有利』と言う考えが、ガラガラと音を立てて崩れてゆく。 スタンはひくつく喉で必死に声を上げた。 「まて、まって!」 「プロレスじゃないんだ。躾にタイムなんてあるものか」 「うわあぁ〜ん!!」 とうとう泣きが入ってしまうものの、それで止まってくれるほどリオンが優しいはずも無く、かえって気分を煽ってしまったようで……。 (あ、明日こそ……明日こそこんなばかげた関係終わらせてやるー!!) もう何度目か分らない決心を胸に刻み込み、抗うスタンの腕から力が抜けていく。 遠く聞こえるチャイムの音なんて、もうどうでもよくなっていた。 |
あとがき
リク内容は
『リオスタで学園モノ スタンが高校生でリオンが中学生くらい』
おくれにおくれて申し訳(ジャンピング土下座)
多少エロ目?なお話に仕上がりました。
タイトルにセンスが無いのはいつもの事。
ちなみに舞台設定は、『双月宮学園(TOP)』のつもりで書きました。
なんか、あんまりにもラヴ度が少ない……(反省)
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